金木犀の花を瓶に入れ ホワイトリカーを注ぐ
ひと月ほどして 香りも色も酒に移った頃
金木犀の花を引き上げる
その酒は 甘い香りをたぎらせ 口に含むとふくよかな広がりを持つものの まだ ....
障がい者が殺された
19人も殺された
殺人の理由がひどい
そんな理由なら
世界は俺をいらない
それでも泣きながら
歯でも食いしばりながら
誰かのために生き ....
戴いた去年の賀状を
眺めながら
一枚 書くたび
次々に
押し寄せてくる
記憶の波に
浸るのではなく
溺れるでもなく
むしろ
耐えている
再生多発する 複数の痛みに
懐かしさな ....
雪の無人駅
雪を掃く係りのものが雪を掃く
何でもないコンクリートの踏み板の上を掃くものがある
待合室の歌謡ショーのポスターからさびしさのしたたり
掃き残した埃と雪の混じった少し硬いものをさらに ....
愛娘が毎朝八時に起こしに来る
歪み捩れた時空の層を超えるのは
なかなか大変だそうだ
[合鍵を作ってやろうか?ちゃんと電車に乗って来いよ]
おはようのキスをしながら僕は言う
[そんなことし ....
ふと思ったのだけれどね
人間には通気孔が必要だってこと
きっとどれかの上着に入ったままの入場券もいつかは必要なんだ
なくてはならないものなんてそんなにないんだけれども
たやすい自由はい ....
はつ冬の影をあつめ歩きゆく
アトリエに 違和もなく 海の 笑む {ルビ音=おと}
感傷の 気まぐれに 黒い蝶 化粧台で 殺し
逆らえない 四十万に 鈴の {ルビ急=せ}かし 空へ
ただ 近く 月を 手に 取って
泣き ....
今日も りゅうが 脱走した
「理由」なんて聞く奴がいるから 逃げだしてしまうのだ
話の尾ひれなんて無視して
ゆらぎは水の色
ゆがむからだのまるみに いかす光彩くねらせて
す ....
八月二十日
土を舐める、ミミズの肌に頬を寄せる
現実とは、そういうものだ、そう言いたげにその日はやってきた
希望は確かにある
廃道の、石ころの隙間にひっそりと生をはぐくむ草たちのそよぎ
ゴー ....
私の中にはおさかなが住んでる
ぴちゃん
揺れて
ねぇ、ちいさな音
震えるみたいな ちいさな音
怯えないで
高い音ではねるときもある
ぴちゃん
とがって
ねぇ、 ....
赤いチュチュをはいた
白い花たちが
寄り添って踊る
小さなバレリーナ
踊ることは
生きていることだと
無邪気に笑う
顔を寄せたわたしの目の前で
おさなごのやわらかな手に触れ ....
漂いの中に浮かぶ船はとても空虚だ。
空虚は僕の心を浸潤する。
広がり、閉じる。
この情緒こそ難破船にはふさわしい。
水面に移る悲しみを鳥たちが啄む。
僕は自分が何か勘違い ....
ビリビリに引き裂いた
力任せに 泣きながら
それでも気が済まなくて
鋏でジョキジョキ切り刻んだ
その切れ端を 徹底的にシャッフルした
元の形などわからないように
二度と思い出さな ....
「孤島」
樹や動物と共に棲み
助け合うことを知っている
ひとに蹂躙されない
蹂躙しない
等身大の月のひかりにただそよぎ
喜び 哀しみ 反射する
時に痛い波濤をかかえ
消滅を怖れない ....
舌先で像を結ばない
時代の陰りの不安漠然とした
――漏出か
灰に灰よりも濃く灰を溶き混ぜた
ような雲
も 時折
裂 け
息苦しい断絶の青さ遠くかもめのように過る
無垢のまま ....
息をしている
すべてのものたちが
息という名の
うたをうたう
うたという名の
命を
深く
息を吸いこみ
ふくらんだ分だけの
息を吐く
そのあと
わたしのうたは
誰かの肺の中 ....
さよならを告げた記憶はないけれど自転車はもう錆びついていた
お返事を書くか書かぬか迷ってるヤギはいくぶんヒツジに似てる
降り注ぐ光のすべてうけとめるここはあまりに硝子張りです
みなぞ ....
東京にゴジラが現れたとしても
北の国ではいつものように雪が深々と降る
明日は猛烈な突風も予想されるからと
二日分の食料品を備蓄して下さいと報道されたが
それは遠くアルゼンチン沖のせいなのだ ....
わたしに命をふきこんだのは
横須賀の廃屋のようなうちに猫と車と住む
がんこなかんばん屋の男だった
かんばん屋と猫と車はそのうちで
消えたがる女をなんにんも生かし
わかれをつげてきたという ....
おままごとあそびです。
ゆみは、ちいさな手でジャッキーとクーピーのお弁当を作ります。
(幾枚もの薄衣を重ねて
血色の良い足が足首側を上にして
歩いている
生白い足の裏は足指や土踏まず ....
「わたくし」がいつもうるさい主語だから野花は咲いて名もなく揺れる
気をつけろ死の面さらす詩行から蒼い樹液がぽたぽた垂れて
紫陽花の枯れた姿は傷ましいさっさと首を落として欲しい
かくれ ....
寂しいから寂しくないふりを
しているなんてお見通しなの
寂しくないならどうして
そんな限界集落の無人駅に
会いに来ないかなんて言うのよ
あなたの孤独を映し出す
鏡のように澄んだ湖はもう ....
屋根一杯に
鳩がいる
何かの見間違いかと
車窓から目を凝らす
もしや瓦の形の鳩じゃないか、と
でもやっぱりそれは鳩だった
生きている鳩そのものだった
ねえ、あれ鳩ですよね
....
久しぶりに電話してみる
着信音が十回で、切る
内心ホッとする
まもなく向こうからかかってくる
少し慌てる
「なに?どうかした?」
声を聴いて安堵する
「いやどうもしないけど。今話せるの? ....
随分昔のことだが山里の学校で疎開児童をやっていたとき
先生は教えてくれた
「いいか、熊に出合ったら息を止めて死んだ振りするんだぞ」
レントゲン撮影技師はオシャベリ好きで
....
私はこころの中で寝ています
いびきが何度も聴こえてくるのです
私はこころに布団を掛けています
寝返りするたびもう乱れて自分でも恥ずかしい
それでもやはり寝ていたいのです
夢枕がもう手 ....
失う
出会い
築いては
失い続けて
底を貫く本質
掴み取れたのか
沈んでしまうのか
進む船の舵取り主は
己が意志、病に抗う意志
沈んでしまうのなら仕方ない
精一杯やるんだ、もう ....
おちない眠りが揺らす
あなたにわけたのではなく 重ねたのです
星の明かり 電燈の灯り あなたの言葉
偽りが入り込む隙はない 一心
偽りを燃やし尽くし 開ける朝
言葉が砂みたいにつまって
詩はもうなくなった
わたしは砂袋
されたキスは
ぜんぶ覚えてる
黒ずんで腐ったところ
いまは眠たい
砂袋になってしまったのに
眠たくて眠たくて
....
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