祖父は
海軍士官学校の先生だった
手を合わせる横顔に
平和を祈っているのかと訊ねたら
そうではないと小さく呟いた
悔やんでいるのだと
小さく呟いて、そして
祈りは何も変えないのだと
....
突然なんだ
それがおそってくるのは
深夜に一人でいると訪れる
孤独虫
たまらず街頭灯る街角に
救いの天使を求めて歩く
暗がりのなかでは
すれ違う人の人生が薄 ....
君の 言葉に 触れるその 一瞬が。
僕には 永遠のように 永く長く感じられて
大地を潤す 清い水のように
僕の中に落ちて 真っ直ぐな光となる
僕の中にある
まだ壊れていない部分を 君 ....
月光に貫かれたる冬の恋
ロマンティシズムの盾
センチメンタリズムの剣
キューピットの矢を弾き飛ばす
乙女の強固な防衛心
ねえ、臆病な娘さん
あなたの夢見る想像力の翼が
その純粋な心を覆い隠しているから
生々 ....
街 山 海
陽炎の街
輝く緑の山
エメラルドグリーンの海
真夏の真っ只中に置き去り
後ろのポケットから夢が零れ落ちる
開けた空に飛行機雲
空に国境がで ....
炎天下の路上に
{ルビ蝉=せみ}はひっくり返っていた
近づいて身をかがめると
巨人のぼくにおどろいて
目覚めた蝉は飛んでった
僕の頭上の、遥かな空へ
瀕死の蝉も、飛んだん ....
神学を齧ったからと言って信仰心が深まるわけでもなく
かくて私は見事に無神論者となり如何なる神も信じない
愛を信じないがゆゑに
人生も信じない
私は恋を信じず
美人も信じない
馥 ....
偽物のような朝日に照らされてスローモーションで抜けおちる髪
みずたちは迷路に惑わず進みゆく辿りつくもの溢れでるもの
窓越しに電線のたるむ一点を凝視する裸婦をデッサンするきみ
....
何年か前、東京に遊びに行った時、靖国神社に行った。
友達と、てくてく歩いて、神社の敷地内に入った。
年配の方が目立った。
敷地内には、たくさんの記念碑があった。
教育勅語の立て看板があった ....
押し寄せる人波を
私は独り、逆流する。
東京駅の地下に蒸す夏。
目の前の{ルビ陽炎=かげろう}を掻き分けて。
日常の流れに{ルビ弾=はじ}かれて、立ち止まる。
重い{ルビ荷物=ト ....
月ではまだ
冬の初めで季節が
止まっているようだった
浅い眠りの合間に
この頃よく、夢を見る
凍えたままの月面で
あなたをこの腕で抱き ....
繰返してはいけないと思っていても
繰返してしまう
それはちょうど悪戯っ子が
すぐにばれてしまう悪戯を繰返すのに
似ているのかも知れない
かまって欲しいわけでもないし
誰かに判って欲しいわけ ....
君の不慣れな指が
ここは
触れてもいい場所だろうかと
ぎこちなく髪を撫でるたび
私の躰をなぞるたび
電流のように
私に幸せを運び込んでくれる
哀れ
彼女の吐いた息の白さに何人の男が感嘆の息をついただろうか
少女から女に変わるその間に
いくつもの帯をまとって帯の隙間からこちらを眺めていた
彼女
波を超え、山を掘り、花を ....
生きるものにとって
その生の躍動が大きく羽ばたく頃
森の中にそっと足を踏み入れる
静かな朝
光が遮られた場所には
シダの葉が青々と続き
時よりの木漏れ日は
地面の土を黒々と照らす
....
真夜中にそうめんを茹でます
今日の君は優しかった
明日の君はわからない
焼酎を飲みながら 君のことを考えていたら
お腹がすいてきたので
真夜中だけどそうめんを茹でます
こんな夏の夜に
他 ....
長い陽も沈むよう
医院の外灯が付いて
傘の影が三つにひらく
バス停にひとり
何も捉えぬ目で
車道の先に見た夢も
呆気なく流れて
ちっぽけで哀れな足を
ざぶざぶと濡らす
雨粒は ....
まどろんだまま
深く吸った息で
体中に雨が透る
窓辺においた手紙が
濡れているのは雨のせい
滲んだ青いインクの
消えかけた名前を呼んで
雨の一粒一粒が
体の中で弾ける
ソ ....
荒れ地に自由が生まれた
わずかな緑が生まれ
小さいながらも花も咲く
荒れ地はどんどん広がった
同時に大きな草花や大木も
かわいらしく鳴く小鳥たちも
やってきた
いつしか荒れ地 ....
笑う満月の下で
ぼくらの明日は
三日月のように
尖足している
医者は
なにごとも
なかったかのように
また、今日も
尖った足を
創出する
まばたきするように暮れていった群青に
あなたはなにを覚えたのだろうか
と
スーパーの広告の裏にかいた
一編の詩は
おもったより、しあわせそうで
静かに瞼をとじました
詩人 ....
あなたの夢は遠くとも
歩み歩めば辿りつく
前へ前へと進みゆき
自ずと見える日々の道
あなたの夢は高くとも
続き続けば届きつく
上へ上へと積み重ね
自ずと気づく日々の徳
あなたの ....
一人の夜に赤々と土気色を二時の方向に指す赤月
温水プールが街に広がる午後八時の暗闇の渦に吐き気がする
空気 まどろむ 夜だ
安心した素麺のつるっとした喉越しと
果てしな ....
浅い午睡に
思いがけず野蛮な夢をみる
それを誰かのせいにしてみたところで仕方ない
けれど
ああ
夏が甘く爛れる匂いがする
それは私の倦怠と
なまぬるく混ざりあってゆく
何もかも ....
暑い日だ
こんな日は
私にパラソルの女が
寄つて来る
女が来ると
私もパラソルの陰につつまれる
―日盛りに
ぼんやり立つてゐると
日射病になるわよ―
....
夜よ深まれ
闇はもっともっと深くまで
暗く、黒く
私の胸に小さな灯り
ゆるりとめぐる闇となり
深く、深く
包み込む暖かさや
優しさなどいらない
そんなものはいらない
ほし ....
お盆になると
実家には
離れて暮らしている兄弟たちが
一斉に集まり
昔を懐かしむ蚊取り線香の匂いが
きしむ床や汚れた壁から
おもむろに流れている
帰郷する度に
夕飯に並べられる
....
{ルビ御月様=おんつきさま}が
どれほど 偉大か、
気が付いたのは
絶望の重みに
耐えられなく
なった 夜道
十字路にある
自動販売機の
灯 だけが
ユメを見せてくれた
夜
そ ....
ペルシヤの青い陶器がひとかけら我を誘え千夜一夜に
アラベスク文様煌めく異国(とつくに)の薔薇の女の微笑み妖し
ダマスクス鋼(はがね)のように煌めいた瞳美しムスリムの君
ヴェスピオの灰 ....
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