放物線を描くでもなく
ぽつりと堕ちた
アブラ蝉に
少女は黙って花を添えた
花の名前を私は知らない
しばらくすると
またぽつり
それからしばらく
また
ぽつり
一軒一 ....
夜はさみしさをたたえる水面
しずかに腕をひたして
あてどない動きにさらされていた
夜がひそかに身体をゆすると
いつしか私もゆれていて
抱きしめあった記憶が
手のひらからあふれた
....
僕の舌に
冷たい
宿舎が建った
犬は犬の形を
少し崩して
それを見上げた
今日は良い日和なのに
窓などを開けて
海に行く人もない
夜に爪を切ります
迷信は知っています
そのとき をあれこれと想像してみます
みっともないほど泣きわめくかも と思います
ハンカチが二枚は必要でしょう それとも三枚かな?
鼻紙も忘れずに用意し ....
年号は覚えやすいねにせんはち年におこった(できごと)ならば
蛙の降る梅雨も終わって空蝉の降る夏の瀬も埋葬されて
上階に行けば行くほど高くなるベランダに立つ柵の高さは
....
あかりがともってる
そう
ぼくの目の奥
ぼくの目の奥は
洞窟みたいになっていて
その奥のほうには
秘密基地みたいなところがある
それが脳みそと呼ばれるところで
ぼくの考えの源で ....
君のみどり色のところを
ぜんぶ
静かにしてしまおう
僕たちのゆびさきは
それはきれいな舵だ
このすこしの世界では
なくこどもと
あくたの色はもう見えない
ただ
朽ち ....
{引用=実り豊かに微笑する大地であり、アジアのアルカディアである。自力で栄えるこの豊沃な大地は、すべて、それを耕作している人々のしょゆうするところのものである
日本奥地紀行 イザベラ・バード ....
彼女はシャワーを浴びながら歌を唄う
水の流れに乗せて悲しい歌詞を
まるで日曜の午後のようなのどかな声で
でもどこか切実に聞こえてしまう
すごく心地よいのだけれど
ジーンズはベランダにぶら下 ....
どこから来てどこへ行くのかって、普段は気にも止めないような事想う、最終電車。
地下鉄の景色は真っ暗に長く、速く、見失いそうだから泣きそうになった。
笑いながらバイバイって言うんだ、
....
まだ伸びきっていない手足
幼さを残した横顔
君は頬杖をついている
窓の外には退屈な午後の空白
夏を控えた空はしかし
君を少しも動じさせない
期待と倦怠は同じものだと
その瞳は語ってい ....
かさついた
ふるい
手紙を
燃やして、
灰は
深い色をした
....
色彩アラベスク
黒い空 黄色いライト
オレンジの腕 汗は光る
コンパスはあちこちと動き
ベイジュと紫
赤の縁どり
白い球はくるくると舞い
無花果の実は赤し
オレンジの足は地を ....
なにひとつ 同じでいることのできない私が
潮に洗われている
洗われているのは 海なのか 私なのか
あなたの口ったら おさかなみたいに うごいて
「ほら みてごらん海蛍だよ」と、教えてくれ ....
ペン先に積もる黒い雪
世界は四角い
丸くない
背中の違和感
なんて静かな夜だろう
夏の夜の静けさのなかには震える孤独な生き物がいる
そいつは虚無と星の光の混合物だ
いつまでもいつまでも震 ....
ハンミョウは美しい夏の昆虫である
近づくと少し離れた場所に素早く飛び立ち
ミチオシエとも呼ばれている
あの美しく光る背中は
すべてを突き通すような夏の日差しこそふさわしい
その子がいなく ....
呼吸を忘れたら
水の中で生まれたんだと
七色の目をした
君が笑う
砂糖菓子のような
甘い声で
私をいともたやすく
漂う
いつでも
ここがどこか
私が何者か
それす ....
そっと
腰を下ろし
いつものひとりに戻るとき
うるおいじみた
乾きがあふれ
ぼくは
あわてて
目をとじた
思い出はいつも
胸に痛い
握れるものの少なさが
はっ ....
あなたが海に沈めたノートを
魚のままで取りにゆこう
強い水と光のために
泣いていることがわからなかった夏が閉じ
ノートを手にとるころには
手足があり
波音はなく
....
長く伸びる夜の頬骨は
固形石鹸の白い音を立てては消えてゆく
明滅する宇宙信号機
風は時間の化石
地平線の向こうで朝が撲殺された
今夜何かが変わるだろう
ブラシに絡みつく抜け毛と空っぽのペットボトル
切れた糸がぶら下がった窓べで
一心に爪を縫う
板に書かれた言葉は私
縫いとめられた糸は黒々と指と指をつなげて
道を通り過ぎてい ....
むっとするような草の匂いをかぎながら
僕は雨を待っているんだ
こんなふうに湿った空気の朝は
何だか楽しくてしょうがない
もういいかい
まあだだよ
ほら向こうで呼んでる声がする
....
あさ
台所に行くと
涼やかな甘い匂いがする
桃の季節だ
ダンボールの中で
熟した実が醗酵している。
触ると
産毛が密かに暖かい
桃を手にした私に
おかあさんが声をかける。
―― ....
白い風が高くから落ちてくるから
静かなる木々は光を持て余してざわめいた
浮かされた心はじわり汗ばんで
翳る度にいつかの幻を見る
この空の蒼さは罪を隠すかな
咲き誇る花の色はただ
....
満ち足りた水盆から
たっぷりと
手のひらのうつわに水を汲み
満足しても つかの間
した した と
水は指のすき間から逃げてゆく
目の前を行き過ぎる
季節もまた
水盆から汲み上げた水 ....
仏壇を開けると
そこにお寺が現れる
だから
仏壇は小さなお寺だ
それがおもしろくて
子供のボクは
仏壇の扉を
開けたり閉めたりして
遊んでいたら
親におこられた
大切な仏壇で遊ぶな ....
夏の影の一番濃い部分が
凝り固まったくらまとんぼを
幼子が追う
たやすくつまめる
その黒い羽
ねえあなた
一度手にして
満足したなら
はやいとこ
はなしておやりなさいな
で ....
余 熱
そこは
しろい花が咲いていて
緑も若やいで うつくしい
空気は
いつまでも清澄であり
....
アナタハ ダレデスカ
身寄りも帰る場所もなく来る日も河川敷を掘じくる佐久間少年ですか
地球の汚染大気に蝕まれ余命いくばくもないメイツ星人ですか
ふたりきり
河川敷の工場跡で
下水道に住む ....
あした、
涙がかわいたら
海を迎えに行きましょう
果てのみえない
かなしみの
ひと粒として
あらわれましょう
雨が降っても良いのです
風が吹いても良いのです
....
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