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あたしの母親の両脇腹には
あずき色に腫れあがった
おびただしいインスリン注射の痕がある
あたしの母親は重度の糖尿病で
両眼は白内障で目が見えない
向かって右目は
塩焼きにしたあ ....
真夜中、終電逃してて、窓辺にふいにうかんだ顔、
なんだかもう、流れていってしまいそう、ごめんね。
切りとってみていたい、街あかり、ぼやけた雨の真ん中を、
すこし行きすぎてます、降ろしてください、 ....
何かを食べる。
咀嚼する。
ばりばり、
見えない何かは消えていく。
(求めてはいけないよ、自然にかえればいい。)
そう肩を撫でられても、
わたしは雑踏の海を
溺れながら ....
くろい満月が
手のひらに浮かんでいる
あたしの腕はあなだらけだ
あなのうえを歩いている
面接にいくまえに
立ち寄ったスターバックスの
本日の珈琲の黒いあなに
あたしはすいこ ....
「生きて 在る」 ということを想えば
やはり不完全だ
「生きて 在る」 ただそれだけでは
感じ 考え こうして思念で交信する以外
何もできることはない
私たちはどんな姿をしているのか
....
刃で
切った左手
痛みが、
手から背中
脳髄に達するまでの
みじかい時間
はじめて、
檸檬の酸っぱさを
知った。
左目がつぶれていく
顔が崩れそうになる味
....
あなたを焼く炎は
煙さえ立てることなく
空に消えて
後には
黒枠の中で
ほほえむあなただけが
残っている
空に
光りの砂
さざめき
大地に広がる
夏草の波
....
傘をさす手を奪われるほど
僕は何かを持ちすぎてはいない
縦書きの雨
カーテンの雨
通話中を知らせる音の雨
改行の雨
鉄柵の雨
液晶に、雨
こんなにも雨にまみれた世界 ....
赤いマジックで
なまえを書く
書いても書いても
なまえは「名前」にならない
それどころか
書くほどにぶれて
水面をおよぐ魚の尾になって
ぴしゃり
血をはねる
はねら ....
梅雨雲のような光が降っていた
無菌室で少年が手を振っていた
映画監督が映画で役を演じていた
刑事がこどもに名前を聞いていた
PLUTOのゲジヒトは船越英一郎だ
神が行 ....
海底に網を下ろして
引っ張りあげながら
己の魂をコントロールする。
海が顔を変える。
荒くなる水面。
*
あなたのなかで
裸になりたい。
リズムになって
....
〝おれは頭はいいが狩りは苦手なんだ〟
ジェンマは呟いた
〝誰にだって得手不得手があるってもんさ〟
同じ年に生まれた若い狐たちからは
「下手くそジャンマ」
「まだ一度もうさぎを捕まえたこと ....
戸棚の奥からでてきた何のものだかわからない古いリモコン
我が家ではときどきあるのだこういうことが
ためしにあちこち押してみる
わずかな振動が空気を震わせて
とつぜん世界が半壊
するわ ....
とうに手放したものを
いつでも
たぐりよせられると
隠し持っていた
古びた
麻紐
年月に擦り切れては
いない
乱れる思いに
捩れてもいない
さっぱりと乾いた紐の先には
....
夜はうなずく
耳を覆うものは無い
まぶたはうなずく
無音を示す
標にうなずく
紙を捻る
底は深い
骨は痛む
轢かれかけた
指は痛む
白く小さなス ....
夏が透ける雨の隙間
渇いた紫陽花が
雨を、乞う
ひとり、は飛べる。
ひとり、は鳥だから。
ふたり、は飛べない。
雨のなかに手を伸ばすと雨姫の声が聴こえる、
きゃっきゃと笑いながら、
誰かをダンスに誘っている。
眠ったままのこどもが浮 ....
パンジー
ビオラを上手く咲かせるコツは
なんといっても
花がら摘みを
怠らないこと
種を作ると
花は終わる
種に養分をとられるから
咲き終わり
萎んだ花を
直ちに摘んで ....
熱帯夜に
惑わされて腐乱した睡眠から
止め処なく垂れ流れるゲルは
黒い卵を内包していた
寝息が言葉に染まって
過去の幻像を描くとき
醗酵したゲルは悪臭を放って
野を枯らし 街 ....
知り合いに似た形の雲が
空に浮かんでいて
その人の名前は
とうに忘れてしまった
ミシン目で切り取られた海が
安売りされている商店街を抜けると
賑やかな駅前に出る
駅前 ....
談笑のなかの
ひとさしゆびと
おやゆびが
こんがりあげられた
チキンナゲットを摘まむ
バイ菌にまみれた鶏肉
中国の工場で
床に落ちた鶏肉や
期限の切れた鶏肉で
....
そばにいることは
叶わなくなったのですから。
煙草とレモンスカッシュを
傍らに置いて作業をするわけです。
形にこだわるのは
どうか、とも思いました。
大切なのは気持ちで
モノを用意するだ ....
おにぎりを握るてのひらで
詩を書いた
いつか
おにぎりのように
なるように
卵はひとつの理想形だ
人間もまた卵から生まれれば
これほど母親との確執に苦しむことはない
乳と血の繋がりはどんな病的恋情より
互いを束縛しその愛は動物並に遠慮がない
その点 卵は完璧だ
無 ....
履き古したデニムみたいなものよ。
女は常に革命家でありたがるのに、男どもは傷みを畏れるから、
ダメージの向こう側の下着の色ばかり気にしすぎている。
ともすれば飛び込んだ池に失踪していく感情。 ....
やはり雨は
雨を招んでしまった
風の無能
鏡の前の
左脚の羽化
鳥が降り
見えなくなる
くりかえし降り
陰を ふくらませる
鏡の前で倍になり
曇 ....
雨が降ってきた
それに加えて午後からは
槍まで降ってきた
雨が降ろうが
槍が降ろうが
必ず行くよ
と言っていた友人は
終に来ることはなかった
窓を開けると
代わり ....
――風よ
木の葉をさざめかせ
やさしく掻き乱し
花房にそっと触れ
散り際へと誘う
子猫の背を撫でるよう
湖の面を煌めき立たせ
風 おお風よ!
おまえが気まぐれに ....
私たち親子の手を見比べると
娘の手は白くて 細くて
張りがあって美しい
私の手は皮膚が薄くなって
血管が浮いて見える
やはり手には年齢がでるね
真面目なだけが取り柄で
洒落っ ....
元カレのTシャツで牛乳拭いている
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