同じ筋に住んでいた同級生のM.Y.ちゃんの家が燃えたのは数年前、私たちが大人になってからのことで、Yちゃんの父親が亡くなって半年も経たないうちのことだった。幸い家は留守中でYちゃんの家族は皆 ....
ある夜のお仕事帰りに駅から自宅までの道を原付きで走行中、前を走るタクシーの後ろのバンパーに貼られたイエローのステッカーの『夏の交通安全運動実施中』という文字をなんとなく眺めていて、そのステッカーが『 ....
(雨に濡れた明朝体のようなてのひらで羽だったあたりをなぜてください)
水のない水底で背びれをあらいあう僕らは人にも魚にもなれずに
「この鱗あなたにあげる。ともしびをわすれた夜のともしびとし ....
せめて はいさぎよい
悔いにのみこまれてもその上に震えたつ
涙もかれた花のいろをしている
せめて はもとめない
とうめいになったからだで小さなものたちを拾う
どんなにこぼれても心のあ ....
わたしのなかのうたが戻って来ないので
別の誰かのうたを飼うことにした
今はやりの詩人のうただ
アンティークの鳥籠の中で
はやりのうたは
毎日ひとつずつ違ううたを歌ってくれる
人を愛 ....
︱{ルビ淡々=あわあわ}と、それはとおく
ほうほう
紅いろ帯びた西域は灼け
あれは記憶に薄れゆく
旺盛なる高温期の名残りか
あるいはまた
時の{ルビ ....
郵便が届く
土間には闇が煮凝っている
突然降り始めた雨が
突然止む
いつでもそのようにして
決定がなされる
封をした血
もしくは黒い布
もしくは蛇の地図
砕けた枯葉
ば ....
硝子のセキレイ、鳴き声が届く、彼方、遥かの、
もういないあなたの鼓動、
耳の奥の回廊、すべて、ではない、
稲穂、誘い追う、昆虫たちが歌わない夏、
あふれる、記憶の洪水を押しとどめる、波、
な ....
沈みゆく陽の揺らぎ
それは
遠く、ただ遠く
待つことの幸せ
青いさかなの首飾り
それは
諍いのない空の果て
明日を生きる
水のこと
夜光虫の静かな灯り
ちいさく
名前を呼 ....
ガラスのような爪の角度で傷 喉を焼いた消息のもとに
運ばれる鉄線が 初めの陶酔に塗れている
帰るんだ 相殺するみたいな声だけで わたし と定義する
浸されていく盲目に 色を混ぜては瞬きをす ....
窓のこちらがわには 窓枠と わたしがあり
窓のむこうがわには 「遠く」が散らばる
「遠く」は みわたす限りに遠く
わたしには ただ罪があり
灰色の部屋には ドアーがない
わたしは ....
・ ・ ・ ・ ・ ・
木哺デハ
北東ノ風 風力8
気温7度
1024ヘクトパスカル
晴レ
鬱瀏島デハ
北北東ノ風 風力5
気温3度
1018ヘクトパスカル
....
どこまでも果てしないブルー憧れは波の彼方に今も揺られて
水平線沈む夕日を背に受けて終わった恋を海に葬る
悲しみは寄せては返す波のよう真珠の涙{ルビ零=こぼ}れたままで
今もなお忘れら ....
青さに眩む前に夜明けの列車に体を乗せた
何処までも続くような錯覚で、延長の向こうの水面を見ている
駆けて、星の海と鯨が昇る空と、眩しさだけの昨日と
仰ぐその瞬間にシャッターを切る
聴こ ....
落ちてくる、
展開されるいくつもにさよなら
穿たれる風景にひとかけらの曇り 風花
散ってはまたくゆらされるのでしょう
ティーヴィーで嘆く人の流れに
真っ逆様に落ちてくる鳥の影が
....
コンタクトレンズを入れる君の傍で
シンクに水を溜める音が響いている
悲しければ、と呟けばそこに
光るものが、あっただろうか
歌え、と促す君の指に 撫でられるようにして浮遊する
....
月を投げる所作で骨を嬲る
あなたよ
速度を落とし日に暮れ呼ばれ遊ぶあなたよ
春が待つようにして 白く落ちた嘆きがあるのだ
知らずして手をやる 水に揺れたのは破片であったか
....
かぜのつよい日に
まどを開け放して
ねそべっている
ちいさな
こどもたちは
光の輪を抱いて
右から左から
上へ下へと
舞い上がっている
雨は
そのうち降るだろう
月が ....
空が高い日は、鼓動がおちついている気がする。雨のふる日は、だからきもちが落ち着かないのかというと、それはそうでもなく、落ち着かないというよりは、鼓動をきれいに落としてしまっているから、からだは空き ....
愛情は肉のかたまりのようです
二十をこえても十の少女のようだった脚を
愛情はたやすく女のそれに変えてしまった
胸にも腰にも腕にも愛情は柔らかく実って
腕のすき間から零れるような身体ではない
....
哀しみという名の街で
二人 出会ったの
涙雨の降る街角
空も泣いていた午後
さびしがりやの恋人たち
ガラス細工の傘をさして
色褪せた通りを歩いていたの
心の傷跡なぞるように
冷 ....
バスタブに沈むさみしさはやはりぼくの唇のふるえと共鳴する
今日も暗色に温もりのかたちを教えてもらいながら眠ることになるだろう
この手で歌うことに慣れたぼくは
いつもそれを不協 ....
隣のビルに向かって叫ぶ
レモン!
酸味を含んだ飛沫が
届くといいと思って
レモン!
屋上で
柵に手をかけて
レモン!
箱詰めにしたレモンを
宅急便で送ってお ....
星空をみてた
指で細い線を描いた
流れ星をみた
折れた花の茎のように
頭を垂れた
空が白む頃
帰りそびれた月が
少しだけ
....
受けとめきれない言葉が在るのは
なんら不思議ではなく
すべての言葉を
受けとめきれるつもりで
自らを削ぎ落としてしまう行為こそが
とても不思議で
ただ哀しい
それなのに
まったく等 ....
ようやく僕の窓にも光が差して来て
暖かな日差しを感じるようになって来た
めいっぱい窓を全開にすれば
この病んだ部屋にも新鮮な空気が入って来て
まるで心が洗われるよう
しばらく窓辺で風に吹 ....
青い色、胸底でからむ
糸は しんなりよわよわしく
しかしどうやったら、というほどに
むすぼれてしまって
ほどけようもなく
手と手をとるとき
ふたりは
どこにいても
山の奥を感じる
....
月が綺麗ですね
と、めくらの蜘蛛は言った
その晩蜘蛛は
首の無い木々が出迎える小屋で
厭世的な予知夢を見た
翌日
音の無い花を食みながら
蜘蛛は言った
....
二ペイジ――ある光たちが生まれ寄り添い、
限りない凝縮と拡散を繰り返す。永遠を覚悟
していた闇が解き放たれ。
三二六ペイジ――まだ足らないのかもしれ
なかった。それでも満足していた ....
「未明」に、誰もいない路上で、まだ雪にな
ることのない冷たい雨を浴びて、不十分な「
存在感」を薄く薄く展ばし、かつ儚いその「
光」を凪いだ海面のように留めながら、生き
死になどついぞ関係な ....
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