海のきぬ擦れが耳を攫う
だれかに名前を呼ばれた気がしたから
水の色が碧から黒に変わるころに
海豚のやさしい瞳を胸に抱えて
こっそりと{ルビ宙=そら}に顔を出してみた
鳥の嘴が白の甲羅を遠 ....
左手の
見えなくなり始めた傷
手首の辺り
親指の辺り
よく探さないと見つけられないほどの傷
もちろん痛みはない
この手を噛んだ犬は
今頃どうしているだろうか
人間に飼わ ....
こんなそらは
ボクには痛い
優しすぎて
こわくなる
抱きしめた感触
サヨナラのすべて
思い出して
こわくなる
こんな
羊雲は
すべてを
守るために
命を守るために
君は
戦う
君は
英雄
かっこいいね
心壊れた
大切なものを
踏みにじられた
悲しむことも
知らない
己が
汚されるのも
恐れない
奴は
悪魔か
死神か
刃物で
人を斬り
滴る血を見て
薄く笑う
....
誰も
信じたくない
誰とも
話ししたくない
顔も見たくない
全てが
うそ臭く
見えて
全てが
きたなくて
大人というものが
信じられない
傲慢に見える
卑怯に見える
....
ゆっくりと赤ん坊に返る
その人をわたしは知っている
夫の祖父だ
わたしを、「大きな女だ」と言った、祖父だ
いつも戦争の話をする、祖父だ
布団の上でお絵かきをしていた、祖父だ
初めて ....
あなたは
この道を
ふたりで歩こうと
言ってたのに
嘘つき
でも
嘘つきは私
そんな日がくるなんて
信じてないのに
微笑んで
頷いたのだから
ここが好き
机と本棚の少しの隙間
すっぽりはまって
ほっくりゆったり
ここが好き
縁側に干した布団の上
ぽかぽか陽気に
閉じたまぶたで
視界はオレンジ
ここが ....
自分に向けた
自分を壊す 自分を穿つ
攻撃的な感情
首からさげた
危ない正義 追い込まれてく
後ろ向きな感情
勇気が足りなかった
....
ただ星が瞬くだけ
それだけなのに
ほろろん ほろろん
君が泣いているかのよう
僕も瞬くよ
ほろろん ほろろん
黄昏色の空の果て
ひとりっきりの帰り道
誰を待っていたのだろう
誰を探していたのだろう
電信柱の長い影
淋しいようと風の吹く
黄昏色の空の果て
家路をいそぐ鳥の群れ
どこへ行くとい ....
その夕方は
台所のテーブルに
向かい合って座り
母は
きんぴらにするために、ごぼうを
笹がきに削いでいた
わたしは、その灰汁で黒くなった指の先、手を
目の中に映し撮りながら
小窓か ....
憎しみはとうに消えた…
生まれたときからずっと一緒だった
風は今も冷気をたたえ、凍えそうにして
私は待つ あなたを待っている
かつて野を覆った炎の残骸
黒く、さらに黒く焼け焦げた ....
着古したスーツに袖を通し
素知らぬ顔して電車に乗る
むかし嫌悪した満員電車
今ではそれすら感じない
仕事ばかり上手くなって
順調にマシンに近づいていく
利益と効率化が行動原理
また君 ....
明日、青い鳥が
素敵な未来が待っていると告げても
私は、信じない
だってキミには羽があるから
気が変わったら
どこかへ飛んでいってしまうでしょう?
だからといっ ....
なだらかな坂道を
だらだらと歩いている
なさけない言葉たちを
だらしなく発しながら
なまめかしい誘惑には
よだれを垂らしている
なよやかにしおれているふりをしている
なんとなく日 ....
わたしはね
あなたの見方なんて 決めたじゃない?
わたしはね
あなたを信じるって 決めたじゃない?
あなたは
色んな場所から言葉を見つけ出し
色んな色や模様を付けて ....
秋を潤わす金色の木立は
この時季、配色に惑うのです
茜色に染まった夕陽は
黄熟した稲穂を金色に光らせ
時を刻む砂時計に全てを託した
ざわめきと胸の鼓動は止まらない
....
生まれてすぐに言葉を食べた
降る雪のように冷たい言葉
それは小指の爪のように
やわらかく甘く
そっと僕の心臓に住まった
なんだか涙が出そうで
手のひらを握ったりしていた
つぼみが ....
赤い靴を履いて
待っているの
もちろん
異人さんを
水面は
揺らめいている
でも
その下は
沈殿して
何かが蠢いている
今にも出てきそうに
だから
誰か助けてくれないかな
異人さんじゃなくてもい ....
『あの山の向こうにはなにがあるの?』
『自分でいってみないとわからないんだよ』
旅立ったのは
幼い時分からの
憧れだっただろうか
眼下に広がる世界を
言葉 ....
{引用=玉子の親じゃ、ぴよこちゃんじゃ、ぴっぴっぴよこちゃんじゃ、アヒルじゃぐぁーぐぁー。}
(一)
「兄ちゃん、コイツをくんねぇ」
カーバイトランプに照らされた
みか ....
初めて会う人の顔の真ん中に
或いは胸の真ん中に
おへその辺りに
とにかくその人の中心線に
隙間がないかどうか
確かめる
それは
ある時はボーリングの球くらいの大きさだったり
ある時は米 ....
・
掃除をすると
部屋の四隅から
無限に白い米粒が出てくる
表面は乾いて
埃にまみれて
まるで
昔わたしが産み落として
そのまま捨てた卵のようだ
・
遠くに見えるラブ・ホテルの ....
生きる意味について
考える事ができる
食べ物がないのなら
飲む水がないのなら
意味など考えないだろうに
明日生きることだけを
考えるだろうに
自分の中の本能に忠実に生きるだろ ....
重たいよ、重たいよ、と稲が鳴ります
生まれるよ、生まれるよ、と栗がもうすぐ妊娠八ヶ月です
うーーん、と心地よい秋風に、晴天が背伸びをします
ぐう、ぐう、と魚の雲を見たわた ....
祭りの夜は渦巻く貝殻
空はずっと青かった
水の流れをずっと聞いていた
草を噛むとたちまち苦みが
口なかに広がって 星が銀河が
水のように押し寄せて来る
あれは
ケンタウルスのきら ....
じゃぐちをひねったら
鎖骨から流れ出ている
それはスウェットのしずく
水のように ろ過されて
気高い指で曲がったスプーンの
枝と枝をつなぐ
わたしの
鼻骨(けして高いものではなく)
....
無心でキャンバスに 筆をはしらせる貴方を
私はそっと見ていました
貴方に見つめられた林檎からは
つやつやとした淡い光と微かな香り
独占される幸福を身にまとい鮮やかに輝く
「終わったよ」 ....
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