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あたいは泣かない
全身全霊をもって感情を押し殺す
空が泣くまで、ぜったい泣いてやらない
耳のなかから歯が{ルビ一片=ひとかけ}こぼれてきた
それを拾い洗面所に行き鏡で自分の口のなかを見ると
欠けている歯はひとつもなかった
歯は依然わたしの手のなかにあった
....
小林峠の近くで
狐が轢かれて死んでいた
珍しいことではない
狐も 狸も 猫だって
だけど道路の端の方で
轢かれたばかりらしく
まだ そのままの姿で
顏だけが歪んで血まみれで
瞬間の ....
いやさなくて
いいよと
それはいう
かなしみは
いやされることなど
のぞんでやいないさと
筆先でなでていく
涙の成分は
瞳に必要なものだという
いわさきちひろの描く
こ ....
オイ、コーヒー
熱いのな
今夜は徹夜なんだ
最近どうも疲れちまってな
肩とか腰がずっと痛えんだよ
年かな
なあ、アイツはもう寝たのか?
そうか
構ってあげられてないんだよな、最 ....
梅雨の晴れ間に、ひときわ
紫陽花は朝陽に輝いていた、その朝
報せの電話が真夜中に鳴った
冷静と言えば、聞こえはよいが
私の応対は驚くほど事務的であった
どこかに、安堵が潜んでいた
....
指で織ったことばのハンカチを
わたしは丁寧に折りたたみ
そっとタンスへしまいこんだ
楽しいことだけ思い出せなくて
悲しいことだけ思い出す
ことばさえ出てこない
毎日だったの ....
そろそろ本気を出してやる
そう言い続けて25年になるが
未だに本気を出したことはない
今では本気の意味すら
分からなくなっている
本気汁ってなんだ!
ウソ気汁が出せるってのか!
....
中国に媚を売った民主党
アメリカに激しく媚を売る自民党
「美しい国日本」?
「強い日本」?
大国の駒になりたがっているようにしか
見えません
傲慢と誇りと矜持
似ているけれど
違う ....
つたったあとを
つたうものあれば
つたったあとを
つたわないものもいて
誰かのまなざしのあとを
なぞるものもあれば
誰かの言葉のあとを
なぞらないものもいて
きょうのまことが
....
なあ、うさぎ
おれが罪を犯したら
おれの愛したものたちも
みんな
燃やされゆくのかな
なあ、うさぎ
あいつの作った歌は
もうショップには並ばない
おれはあいつを知らないし
だが
....
どんな神が
人に 憎むことを
殺すことを
命じたのだろう
信仰などなくても
人は憎み合い
信仰などなくても
人は殺し合う
信仰などなくても
愛し合うことだって
でき ....
席はあったが
わたしは座らなかった
銀いろの月によく似た
さみしい言葉だけ胸の奥に置いて
けれども誰にむけたものかわからず
きまり悪い笑みをうかべて わたしは ....
この径は 小学生の頃歩いた径だ
カモシカの出る薄暗い通りをどういうわけか私は再訪する
時間をかけて少しずつ完成に近づいていく 一匹の軟体動物
私の躯で存在を大きくしていく ....
理性と衝動
その二つの直線に挟まれる時
感情はあらゆる符号を失い
道なき道をたどるお前の標となるのだ
右へ行ったカワウソは
けさ、左から帰ってきた
蘭の花が 腕の真ん中あたりで咲いていて
よく考えたら ゆうべきみがそこを強く吸ったのだった
部屋のあちこちに敷き詰めら ....
朝露に濡れた薔薇のつぼみよ
蕾の持つ美しさ
それは未来(あした)という一瞬の輝き
過去(きのう)は蓄積され
そして、沈澱してゆく
現在(いま)は消費され
過去の薄っ ....
さあ、どうぞと皿が私に差し出される
その上にきれいに盛られている
とてもいい匂いのする料理は
食べやすいように切り分けられている
中には苦いものもあるけれど
健康でいたいでしょう?
それを ....
アスファルトに残された雨
今は水溜りと名を変えた
干上がりかけたわずかな身に
懐かしい空を映す
風の愛撫にさざなみながら
二羽のすずめが水浴びする
天と地といのちが戯れ交じり合う
明 ....
門のむこうから
犬らしき影が近づいてくる
私は 昨夜みた夢のなかで書いた
一篇の詩を 門のこちら側に置いて待っているのだが
犬らしき影は 近づいてくるだけで 決して ....
白髪の師は
開いたドアに凭れて
私を待っている
次に私が
ドアを抑えて
青年を待っている
ほんとうのことはそうして
語り継がれてゆくだろう
ドアを抑えて立つ、私の傍らを
....
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その人の手は
ほっそりとして
冷たい手だった
いや冷やかな手だった
上手く想いが伝わらないが
こちらの熱を冷ましてくれ ....
雨音の向こう側に
ジェット機の爆音が
ごうごうと通過するのが聞える
わかりやすい
聞こえのいい
情に訴える言葉の裏に
狡猾に織り込まれた思惑が透ける
雨の向こうに
鳴り響く轟音 ....
ぼた餅の重さで棚が落ちた
引っ越した日から
時々庭に来ていることに
気づいていた
人になついているのかしら
窓から眺めながら
そんなふうに思った
出ていけば
きっと逃げるのだろうな
ある日、庭で草取りを ....
弟が死んた時、俺はにやっとしてしまった
仕事も休めるし
ずっと苦しんでいるよりは死んだほうがいいだろう思った
当時子供がまだ赤ちゃんで俺はきつい土工の仕事をこなしていた。
京都でアル中にな ....
言葉と言葉を繋いで紙の上
裏返しにしたらもうあなたはいない
見えないところで
優しさといのちを繋いで
載せる人差し指は悲しく踊る
詩に説明はいらないとは
誰かが言った言葉だが
ここにある ....
耳元で囁く日常
猫がじっと目を凝らして
僕の眼をのぞき込む
だらだら歩いていた日常が
突然両手を上げて走りだす。
平穏に不満を述べている日常が走りだす。
大声を上げて
テレビの事件が ....
あなたの黒い長い髪がうたうたび
わたしの胸はいちいちこまかく傷つきました
海岸のガラスみたいになめらかにちいさくなっていくわたしを
拾いあげて陽に透かして
その美しい呼吸を一瞬でも止め ....
ぼくの化石が、笑いながら尋ねる
もう春ですか、と
やさしい物音が辺りに満ちてきたから、と
そう尋ねた時、湖水で何かが跳ねた
漆黒の深い闇の底へ、光はすべて埋葬され、
1つの箱だけ ....
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