ねえ、あなた、
あたしの世界は紙でできているのです。
うすっぺらな、もろい、紙、
吹けば飛ぶ、濡れれば融ける、紙、
古くなったらほろり崩れる、紙、
紙、
もちろんあなたも紙でできている ....
百万本の薔薇
咲きほこっている
そう言ったところで
それが造花であることをあなたは知らない
一匹の狼が 肉をはんでいる
そう言ったところでしかし
その肉が何の肉か
あなたは知らない ....
あるところに男と女がいて
であって 好きあって
子供ができて 家庭を持った
あるところにできた二人の家庭は
明るい家庭で
子供は二人
跳ねて 飛んで
子供の頃によ ....
▽
どんなに長く電子メールを送信しても
恋人は七文字程度しか
返信してくれないのである
業を煮やしてメールを送信するのを止めると
次の日から
矢文が届くようになった
頬を掠めてすこん
....
ほつれた糸はよるをゆく
いつか
余裕をうしなえば
たやすく降られてしまうから
どの肩も
つかれつかれて
しなだれてしまう
うらも
おもても
やわらかいのに
ひとつの ....
閉じこめている。
憶えているのは、
十三階を過ぎてすぐ。
足下の地面の、
もっと下から震えだして、
おおきくおおきく震えだして、
そして、
がこんとおおきい音 ....
怪我をした。
硝子の破片を拾っていて、
怪我をしてしまった。
切れた指先から、
ぷくりと、
体液が盛り上がり、
やがて床に流れ落ちた。
染みになった。
....
ラジヲが壊れている。
夕べ壊れた。
村にひとつだけしかないラジヨなので、
あれが壊れると、
ぼくらはすごく困る。
それを聞いた、
村長さんは慌てふた ....
{引用=リトル・ミスに出会った}
*********************************************************************
{引用=彼 ....
それでも
女の人が
涙ごとに流す{ルビ睫毛=まつげ}は
蝶々になるのですよ
『睫毛蝶々』
祖母の形見の化粧箱は
真っ赤な朱友禅に金糸の菊
中には小さい鏡もはめ ....
波にかき消され
あるく音も聞こえない
アヴェ・マリアもかき消され
カモメの白い羽音もかき消され
太陽をまっすぐに浴びて
誇らし気に弧をえがく
かすんでゆくまま波にかまれ
風船はつなが ....
忘れられない絵がある。
いつ見たのか、どこでだったか、覚えていないが。
思い出す、絵がある。
大きな窓から夕暮れの赤い陽が射し込んでいる。
中年にかかった初老の男女 ....
あ どこで鳴っているのだろ
悲しく響くパンの笛
空の上から高く低く
木々の間から遠く近く
誰が吹いているのだろ
森に木霊するパンの笛
謎 謎 謎の響き
僕はその日いつまでも
謎の響きに ....
大クレーンふいに傾く{ルビ雪催=ゆきもよい}
{引用=一九九七年一一月三〇日}
冬の月中天にさしかかるとき人魚は難破船を{ルビ欲=ほ}りゐる
憎しみに冴えたるこころ煌々とはげましゐたり冬の満月
冬月が鉄橋の上に待ち伏せる窓にもたれる男の額
....
咳をしてママをふりむかせたんだね目が合えばにらみ返す少年
熱の{ルビ児=こ}を抱えた母の傍らで少年は嘘の咳くりかえす
さびしがる骨をかかえて咳をすればカラッポカラッポ胸が痛いよ ....
はりつめて切れそうだから目を閉じてあんまり空気を吸わないでいる
ひとりごと、白くかたまれ歌になれ風に飛ばずにここに留まれ
鍵盤にひとつぶ落ちる(きん、たたーん)か ....
壁を自在に移動する窓
持ち歩き可能な窓
心臓に取り付けるための窓
蜃気楼だけが見える窓
窓硝子に詩を書くための窓
叩き壊しても何度でも再生する窓
脱け出すためだけの窓
忍 ....
{引用=ピッピだっけ?窓の隙間に北風がこぼれるような素敵な名前だ}
なんで今日は羽根が開かないって、ああ、マイナスだらけの最低気温
君の目で体透かせば黒い部分のたくさん出来る季節がきた ....
金魚らの赤い背びれを撫でてやる指先に滲む生ぬるい水
なんということ
こんなにもきれいな
瞳をしているのに
のに
祖母は私の瞼に触れて
また少しちいさく
かすれてゆくかのように
そう言ったんだ
薄い皮膚で感じた
あなたの ....
おはよう
明日の光を浴びる観覧車
地軸の傾きに反応したゴンドラが
少うしだけゆがんで
カラ、
ラ、
カラリ
まわりはじめると
冷たい大気に
隠されていた痛みが染み込んでゆく
....
押し寄せる波が私を連れ去ろうとする
どこか遠くの私の知らない世界へ
もう終わりだと知っていた
これ以上続かないとわかっていた
だからこそ
信じたくなかった
この波の音が聴こえるこの ....
昨夜に限っては
悪夢にもうなされず
いっときだけ
窓をたたく雨の音を
聞いた気がする
夜の中にあって
感情を露わにしないまま
目覚めたのは幾日ぶりのことだろう
確かに雨は
濡れたアス ....
1
十二月の眠れる月が、遅れてきた訃報に、
こわばった笑顔を見せて、
倣った白い手で、ぬれた黒髪を
乾いた空に、かきあげる。
見えるものが、切り分けられて――。
伏せられ ....
森をゆく陰
陽の雨 うたたね 岩棚をすべる水
老樹のうろ 葉に棲む音 午後の胞子
塞がれた兎の穴 雪割草をすすぐ沢
ほとりの鴫 消えない木霊
わけのない過去 はずのない ....
逃げるように
何かから
遠ざかるように
赤い舌の影から
目印を目指すために
色の見えない道を走る
光なのか、
闇なのか、
深さも
果てなさも
風を切るわたしには分からない。
踏みしめた宙、
生まれた羽 ....
君の頬を好きだった
桃の果実に似ていた
ほほえみを蓄えてふくらむ
やわらかな君の頬
君の瞳を好きだった
ただ生きることの 驚きと喜びに
休み ....
蟻の触角をプチリと抜いた
前足
真中
後ろ足
一本ずつ丁寧に
壊さないように
壊していく
壊れていく
あぁ、まただ
また足元から上ってくる
おまえは助けたいの
と聞いてみ ....
夕暮れの風が優しいので
少しだけ手袋を外してみた
小さな枯葉が僕の手にのった
電車に乗ると人ごみが恐ろしく
そっと息を止めてみた
苦しくて苦しくて仕方が無かった
駅からの帰り道に雨 ....
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63 64 65 66 67 68 69 70 71 72 73 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 100 101 102 103 104 105 106 107 108 109 110 111 112 113 114 115 116 117 118 119 120 121 122 123 124 125 126 127 128 129 130 131 132 133 134 135 136 137 138 139 140 141 142 143 144 145 146 147 148 149 150 151 152