雨 いつのまにか
静かな吐息のように
染まりはじめた黄葉から
ひとつ ふたつ しずく おち
{ルビ中空=なかぞら}はしっとりして
往くトンボたち
ゆるやかに すこし乱れて
....
この風を知っている
そんな気がするのは
夏を生き延びた生き物たちすべてが
その手をつないでいるからかもしれない
地球のどこかで生まれて
地球を何億回も旅をして
悲しみの涙を流す人のほほ ....
ー年を取るとはこういうことか7ー
若者よ ズボンをはくとき
ベッドに腰掛けなくても履けるか
家中の者が畳の上で生活していた頃から
立って履くのが常だった
布団の上で寝転 ....
剥ぎたい
もしくは
突破したい
この皮を削ぎ落として生まれ変わりたいくらい
直立不動に酔いたい
頼もしかった諸刃を振り回していた鏡の世界に
会い ....
写真撮りたる係百物語
通販サイトのタイムセールを見るたび
欲しいものリストが増えていく
ぽっかり空いた穴は満ちやしないのに
毎晩電話越しに幾つもの愛の言葉を
君だけには贈ってきたというのに
詩を書いて欲しいなんてどうして言うのだろうか
僕が作詞苦手なのを知っているくせに
空、雪、虹
命、死神、桜
そ ....
よごれた皿を洗うことはたやすくできる
こころを洗うことは容易ではない
精神のよごれが頂点に達して
いつもこわれっっぱなしの回路をさらに脅かす
どこの惑星で治療をうけたらよいのか
基本 ....
それはとても柔らかくて静かな日だった
わたしは視力を失いかけている母の目を治すことのできる医師が
この地にいると聞いて はるばる この地にやってきたのだが
偶然にも その夜は、祭りの日 ....
一人のタマシイ
踊り廻る幻覚のなか
独り在ること 瞑目し
漂う秋の甘やかな香に
愛の繋がり失いながら
一年の時が過ぎたこと
両手のひら打ち合わせ
澄んだ響きの木霊
耳傾け区切り ....
悪びれることもなく時は捲れ
ゆるゆると確実に老いてゆく
胸に立ち込める冷たい霧
晴れる間もない
季節より早く深まったあなた
色づく言葉が黙々と
忘れ去られた詩人の墓を覆う頃
斜陽に目を細 ....
出前また出前百物語かな
百物語すべてとけきっている
独房の堀で羽を休めるアゲハ蝶
憐れみの蜜を吐き出す
黒い光沢に光りが反射して
影だけ先に飛んでいく
十七歳の部屋では少女が
明日を憂えていた
それでも敏感に影を捉えて
不意に彼女 ....
私から、
なにかが抜け落ちている。
そんな気配がして
足元を見ると、
枯れたことばの欠片たちが
犇め ....
眠れない未明に
仕方もなく起きだして
ふと開けた引き出しから
懐かしくて熱いものが
彼女がのこして
そうするしかなかったままの
断片がみんな
雨の雫色をしてる
それらは歌で
....
海が見える新興住宅地
まだ買い手のつかない広い区画には
イタドリ ススキ タンポポ
何処からともなくやってきた
柳や白樺の若木も生え
地面は覆い尽くされることもなく
盛り固められた土が腐 ....
こだませる言葉を決めて登山口
しりとりのルの出てこない登山道
空に向け背骨を伸ばす登山口
ことばの奥底にある
私の声が聴きたい。
そう扉を開く時にいつもあなたはいない。
なかないで、
なかないで、
あなたはいつ ....
さびしさに疲れました
まちがえて産まれて
お母さん 申し訳ありません
父さん ほんとにごめんね
なかったことにできないことが
こんなにかなしいことはない
どうしたってもたぶん
骨はの ....
虫の音は過去から届くメッセージ紐解きながら浅い夢みる
つかめばするりと逃げてゆくとかげのしっぽに似た夜だ
まだら雲見ている猫の背中にもまだら雲がひとつぽっかり
朝起きて歯医者の予約を ....
ししゅう、
死臭を漂わせることばを、
書いてみたいと、
手を伸ばしたそこは
暗闇が続いていた。
私たちは一列になって、 ....
公園のベンチに座っていた
そよ風が恋人のように寄り添っていた
古いノートの中で
ことばは悶えた
それとも窮屈な服を着せられて
詩がのたうち回っていたのか
その時ひとひらの蝶が
記憶に ....
プラナリアに 出会いたい
永遠の命だというプラナリア
世界が黄砂に なぶられて
沈鬱が大陸を覆い 海洋にも降りた
人は みみずのように
スマホのなかの情報に生きる術をもとめ
無数の出口 ....
水時計に溶けていた
血液の雫があって
時計の器の外には
一枚の翼が堕ちている
静かな痕跡がある
誰しもの夢のなかで
真夜中にも時間を報せる
いっぱいになった
聖なる水時計は
透明な水 ....
何処にも見つけることは出来なかったはずだ
そう訴えているかのように
私の視覚を証言台に立たせ尋問する
画家であれば画材は其れまでに蓄えてきた感情の十色
上手く言葉を塗り付けようとするが
もう ....
炎に出合うと体が勝手に近づいていく
この習性を
人間に気付かれたのはいつだったろう
夏の水田に灯火が点いて
人が居るかと思えば炎だけ
どれだけの仲間が焼け死んだことか
人間にも似た ....
おそらくもう夏は行ってしまったのに
夕刻になると
埋葬されない蝉がうたう
取り残されるということは
ひとつぶの砂のような心地
苦いさみしさだろう
――さいごの一匹になりたくないのです
生 ....
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