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今日は始めてのインターネット
僕は少し舞い上がっていた
期待と不安のなかでパソコンが
回転音とともに起動していく
マウスを上手く操れるだろうか
兄の話では乗り回すのに
時間がかかる生き ....
日めくりカレンダーを
まとめて捲るように過ぎる
感傷さえ許されぬ日々
疲れた旅人の
マッチ棒のような細い足
先を急ぐ大きな目
アリのように小さく
ゾウのように大きく
い ....
まだ幼い車掌の
ポケットの中で
紙の羊は
長く生きられない
かつては命の一部として
穏やかな日の光を
浴びていた気もするけれど
めー、と
ひとつ小さく鳴いて
もう誰に
....
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朝の路地を職場へ急ぐ早歩きの足元
細い暗渠のコンクリートの隙間から
若草色のトゲ玉がコロンと生えている
思わず足を止めて眺めてしまう
無彩 ....
りんごの木の下で
静かにさよならがバイバイしていた
りんごの木の下で
れいぞう庫を不法投棄する
落ちたりんごが冷えるように
お前はアップルツリー酸素を吐き出す
爆竹を鳴らしても気付 ....
雷が ガリガリと鳴って
コップを グニグニと 洗ったので
菜の花を 見に行ったのだった
ねえ 菜の花を 見たこと ある
たくさんの 菜の花よ
いちめんの 菜の花よ
歌にも あるのよ
....
ブラシに絡みつく抜け毛と空っぽのペットボトル
切れた糸がぶら下がった窓べで
一心に爪を縫う
板に書かれた言葉は私
縫いとめられた糸は黒々と指と指をつなげて
道を通り過ぎてい ....
金魚だった
時の記憶がよみがえる
透明な水の中で
息をしながら
その向こうに
白い建物が見える
人だった
時の記憶がよみがえる
わたしは今
どちらなのかわからない
夢 ....
床
いっぱい 散らかしたビー玉
転がしてはじいて
赤いのひとつ なくしちゃった
甘い甘いハート形のチョコレートは真白なお皿に安置済み
で
また 転がして はじいて
青いのが そこに
....
砂浜からおーいと呼ぶけれど
友だちはもうみんな遠くへ行ってしまった
かもめかと思っていたら
船だったので
白い帆はどんどん小さくなって
水平線の向こう側へ
目的地が ....
小さな塵が蒸気を集めて
やがて雨になっておちてくるように
僕の小さな悲しみを
あなたが優しくくるんでくれるから
ほら
こんな簡単に泣けるのを
僕は雨のせいにしている
やるせないとは
どんな気持ちだ
胸の高さまでの柵から
少し乗り出して
空を仰いでいるのか
柵の欄干あたりで
透明度の高い水が
溢れそうに張りつめながら
....
今日も一日誰とも話さずに終わってしまう
仕事柄何十本もの電話をこなし
お昼には職場の友だちとランチなんかしたけど
それで誰かと話したってことにはならない
パソコンの電源落として
机のまわ ....
少女は紙を丁寧に折り
いびつな筒を作りあげた
彼女はそれを器だと言う
満足げに頷いて
人差し指に口づけた
指で器の底を擦っては
また人差し指に接吻
水が漏れないように
続いてゆくた ....
砂を
体中の空いてる
穴に詰めていく
埋め立てた人工の砂浜の
ほつれたぬいぐるみが
さみしそうに息をしている
「あなたのコドモを産むよ」
と笑い
雨上がりの
草いきれで肺一杯にして
....
庭先にすずめたちがいて
すずめのてっぽうが生えていて
猫は砂利の上に寝転がって
ぎい、と蛙の声
ベルギー流の燗つけビールを飲もうか
中国流の人肌ビールを飲もうか
いや今日は
常温の日本酒 ....
氷の中では
時間も止められるし
欲しい物はいつでも
手に入れられるという
人類の傲慢だと
私は子宮で考える
若く清らかなうちに
冷凍保存が義務化されて
いつでも安全かつ確実に再生さ ....
どうしてこう
脈絡がついてしまうのだろうか
昨日みた夢は
いまはもうない実家の建物が舞台で
ベランダに猫が三匹いた
うわあおぎゃあうわああああ
この家の主人は病気かいと訊ねれば
うわあお ....
むっとするような草の匂いをかぎながら
僕は雨を待っているんだ
こんなふうに湿った空気の朝は
何だか楽しくてしょうがない
もういいかい
まあだだよ
ほら向こうで呼んでる声がする
....
水を降りていく
やましいことなど
何ひとつない
深夜、もういない父の
容態が急変した気がして
親戚を探しに出かける
栞のように
水槽が鳴ってる
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掴まり立ちする息子を支え、
私に振り向く妻の肩先に思い出す情景がある。
思い出すとあの日私は
父親の傲慢な仕打ちに猛然と腹が立ち、
押し入 ....
ピンク色の海が束になって襲いかかる。
週末に、自転車で見た
青空のうしろで、まだら模様になっていた。
緑の岸壁が、コブのような波を受け止めて、
ピンクをばらばらにしていた。
濱にはサメが打ち ....
膝に水をためた
母は手術で水を
抜いてもらった
肺に水をためた
父も手術で水を
抜いてもらった
誰にでも
水がたまる
時がある
人は誰もが
抜いてしまいたい
水を持っ ....
「少しだけ泣いてもいいですか?」
あなたは細い声でささやく
そしてやっぱり止めようと
小さく肩をふるわせている
「きょうはずいぶんと湿った空です」
たしかに昼間吸い込んだ蒸気を
....
水のために
夜は流れるので
その最下流
海が見えるあたりにはきっと
朝がある
朝のために
水は流れるので
その最上流
泉が湧くあたりにはきっと
命がある
そうして
....
おにーさん おにーさん どうしたんですか?
失恋でもなさったんですか?
世界中の不幸を背負ってるような しけた面してますねぇ
そんな顔して黄昏れてたって モテないままですよ
「 海パン ....
本屋へ行った帰り道
公園に入った
ぐるっと公園を囲んだ木が
濃い影を作っていて
意外に温度が低い
真夏の午後二時で
誰もいない
セミがやかましい
水飲み場のあたりは水びたしで
....
あさ
台所に行くと
涼やかな甘い匂いがする
桃の季節だ
ダンボールの中で
熟した実が醗酵している。
触ると
産毛が密かに暖かい
桃を手にした私に
おかあさんが声をかける。
―― ....
蜂の巣が近いらしい
家の裏山の方へ行くと
飛んでいる蜂と ぶつかりそうになり
私も蜂もあわててよける
洗濯棒の近くの花の中で
仕事中の蜂も時折いるけれど
そっと ぱたぱた 洗濯物をかけ ....
ら ら ら という文字が
いつのまに薄れゆく
都会の空です
と ほ ほ という文字が
滲んだ墨汁の雨雲となり
黒いにわか雨の降りそそぐ
21世紀のTokyoです
黒 ....
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