カーテンの裾の隙間に見ゆる風桜桃の実は食べ尽くしたり
巴里の色を僕はしらない
おばあちゃんは
それは淡い青い色だと言った
夜が乾いていく
するとセーヌ川がたちまち
空に吸いこまれていくのだそうだ
巴里の音を僕はしらない
おばあちゃんは
....
世界の果て求め太平洋に出づ勝ちても悲しき少年の日は
鰯雲旧家の歴史も浅かりき表札静かに滅びを急ぎ
疑いなき眼によりおこなう間引き故両手の罪は水で流れむ
ちゃぽんと音がするので
ふり向くと
道端にいわしが跳ねていた
どうしてこんな所で跳ねているのか
と問うて見たら
どうもこうも無い
そんな事を聞くなぞ人間も野蛮になったものだ
....
刈り取られた
花々は暮れようにも
暮れられず
風が吹くのを待ちながら
やがて、
朝になります
いつか風、のように
広げた両腕は冷たい、思い出となりますが
その内、に抱えた ....
夜風が強くて
ガラス戸が揺れる
冬の断末魔のように
ガラス戸が揺れる
蠅が一匹手を擦り
未来の行方を見つめてる
ビー玉が溢れんばかりの
夜の底
何も語らぬ
夜の底
カラスた ....
青年は蛮声あげる暗黙の絵画のような空にむかって
麦垂れるわが過ちを焦点にあたたかき闇充満してゆく
失うものなければ雲の峰仰ぎ草笛吹きつつ孤独を癒やす
草若葉母の罪つぐなふべきに
青年は明日にこがれて桃の花
芹の水嘘を真にしてうつる
青空の下に
大きな穴が並んでいる
列車が来て停まる
線路の端に
白い雲が湧いていておそろしい
時間になると汽笛がひびき
車両に載せられた人と財布を
地番外にできた
あたらしい穴まで ....
午後のゆるやかな
時間の流れる公園で
片隅のベンチにもたれつつ
ふと洩らしたため息が
小さな小さな船になり
砂場を蒼い海として
航海に出る
僕の小さな小さな船は
とても壊れやすくで ....
わが春の分身とよびたき青き種子大地の暗み信じて沈む
いちめんの麦の青みのなかにいて思ひつげよとわが背押す風
上空の子燕のみが新しく街にはびこる意思なき者は
夜のアゲハ蝶の行き先は、決まって、
忘れられた夢のなかの王国の紫色の書架がもえている、
焼却炉のなかを通る。
くぐりぬけて、
グローバル・スタンダードのみずが曳航する午後、
雨の遊園地で、イ ....
焼けていくその空は
思ったより高くなかった
天に伸ばした手が燃え染まる
風が私と空をつなぎ
とけていく境界線
明け方の雨が露のごとく
草にとどまっている
匂い立つ今 ....
あんなに降っていた桜は
何処へ流れていったのだろう
夜の手がそっと集めて
すこし北の、
山並みを越えたところへ
風に溶かして運んだのだろうか
翠を湛えた葉桜は
それはもう、
ひ ....
わたしたちはゆるやかに
つながっていくだろう
春をわたる風のように
だいじなことは
たぶんきっとあるだろう
だけど
それがどうだというのだ
わたしたちはとうめいになった
....
{ルビ門=かど}ごとにあふるる花を競ひ合ふ住宅街を光貫く
やはらかき茎裂けながら薔薇の芽のあたらしき肉色に生い{ルビ出=い}づ
腐りつつ笑ふ黄の花雨受けてプラスチツクの鉢膨張す
恨ま ....
木々の芽の{ルビ魚=うを}の頭のかたちして霞の谷に息ひそめゐる
この冬も人失はれ残雪の谷さやさやと木の芽張り初む
断崖に身をよぢりたる一樹あり芽のあをあをときのふを忘れず
約束てふ言 ....
うららかに風のかすめる真昼間を透きとほる茎ゆらゆら歩む
いつぱいにひろげし指にうららなる光を溜めてさよなら少年
仰向けの蛹にうららなる日射し二度の誕生ゆるされてをり
うららかな日の暮 ....
雨の日に
美術館の裸婦像は
艶やかに
やがて本当の姿を見せるだろう
ぼくも同じだ
ぼくの想いは風に乗り
雲と流れて地球儀の裏側の
ひとつの地平となるだろう
暖められた卵のように
....
電車過ぎやがて月食はじまりぬ夜風静かにうぶ毛を揺らす
噴水も止まり後には静寂と夢なきわれの影はゆらめく
他郷での海岸にでて小鳥らにここも故郷と言ひてはばかる
目を瞑る
暗闇のなかで目を瞑る
どこか遠い場所で
点と点を結ぶように
だれかとだれかの
唇と唇がゆっくりと触れあうと
それを合図に違うだれかが再生ボタンを押す
暗闇のなかに
....
愛するという言葉はいらない
もう君はいないのだから
別れの言葉もいらない
戻らないと誓ったのだから
わたしの心のポケットには
誰の手も入らなかった
だから小さくもなかったし破れることも ....
一瞬、のゆれに
目をあけると車内は
きれいに一人だった
座席という場所には
わたしひとり
ひとりのわたしが
はまりこむのは
手入れされた苔に寝転がるような
世界を一望するような
....
飛行機雲残して 飛び去った
あの日の僕らはそれを見上げて泣いた
燃えるような夕焼けが目に痛かった
空はやがて夕闇をも飲み込んだ
後には闇しか残らなかった
僕らは互いが見えなくなった
....
少年は手にもっている一つの林檎を空に向かって投げる
するとそれは翼を拡げる鳥になった
少年は青い空が好きだった
空の中は永遠に汚れぬ世界であると信じていた
少年はどこまでも途切れぬ煙突 ....
鏡台を売るとき若き母うつり秋風にわが身を虐げる
怒りなる林檎投げつけ少年はジャーナリズムの正義疑ふ
叔父いつも偽善者ならむと決めつけて蒲公英踏みつけ青空仰ぐ
あなたが去り
私は、失った
その墓には、名前がなかった
私が愛した、名前がなかった
今太陽が割れて浜を照らす
その潔癖なほどまっすぐに
見下ろし揺るがぬ様は
カル ....
途切れがちの遠い波音に
あるいは
いつかの風景の肌ざわりに
私は
何を求めていたのか
カンバスは
筆先の触れた瞬間から
額縁にきちきちと収まってしまう
握り込んだ青い爪が
手のひ ....
窓の外は花の雨
傘もささずに飛び出せば
白い花びらがそっと揺れた
まるで僕の心を知ってるように
どんなにかくしても
走り出してしまったこの想い
いつでも君のことばかり探してた
君 ....
世界の終わりを思わせるほど明るい日
地の果てのようながらんとした広野に
世を捨てたようにひとつ立つ古い塔のそばで
君は僕を待っていた
僕らは手をつないでだまって塔をのぼった
ひょっとして ....
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