夜明け前の
蒼い蒼い
ひととき
こんな眼をしたひとに
遠い昔
会ったことが
あるような記憶
蒼いそらを仰ぐ
還らないときを思って
戻れないときを憂いて
この頃は寂しさなどは感じざり想い出に生き始めたるかも
野いちごを食べて、細いけものみちをわけいった。
蔦が絡まる門が、行き止まりを告げているが、
白い壁に覆われた一対の塔をもつ建物は、
わたしを甘い蜜のように誘惑した。
とり憑かれたように、門をく ....
全力で迎えてくるるさまに咲く
沈丁匂ふ道のつづけり
受験の娘にせめて祖母の祈りとも
お守りを買ふ北野天満宮
日の丸の旗かかげたる旧家あり
白き土塀に添い行く元日
隣家に植木職人 ....
東に開かれた 窓があった
ソファーにもたれて
書物に目を落としていた
部屋を採光された 光が
うねり 本を照らす
読み継ぐ事に 少し疲れ
目を空へと あげる
陽光は石をも貫き ....
わけもなく心和める夕暮れや
秋はやさしさ運びくるらし
音たててころがりて行く空き缶に
信号待つ間の視線集むる
夜半覚めて物読みおればしぐる音
しばししてより また止みにけり
木 ....
群生する草木の
やがてはその根の深いところへ
むさぼって、むさぼって、
貪り尽くして やがて
ひとすじの地層となって閉じていく
のが わたしたち。
一匹の蜘蛛の
ぎんいろの糸を端から切り ....
暗闇に光る君の瞳
影から影へ移る君の姿
君は夜に生まれたから
そのまま夜を身にまとい
ひとり息を殺して闇を行く
夜は君の姿
闇は君の心
影は君の名前
そして沈黙が君の言葉
けれどそん ....
晩夏の草むらに足を踏み入れると
かわいた空気がひび割れて
よれた、真っ白いシーツが敷かれ
見たことのない男が横たわっている
あばらの上には、何本もの{ルビ径=みち}があり
そのどれもが、わた ....
{引用=落花することに歓びがあるとするならば
目の前に横たわる海鼠状の災禍を受け入れてみたい}
あなたと
わたし
コロシアムと密かに呼び合う
誰ひとり立ち入ることの無い塔屋の片隅で
ふ ....
狭い食卓いっぱいに広げられた
トースト、スクランブルエッグ、母の匂いのする林檎も
気付けばもうとっくの昔に消滅していた
いつかの朝陽は今、閉じられようとする夜の瞼にすり替わり
夕闇の立 ....
放蕩のあとで
俺はまた女を抱く
女は女で 俺を抱いている
俺は抱きかかえられている
夕凪にかき消された
誰かの名前
*
白い肩の揺れる姿が
つめ ....
すべてにけりをつけて
ゆっくり回りだす世界に
打寄せる思い出
消えるわけじゃない
最後にゆっくり
涙をこらえて踊る
涙色の照明に照らされ
「またね」
言葉に隠された
「さようなら」
....
見上げれば透明なアクリル
水色の水彩絵の具
四時間後の空
連れてきたアキアカネ
薄く積もった白
描くのは乙女の髪を梳く風
乗せられてきたあえかな鈴の音
今や懐かし夏の日 ....
午後十時の到来を待って鍵盤を押す
文字を綴る鍵盤
音を綴る鍵盤
そのどちらをも乱暴にたたくのは
酒に汚れたこの指だ
、。を省き、
脳髄反射だけで鍵盤を押す
でたらめな ....
時計は止まらない
川の流れは止まらない
何を願ったとしても
決して時計は止まらない
その間にも
葡萄は実り
楓が色づく
日は沈むのをやめない
時計は止まらない
何を願ったとし ....
教えてくれないか?良ければ
知りたくなかった
知ってはいけなかったんだ
俺はお前を見ようと目を閉じる
目を閉じなければ見えないんだ
どうしてもよそ見をしてしまう
どうすれば ....
今日は静かな雨
君と焚き火をしよう
やさしいぬくもりでは
凍えてしまう夜だから
黒松の薪なら
煙は雲まで届くだろう
そしたら湿り気の凝集で
雨が雲から
絞り出される
だから焚き火 ....
冬の夜の
何もない一本道を
包帯だらけの山羊が
針金でできた自転車に乗って走る
かたりかたりと
暗闇に音を染み込ませていた
....
落日が千手観音となって
丘のひだをまさぐっている
きょうはどんな日だったのか
と いわんばかりに
雑木林のそよぎは「時」が駆ける
....
都市は
石と風のコントラスト
開けきった 窓から
円形の空のしりぞき
視線は永遠を求め
白い雲を追う
近くに目を落とせば
中層住宅・オフィスビル
ガラスが日に輝き
祝祭の ....
そそとして差し出される菊花
苦しみを経たのちの安堵のように
わたくしのからだの深みから
心の深みからも香りは立ちのぼる
気がつけば時雨
寒さ益す時雨の屋根打つ音が
薄闇をつつむ部屋の隅 ....
あなたのなかをふるあめが
あなたのまつげをゆらして
あなたのなかをふるゆきが
くちびるをふるわせるとき
ぼくはあなたのてにふれて
ちいさくなみうつおと
ちいさくはじけるおと
あま ....
北東の風が、強い。
雲は千切れ、崩れていく。
思ったより遠く、ずっと遠くまで、
走っていた。
(誰もいないグラウンドに立ち、空の箱を投げる。誰もいない。投げられた衝撃で箱が開
き、そこか ....
薔薇喰へば詩人
悔やみきれぬ漆黒の髪長し
萩散る恋散る
満腹猫の小憎らしさよ
雲間を逃げるホワイトジーンズ
欲しいものは淫らなギター
まばたきする度に薔薇
片 ....
ハンカチが飛んで、
きみのスカアトがめくれて、
ぼくの目線をとらえて、
きみはウインクをして、
踏切の音がして、
知らない歌が聞こえて、
人々の足音が止まって、
ギタア ....
指は
君の小さな生き物だった
どこか
遠い異国の調べみたいに
時おり
弾むように歌ってた
君が僕の指を食む
君が
少し子供にかえる
遠いね、
とだ ....
指の形を覚えている
緩やかな節への流れと
その静かな温度を
ある日私の地平の向こうへと
吸い込まれていった
橙の夕暮れも透明なカラスも
かつてはその指を知っていた
今は置き去りに ....
よりそう影がきみを支える、踏みにじられた花束のように。
胸の奥深く、押し殺した闇夜。埠頭から海へと身を投げる、
踏みにじられた花束のように。
昨日の窓辺に凭れて、かきむしるように
こみあげてく ....
トイレの中で泣いた事はあるか?
声を押し殺して
友が過ぎ去るのを待ちながら
泣いた事はあるか?
悪臭にゲロを吐きながら
泣いた事はあるか?
俺はあるよ
今もそうしている
だからお願 ....
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