夜更かししないで
朝に会いに行こう
僕が目覚めた{ルビ瞬間=とき}
朝が生まれる
木々の緑にも
ビルの谷間にも
光と共に
等しく降りそそぐ
寝ぼすけの誰かさんの
夢をくす ....
手に入らないものしか欲しくない
ガラス窓を開いて
星を数えると指が濡れた
絹のシーツの上で
秘密の言葉を口移し
夜の一番深い時間に
初めての声色を使う
....
障子のむこうでは
雨の簾が揺れています
重なり合う影を
私の分だけ
一枚引き剥がして
あなたの流れに
耳をすませ
聞き取りたいのです
....
灼熱の渇き、
あるいは凍える肌の
傷を癒すのは
いつだってキミの唇だった
また歌ってくれないか
せめて無惨な屍のために
立ち去るまえに
たった一度だけでも
キミの声が
ど ....
ショッピングセンターの中にある映画館の前でぼんやりしてたら、女の子から微笑みかけられた。
「こんにちはあ」
はい、こんにちは。
やたらと体をクネクネさせる娘だ。
髪は、ほぼ金髪、派手なウェーブ ....
学校を卒業して
実家に戻った君から
普段と違う調子で
不意に電話が入る
ずいぶん遠い町に住む君と
昨夜同じ受話器から
おやすみと言ったばかりの僕は
醤油の有名な町で
働き暮らしていた
....
彼は今迄何度も転んで来た。
愛に{ルビ躓=つまず}き、夢に躓き、
恋人の前に躓き、友の前に躓き、
鏡に映る、自らの{ルビ滑稽=こっけい}な顔に躓き、
振り返れば、背後に伸びる
長い日 ....
私とあなたの間には
数十億光年の距離があり
互いの影はいつまでも交わることなく
仮想の白い空間を歩き続ける
( {ルビ孵化=ふか}を知らない孤独の闇に{ルビ包=くる}まれて
( ....
ぼくは詩を書きたい
いつもの空の空では
自分の疑問には答えてくれない
今日もまた
朝の散歩をしていると
いつもの空に出会いました
幼い頃よりも
空が小さく見えるのは
ど ....
パズル模様の石畳
規則正しい正確さの不安
ここに立つこと
そこに座ること
ただ
例えば同化してゆく空気のように
例えば水平線に溶けてゆくように
深呼吸をして 吸い込む青 ....
雨あがりの道を母と歩いていた
虹だ
おかあさん
虹だよ
ふりむくと母はいなかった
手の感触も覚えていない
母はよく左の胸をおさえていた
あれは母の癖だとばかり
思ってい ....
初夏の雫を集めた、里芋の
透明な葉脈の裏側で
夏風の子が
小さな産声をあげる
まだ、うまく飛べない
棚田の{ルビ畦=あぜ}に沿って
緩やかな曲線を描くと
早苗に浮かぶ蛙が
水かきを ....
いつまでも気付かなければ良かった
と思うことがある
熱帯夜の寝苦しさに目をふと覚ますと
わたしの知らないおとこのひとが
わたしの横で寝ていて
二つ並んだお揃いの枕と
ふたりで寝るには狭いベ ....
ビルの前で飛ぶ甲殻虫
茶色い羽と足を広げ
その目に映る景色は
丸く歪んだ世界を映す
浮いてるように飛ぶ世界に
君の目でもいい
僕を映してくれはしないか
ショウウインドウの窓に
....
どこまでも続いていた
白い砂浜と打ち寄せる波
柔らかい春の日差しと頬に触れた潮風
逃げるように訪れた街で
あなたをただ忘れたくて
海岸沿いのまっすぐな道を
すれ違う家族連れ
手を取り ....
女は宛ら 一室の部屋だ
好きな男好みに 設(しつら)えられた
日々模様替えする 夜々配置換えする
九十九を過ぎた婆さえも 「あれまあ不思議!」と云うような
女は部屋の 一室である
想い人あら ....
(誰かが泣く夜の 月は足跡だらけ)
夕立の30分後の車の下の
猫 濡れねずみで
のの字にくるまり
もうすぐ月のやって来る夜
あの子の心根から
零れ落ちましたよ リン と ....
たとえば、きみに好きだよと
囁くときでも
ぼくはきみの、
背中を見つめたまま
きみがぼくに決して
そういう言葉を言わないのを知っているから
きみの白い猫背に囁く
ぼくは、たぶん、 ....
そのとき奇跡を初めて信じた
この世に無駄ないのちの誕生はひとつも無いのだ
あっ、食べたね
その肉はさっきね、
やわらかく やわらかく揚げたんだよ
ああ
カリカリのドッグ ....
薄暗い夕方とよるの狭間
海が近いこの町では天気を海の色で読んだりする
今日は暗い灰色、じきに雨が降り出すだろう
あたしの部屋から見える海は少ししかないけど
毎日違う表情を見せてくれる
その海 ....
明日雨が降ったなら、
遠い海へ行きましょう
灰色に曇った空と濁った海が
空と海との境界線を掻き消して
きっと遠く遠くへ
わたしを連れて行ってくれるはずだから
魚類図鑑を開き
少年は魚になった自分を
想像する
エラ呼吸の仕方が
わからないので
いつも溺れてしまう
遺書は
鳥類図鑑に挟まれている
夏空の飛び方なら
誰よりも詳しく
知って ....
青々と
広がる蓮葉には
明け方の雨の
ひとつぶ、ふたつぶ
みつぶ、よつぶが
それは見事な玉を作り
ころころと
風にゆれながら
まるで生まれたての
宝石のよう
真っすぐのびた
....
* 逢う魔が時 *
逢う魔が時に
夜が浸透してゆく
何も起こしてはならぬ
何も触れてはならぬ
何も感じてはならぬ
まなざし以外は
重ねてはならぬ
流されてはならぬ
逢 ....
部屋に明かりを灯す人もない
窓から西日が差し込むだけ
夜更かしを誰も咎めない
そんなひとりの週末はただ
遠いあの日の記憶をたどる
不器用な子どもをあやすよう
怖がらないでと小さな声で
....
波打ち際に立つホテルで
あなたをただ待っていたい
薄暗いバーのカウンターで
透ける尾を揺らす熱帯魚と
ピアノが奏でるゆるやかな旋律と
ガラス張りの大きな窓からは
海とまたた ....
未完成なまま
このまま
梅雨の雨に遮られ生き場のない激情
暴れ出してこらえきれず
ハサミで髪をバッサリ
遠回り ワープ 時間道理
真夏のデザートこっちこい
....
環形動物の好む
クチナシの花が咲いて
夏が来る
ふくらんだ
白い腹の上で
笑いながら
木イチゴの実を摘んだ
開かれた朝
口を閉じていたイモリ
小さな水たまりの底に
きらりと ....
花つき言葉 −もとこへ−
一周年の祝いに
なにか書いてみせようと思ったが
気負いのせいかどうもうまく書けず
かといって最初の年に
なんにもなしでは済まないぞと思い
月並みだが ....
月のようでもなかった私は
君にうすぼんやりとした影を
もたらしたり
することもなかった
輪郭を
持ちはじめた気持ち
境界を求めてはいけなかった
あいまいなまま
分針が何度、 ....
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