久しぶりに訪れた{ルビ報國寺=ほうこくじ}は
雨が降っていた
壁の無い
木造りの茶屋の中
長椅子に腰かけ
柱の上から照らす明かりの下
竹筒に生けた{ルビ秋明菊=しゅうめいぎ ....
今は昔、をとこありけり。
片田舎に住みければ、いとあやしき箱にて文を交じらふ。
箱の中に、あまた集ふ詩歌の会ありて、よき歌には人々
より数を賜る。
思ひ起こして歌をばと箱の中に投げ打つも賜ず、 ....
夜の道に
照らしだされる
白い月
淡い思い出に
涙する
君は気ままだ そして自由だ
屋根から屋根へ渡り歩くとき
魚を盗んで逃げるとき
君の瞳に映るのはいったい何だろう
夜 月を見ながら屋根の上
にゃごにゃごやってるときもある
縁側にひとりち ....
呼んでいる
呼んでいる
濃紺の夜長に虫の音響き
深くこころの闇夜のなかで
銀の鈴をしゃん、と鳴らして
呼んでいる
待っている
待っている
金木犀の匂いが止み
あたりに静け ....
ときどき僕は、まだ羊水の中で
少し離れた場所から聞こえる声に
そっと耳を澄ませている気がする
それはまるで子守り唄のようで
鼓膜を揺らすほどでもない
優しさを持っている
と ....
大きな肉の塊をくすねてきて
食べ飽き まだ半分以上も残つてゐるとき
犬なら 空地へ引きずつて行つて
埋めておくが
猫は そこに放り出しておくだらう
無関心かといふと さうで ....
秋の深むる道すがら
吹かれ漂ふ紅葉葉の
{ルビ言=こと}に出づとはあらずとも
心鎮むる文となる
風の流るる草の野に
そよめそよめく{ルビ薄穂=すすきほ}の
波を立つとはあらずとも
心 ....
ああ また白馬が
やってきたんだね
まだぜんぜん食べてないのに
そんな目をして
いつも俺が
しんけんに作った
晩ごはんをふたくちぐらい
ゆっく ....
花が絶えたら 私は思う
私は幾日 生きたかしらと
北風が灯を消すように
闇が私を連れてった
雨が花びら流すように
夜が私を連れてった
こうして街の橋げたの
隅で花売る娘の ....
イメージするたびに
少しずつおまえが遠くなってゆく
大きなヘッドフォンのゆるさは少しも変わらないのに
霞んでゆくような映像のぶれが切ない
ベッドの下を掃除していると
おまえの口紅 ....
夜は手探りでした どうしようもないほど
深い瞑想からかえると
誰もいない静かな坂に迎えられ
私はその緩やかな下り坂を
溢れ出す涙に続いて降りました
街灯と呼べる明かりを求めても
涙が光 ....
黄土色の民族衣装。赤と青のヴェール。
太鼓と珍しい笛、それに見た事もない弦を使った楽器。
うっすらと唇にひかれた化粧は、燃えるような色をしていた。
髪はやわらかく熱気にあおられている。
漆黒を ....
僕は生きている
その事自体が罪なのか
道造は二十四歳で逝った
中也は三十歳で逝った
祐三も同い歳で逝ってしまったよ
だのに
僕は未だに生きている
罪の上塗り
恥の掻き捨て
僕が愛し損 ....
詩を書くあなたは
言葉に恋をすることは
自由ですが
言葉と交際することは
禁止です
愛していることを
愛していると書いては
いけません
愛している以上に
愛を言葉で綴らなけれ ....
コトバハナイカ
空間ヲ切裂ク
コトバハナイカ。
ドコカニ
世界ヲ
切リヒラク
硬度ナ
コトバハナイノカ
刃モノノヨウナ
カタイ、カタイ、カタイコトバハ
ナイ ....
手を繋いだらと
俺は思う
あんな年老いた老女を、と
何もかも枯れた土地で、ほそくたたずむ
逃げようと思った事はない
この地平の何処かに、まだ残されているものがあるのならと
いつ ....
いつも留守のあいだに
ぼくのポストにたてかけられている
回覧板には
いくつもの恋の終わりがのっていて
ぼくはその欄を見るのがとても楽しみ
恋は突然に始まり
ある日うそのように終わってし ....
あたたかい寝まきです
でも
あたたかいふとんです
おかあさん
頭のほうが寒くて
しんとします
眠ったとたん 朝でした
お昼を食べたら
もう夕ごはん
ふしぎです ....
行け その細い径を通って
白銀の雨のふる 森のなか
あたらしい宝物の絡み合う蔓植物の
つまらない詩句の鎖を見て来い。
案外つまらない
つまらないものなのだ
それゆえに ....
流星 流星
おまえのしっぽを
わたしの窓辺にたらしておくれ
そうして
わたしを月までつれてって
ロケットやUFOより
おまえのしっぽがお気に入り
蒼い 蒼い
おまえのしっぽ ....
風吹けば
薄紅色の水玉模様
ありがとう
もう何も考えなくて済む
閉じこめられたら
二度と目覚められなくなる
それがいい
さ ....
最近冷蔵庫に
レモンを一匹
飼っていたら
今朝
絞られていた
何か飲むときにいつも
瞬きを忘れるおまえは
俺をじっと見つめながら
こくこく
ちいさ ....
野辺のコスモスと
上を舞う鳶は
同じ風の中にいる
コスモスの花びらの反りと
鳶の羽の反りは
風向きのままに靡いて
一心同体
陽光の眩さにしかめる花の仕草も
鳶の眼の目くるめきも ....
脈を取ると指先に
セミの鳴き声が
伝わってくる
僕らの身体の中にも
駆け抜けていく夏があったのだ
どうかお元気で
手を振り
手を降り返したあなた
あの日に
友だちでいてくれて良かった ....
ある季節の終りに
風鈴が
まぶしくゆれていた
わたしは 風へ帰れるだろうか
いつの日か
空で回旋する球形の庭園に
立ちよることが出来るのか
ゆれることと立ち尽すこと
そして、歩いた ....
「パリーへ二人で行こう」
あの頃は佐伯祐三に焦がれていて
寝物語に囁いた僕の言葉を
君は黙って受けとめてくれた
僕に離婚歴があることを
君は問わないでいてくれた
僕が夢見たパリーの空は
....
踏切の向こう側に立つ
少女の横顔に
六十年前の悲しみが取り憑いた瞬間
僕は
塵芥を掻き分け続けた両手と
石ころを蹴飛ばし続けた両足に
ほんの一刹那
接吻と落涙を捧げることができた気がした ....
深夜に
マリをつく者がゐる
深いえにしの糸で
操られてゐるかのやうに
マリは闇の奥にのがれていきはしない
人がマリをつき
その手をもう一つの見 ....
雨が降っていたので
花を買わずに
帰ってきました
色が鮮やかだったことだけ
覚えています
雨が降っていたので
コンビニのお弁当を
食べました
ラップを取るときだけ
なぜかわくわく ....
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