袋があって、それは不思議に光っている
袋の中に光がある
頼りない光だけれど、そっと触れると暖かい
袋は何の変哲もないありふれたものだけれど、
中からこぼれる光が袋をこの世にひとつしかな ....
少しも嬉しくないのだ、という顔をして
柔らかく笑う君が
この手の中に入ってしまえば良いと思った
誰も
許さなかったけれど
喉の奥が鳴って
もっとずっと奥が痛む
そういう ....
マリーゴールドと
マーガレットの区別がつかない
ツバキとツツジを間違えて
笑われてしまう
アヤメとカキツバタにいたっては
はなっから諦観の境地で
でもそれはちょうど
パスカルとサルトルを ....
手のひらに虫の息
丸い黒曜石の瞳は虚ろ
彼の本分は
飛ぶ事ではなく
鳴ききる事だからか
若草色の翅脈を透かした羽は
すり切れる事もなく
黒い前胸に刻まれた金糸も鮮やかに
腹の手風琴も今 ....
空あおぎ覗き込まれる月夜かな
くりかえし夜を描き足す爪の蒼
水に浮く石を踏む道帰り道
目の生えた指が私になじみゆく
耳だけが曇と ....
いつの間にか
和らいだ青色に
滑るように重ねられた
白色が
ゆっくりと
南へ流れてゆく
ああ やはり
とどまることは
許されずに
見上げても
見下ろしても
吹き抜ける ....
斑に染まる山もみじ、
濃くたちこめた秋の匂いに騒ぐ、
枯れ落ちた葉のざわめき
そして悪戯な、
木蔭を這う{ルビ下=しも}風 )))
そうだ哀しみは、
雲ひとつない秋空へと昇ってゆく
....
日を追う毎に
わたしの頭は
軽くなってゆくようです
わすれていくのだろうか
こんなにも容易く
赤信号が青に変わり
裏路地は繁華街になり
たった今あったものが
次々と消えてゆき
....
容れ物のように穴のあいた胸に
こっくりと深い紅の薔薇を生けた
晒されて焼けついた
空の心を
かざりたてた
胸にあいた穴が底をうがつ時が
いづれくることを予想 ....
ひんやりとした向ひ風が
私を包みこむ
日曜日の午前五時
さびれたアーケード街
まるで墨汁の海を
掻き分けるやうにして
灯りのないアーケード街を
私は一人駆け抜ける
若い女が泣き ....
こいをしらないかたつむりのおんなは
あいすることをしっていたかのじょを
ただひとつわからないとおもう
おまえのすべてをしっていると
だからおまえはわたしをあいすのだと
おんなはかのじょの ....
増大する人の世の悪徳に疲弊している私の
両翼は とうに抜け落ち
背中は
巨大な浮腫により
佝僂のように曲がっている
エミです
こちら はじめてかしら 今日よかったら また指名 ....
さみしいと
寄り添うくせがあるので
いつも
ポケットにウサギ
鼻先を
ちょこんと出して
ふさふさの
耳をたたんで
私があまりにも
にこにこしてるので
人は誰でも不思議そうに ....
笹薮の中の
一輪の百合よ
かぐはしくも
夢幻のやうにともつてゐる
白い灯よ
潤ひのない荒野に
花弁をひらく
おまへのその
ひそやかな立ち姿は ....
くすむ孤児院の支柱誰かである時間
鉄吹雪やんでくれ動悸がとまらない
かんむり授かる牙 まみどりからやりなおし
目が冴えて月光よりも静かな猿
もう末代本能寺から髪の傷み
草 ....
+
雨のような音がしていた
始終ずっと
雨のような音がしていた
よくよく考えてみると
それは雨の音ではなくて
誰かの足音だったのかもしれない
雨の音は段々近づいてき ....
目覚まし時計の電池を抜いて
針を止めてはみたものの
時間が止まるわけでは無くて
時間が戻るわけでも無くて
ぴかぴか光る文字盤を見ている
わたしはきっと
何かを後悔してるのかもし ....
あの頃あたしは
モンパルナスの小さなアパートで
クローディアと一緒に暮らしていた。
暮らしていた、と言っても、三ヶ月くらいの間だったけど。
その小さなアパートには、
クローデ ....
今宵十五夜の月を
楽しみにしておりましたのに
朝から硝子窓を濡らす雨は
一向に止む気配を見せません
花器に
手折った数本の芒と一枝の萩を
無造作に入れ
恨めしげに外を眺めており ....
空のむこうがわで
むこうずねが痛がったら
ぼくはがまんする
いつもがまんする
泣きたくてもがまんする
すると空のこちらがわで
むこうずねが音叉のように響き
ぼくは涙する
いつも涙す ....
雨の日の冷蔵庫は
扉を開けるのが
いつもよりもどこか重たくて
暑い日よりも
その冷たい空気が肌に伝わる
建物の中の
頑丈なまでのその箱は
激しく雨が降ろうとも
そのリズムを変えるこ ....
*
最近
妻が出来た
嫁を娶ったのではない
わたしは女であるから
正確にいえば
嫁の方から勝手に来たんである
或る夜のことだった
四百円を手にちゃらちゃらさせながら
....
鰯雲風に吹かれて空の旅
夜明け前流れ星を待っている
ひたひたと涙落つるる時雨かな
たそがれてあなたを想う空の色
星屑や宝石箱から零れ落ち
さようなら夕 ....
冷たい雨が染み込んでゆく{ルビ苔=こけ}の
やさしい沈黙に
身体を重ねたくなる夜は
窓ガラスに青いセロファンを貼りつけて
閉じ込めた気泡の膨らみを
指先でなぞって ....
何処かかが悪いわけではない
血が滴り落ちてるわけでもないし、
痣があるわけでもない
なのに体に痛みを感じる
定かではないが、言うなれば胸の辺りが
グラデーションは必ずしも美しくない
そう教えてくれたのは
確固たる信念でもなんでもなく
ただの空虚だった
ああまた日が暮れてゆく
そのじわりとした色が僕に響いて
それはすなわち僕の ....
1
海の方から来た少女の持つ砂時計は
浜辺の砂だから耳を澄ませば波の音がする
2
バス停で
来るのを待っていると
潮風がワンピースを揺らす
もうすぐ夏が終わる、
という ....
この夜には日溜まりがまだ残っていて
所々に家の明かりがつき始めていた
それなのにこの灰色の町では
何処を探しても星空は見えない
電車の窓から
あの人の家を探している
もし貴方が笑っ ....
全国版の道路地図
なんだか久しぶり
知らない県の
知らない道をたどってみる
知らない町
遠い町
きっと
毎日をそこで暮らす人がいる
道路沿いに家があって
今日も 今も
生活 ....
眠れる人魚は
海を失ったことを知らない
もつれた後ろ髪は砂になって
青白い街に降り積んだ
水になりながら
瞬きのほかは
宝石の泡に見惚れてた
かげる頬はい ....
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