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まだ五月
夏とよぶにはまだはやい
いったい何がはやいのだろうか
汗をながした数なのだろうか
暦の数字のことなのだろうか
はやる気持ちの焦りだろうか
けれどもう
それはもうそこ ....
この世界が滅びても
僕の世界はある
人間がいなくなっても
僕はいる
一本の枯れ木のように
一輪の花のように
そして君もそこにいて
僕を見つめている
何のためかも知らずに
きらぎらしく耀へる湖面 滑る浮き舟
流れのまにまに 身を任せて
絡む水草を 押し分け行けば
彼方に見ゆるは 安土城
{ルビ古=いにしえ}の戦さに 敗れし{ルビ武士=もののふ}の
御霊眠 ....
真昼の草原 翼をたたんだ君と
ありふれた恋人同士のように 会話をする
光と戯れ 砂丘から届く風を浴びて
深呼吸する君の 胸の膨らみを見ないように
僕は普通を装う
ふたりは普通を装う
....
雨に濡れたアスファルトに
並木のみどりが映っている
言葉に餓えた人たちが
傘に隠れて哭いている
雨は涙に良く似ている
昼は処刑台に良く似てい ....
オーディオの世界は異性や酒や賭博とは
較べ物にならない程 のめり込めばのめみ込めほど
留まることのない私財を投入してしまう
そのひとたちはオーディオを製品と呼ばず作品と呼ぶ
そう呼ぶひとの ....
感情や感性の揺れ とは
どこから来るのだろう
恋はするものではなく
落ちるものだという
それに似た感覚
視覚から入った言葉は
意思を持った生き物のように
あた ....
アチッ
二日酔いの朝
朝靄に包まれた意識の森で
突然発火するのは
昨夜の記憶の欠片
アチッ
酔いにまかせて
自分のてのひらとあしうらに
醜く刻まれた皺を
語ってしまっ ....
いつからだろう
戦わなくなったのは
リングコングはもうならない
15ラウンドもたないな
ダメージがきつくなる
簡単な平和主義
もたなくなきてる肉体も心も
チガウンダヨアンタノソノ ....
運動場の
トラックを
規則正しく走る
小学生達
まるで
回遊する魚のようだ
こんなに小さいときから
命令されるままに
同じところを
何度も
何度も
回っていて
誰一人として
....
ゾワゾワと
海馬の駆ける
血の赤褐色の波がしら
しんとした
頭蓋の裡側
静かに発火して走る
小さな電気が
波立ち奔る
細胞たちの星のようにのびるあし
太古のものらさえ ....
優しくされたかった
愛して欲しかったし
贔屓して欲しかった
石ころは尖ったまま
この心臓に到達する
終わらない天幕が何層と襞に重なり
それでも演出家は起き上がろとしない
俳優の耳元で小さく囁いた
(そろそろ終わりにしようか)
三幕は途切れたままでいいのか
このままずっと眠らせてやりたい ....
さわれないことば
冷えてゆくかけがえのなさ
いつもとぎれてしまうモチーフ
あたたかいスープもないテーブルでは
君の影がゆらめいてみえる
ほんとうは君の髪にふれていたかった
ゆびがい ....
蝶のくちもと
触れる予兆
硬い草色
舐め取るふるえ
粉にまみれた異母兄妹を
泡のように飲み干して
こぼれた光
夜の 市街
皆のところに行けない犬
噴水 ....
僕の人生は
一本の折れた樹
それでもその折れた箇所から
新たな花が芽吹くかもしれない・・・
そうしてそれは嵐の抵抗に打ち勝って
この世に清々しく咲くのかもしれない
人間は負けて始めて
美 ....
優しさを見て育ったから優しくなった
厳しさを見て育ったから厳しくなった
それなら俺は何も見てこなかったんだ
誰からも気にもされない透明人間だが
愛した女が一 ....
ある用事があって久しぶりに
母校の大学の図書館を訪れた帰り坂
どこかから何かを燻らしている様な
芳しいとも苦っぽいとも想える
懐かしいような想い出したくない様な
薫りが否応もなくぼく ....
ひらり おちる
消しゴムのかす
えんぴつを研いだ時の
木の破片
真っ白なノートに書きなぐった
たくさんの言葉たちが
笑う 泣く 笑う
書いては消した 小さな唄
ちっ ....
木々が風に揺れている
甘いだけじゃない新緑の香り
輪郭のない幽霊みたいな緑いろ
こころの美しい象さんのようだ
木々から逃れられずに身もだえている
それを見つめることを ....
母の日がすぎて
枯れるしかないカーネーションが
花屋の奥に隠れている
ありがとう も
ないよ ね
今さら
なんでもない日に
ぼさっと訪れて叱られようか
母にとっての子供でいた ....
ここにあるのはただのがらくた
偽物で繋ぎ止めた
僕の透明な城
見える奴にしか見えない
はりぼての城
僕はそこでしか呼吸ができない
僕はそこでしか物が見えない
僕はそこでしか声を出せな ....
優しかったからキスをした
激しかったから抱き合った
気移りしたから首を絞めた
温かかったから抉り取った
それで一生私の物になった
ボロボロの毛布を子どもの頃いつも持ち歩いていた
それは僕にとって母であり祖父であり分身だった
手放したのは中学の時で好きな子ができたから
今大人になってあの毛布の ....
{画像=120514020301.jpg}
幼い日
五月五日
かしわもちが右手の親指にからみつく
ふわふわした髪
大きな耳
口元に大きなえくぼがあった
一瞬の喜び
木の床に ....
確かに歳はとったよ
正直に言うなら老いたのかも知れない
からだは正直に歳月を投影する
そりゃ60年も酷使してきたんだ
無理をすれば音も挙げる
死にかけたことだってある
でもぼくの精 ....
お母さん。喉乾いてませんか?お金は大丈夫ですか?
私は元気です。
初めて貴女への感謝が溢れた時、24歳の時でした。
命がけの出産、私の優柔不断の魂が、貴女を難産にさせてしまった。
....
車椅子の母の髪をカットした
チョキチョキ ハサミで切りそろえる
黒い髪より 白髪の方が多くなったね
わたしは 母が年を取って授かった
上には 年の離れた兄弟たちがいて
望まれないまま ....
古本のあいだにみつけた四葉のクローバー
これをはさんだのはどんなひと
幸福をひとつ逃したのかなあ
それならかわりに僕がもらっておこうか
きみの幸福の受信感度は良好かな
太陽にはいま怪物級 ....
さくらんぼの花が咲いている
うっすら目を閉じ微笑んでいる
ソメイヨシノのような艶やかな色香はない
浮世を忘れようとその下で酒宴を張る者もいない
白く清楚なその花は
....
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