みずたまな くりりん まんまるね ふるるん はじけてみたのは
わたしの中の あなただった
どこへもゆける ぷりずむの 軌跡 のこして
夜に開いた
隙間を
埋めるように
雨の旋律が
耳に届いて
孤独にいる者の
遊び相手と成りはしないだろうか
滴の奏でる音が
たった一人の為の
優しさとなって
降り注いで
あなたは雨 ....
不愉快な覚醒が
北寄りの強い風で更に増して
両手の無意識がコートのポケットを探す
ひんやりとした裏地や
捨て忘れた入場券に
指先は触れているが
今はそれより風から逃れたい
月 ....
遥かに遠くに満ちてゆく、夢のような泡立ち。
その滑らかな円を割って、
弱くともる炎。
最後のひかりが、睡眠薬のなかに溶けてゆく。
みどりで敷きつめられた甘い草原。
潤沢なみずをたくわえて ....
この手に触れてはいけない
この手は世界をつかむ手だ
この手は大きなことを成し遂げる手だ
おまえを抱きしめるためにあるんじゃない
この手に触れてはいけない
この手に触れてはいけない
この ....
傷口のガーゼを剥がすことさえもまだ躊躇いて君は研修医
春は黄色いバスに乗ってやって来る
嬉しそうな顔
不安そうな顔
いろんな笑顔を乗せて
春は黄色いバスに乗ってやって来る
わくわくするね
どきどきするね
もうすぐ春がやって来るよ
....
曇り空のむこう あおい あおい たまり
切れ切れになって揺らいだ想い出を抱きしめて小さくなった
今日の日は もう 帰らない
早朝の廊下でふいに逢いし君嬉しくもあり恥ずかしくもあり
想う気持ちを 何処かへ 忘れてきたから
小雪
憧れていた
女なれば
柔頬を航路する濁点の嬉し悲しは
夜空に浮く月の肌をなぞる想い
男なれば
砂漠に自慢のカルテを撒き
参り舞うその蒸気ゆえ
消え浮きて触れてくる音は母の心音
それはそれとし ....
寂しがり屋がどうしも
すきになれなくて
プイッとしてしまうから
気が付くと
わたしが寒い
満月と
見つめあう冬の夜は
ばかだった恋を思い出して
ため息をつく
そんな
無駄そ ....
夜は海
街も時間も
何もかも飲み込んでしまう
私の体も海の底
静かに息をしている
夜空の星たちは海に沈んだ金貨
海賊たちに盗まれぬよう
あんなに高いところにある
ああ もうすぐ夜明けだ ....
暗闇で君のことばかり考えおり手術終わりし深夜の病室
稜線を背にして風は下りてくるので
もしかしたら 空を飛べるのではないかと お日さまに相談をしてみました
雲は優しい羽根を残して行ってくださるのですけど
序章
薄くけむる霧のほさきが、揺れている。
墨を散らかしながら、配列されて褐色の顔をした、
巨木の群を潜ると、
わたしは、使い古された貨幣のような森が、度々、空に向か ....
一瞬で恋に落ちたりこの歳までときめき知らず生きて来し吾が
満たされた月が
静まる夜に息をかけ
澄みわたる気配は
、まるで水の中
地に影おく木々の枝先は
水草のように揺らめきたって
浮かびあがる山の稜線で
青さを図る
私は膝をかかえ
天を ....
月の上るころ帰る人の忙しな 夕暮れは
ぼんやり
痛む人を 背にして
病み果ててストレッチャーに横たわりし吾に君が差しだしし優しき一言
こわいのです
この果てしない草の海が
どこまで行っても地平線しか見えて来ない
この世界が私はこわいのです
風がびょうびょうと吹き荒れる草原のただなかで
私はひとり立ちすくんでいます
絡 ....
1
鎖骨のようなライターを着火して、
円熟した蝋燭を灯せば、
仄暗いひかりの闇が、立ち上がり、
うな垂れて、黄ばんでいる静物たちを照らしては、
かつて丸い青空を支える尖塔が ....
“私らしさ”も“信念”も“生き方”も
自分自身の存在さえ
体調一つで変動(かわ)ってしまう
私って何? 私って何?
最後には体が終わって
無くなってしまう
私って何 ....
暮れかかる
陽の手は伸びて
居ならぶ雲を
染めあげる
夜の扉をひらくため
灯された
あかりのように
瞬き、
という行為の
間に間に見える
人と人を結ぶ
曖昧な影
「優しさ」 ....
1 眠り
朝の眩暈のなかで、
一日の仕事を終えて、疲れ切ってから――、
職場に出かけても、
そこで、わたしにできることは、
只、泥のように眠ることだろう。
(そこには、青い灯台が、 ....
1
夥しいひかりを散りばめた空が、
みずみずしく、墜落する光景をなぞりながら、
わたしは、雛鳥のような足裏に刻まれた、
震える心臓の記憶を、柩のなかから眺めている。
(越 ....
蒼い海峡の水面に、座礁した街がゆれる。
煌々と月に照らされて。
わたしが走るように過ぎた感傷的な浜辺が、
次々と隠されてゆき、
閉ざされた記憶の壁が、満潮の波に溶けて、
どよめいては、消えて ....
唇噛んできみは
嘘つきだね
本当は泣きたいくせに
街灯りに雨は白く煙って
アスファルトに伸びた
影を揺らしてる
黙ったまんまで
何を見てる
何を探してる
言葉に出来ない
夜 ....
1
十二月の眠れる月が、遅れてきた訃報に、
こわばった笑顔を見せて、
倣った白い手で、ぬれた黒髪を
乾いた空に、かきあげる。
見えるものが、切り分けられて――。
伏せられ ....
1
寒さが沸騰する河岸に、沿って、あなたの病棟は佇む。
粉々に砕けた硝子で、鏤めている実像が、
剃刀のような冷たい乳房のうえに置かれる、
吊るされた楽園。
顔のない太陽は ....
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