誰もいないのに
春日線香

床に寝そべって本を読んでいて
なんとはなしにうしろが気になる
真っ黒いもやのような男が
扉の陰に立っている気がして
おそるおそる振り返ってみても
当然誰もいない
誰もいないのに
誰かが扉の陰に立って
包丁を手に持っている気がする
鋭い刃を振りかぶって
首にずぶっと刺してくる気がする
誰もいないのに
この家にはもうずっと
わたしさえもいないのに
誰かが床に寝転がって
首を刺されて死んでいる気がする


自由詩 誰もいないのに Copyright 春日線香 2015-10-01 12:23:58
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