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薄くにじむ曇天に
陽は破れ
私たちは歩く
口の尖った犬を抱えて
濃い実の残る柿の梢に
風をぶら下げて
風の飛び去る松の林に
大きな瞳を棲まわせて
薄くにじむ曇天に
陽は動かな ....
わたしが眠れないとき
眠れないことを
わたしは
よく噛んでいる
わたしが眠れないとき
曲がった中指の先の届く距離に
耳の史蹟を
置く
わたしが眠れないとき
花花が群青色の香り ....
昼下がりの雨の中で
ザクロが割れる
唇に指を立てて
ぼくは泥を踏んで歩く
それから 傘を振る
とても暑かった(その部屋は)
死にゆくものも
生き行くものも
ひどく暑い
後ろの席で ....
白金の雲が天球を流れ
大きな波はぽちゃぽちゃと音を立てて
わたしたちは海を見下ろす小高い丘陵の
点のような椅子に腰掛けていた
腰掛けて
水平線のあやうい空気の色をなぞりながら
ゆっくりとテ ....
路上
たぬきが死んでいる 今日
のどを空に見せて
堂々たるもんだ
左右に列なす車の真ん中を
雲を逆さに見下ろして
脇腹を少し赤く割って
動かないで
見に行こうぜ いっしょに
....
玄関を出ると黒い靴ひもがほどけて
夕暮れの空が広がった
垂れ落ちた靴ひもの先に
老婆がつかまっていた
ぼくはほどけたひもを結び終えて
伸びをする
高く 大きく
今日の夕焼けの売れ行き ....
冬の終わりです
雪です
女を埋もらせています
深さ九十センチ
春ともなると
シャベルがやってきて
雪を掻いたり
女を掻いたり
シャベルも
女も
シャベルも
女も
みんな ....
水をお飲みなさい
と
彼女は言った
黄昏の重い扉の手前に立って
指先をしっかり伸ばして
振り返りながら
水をお飲みなさい
と 彼女は言った
この町は
たっぷりの水が流れていく町だ ....
わたしのかわいい人
眠っているのか
死んでいるのか
肩だけで息して
しわを数えて
わたしのかわいい人
雨空はきらいだって
雨空が切れて
切り口に青空が光るから
それだけでぼくは雨 ....