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  忘れたものだけ
  見ることができた


  床に張った
  埃 夕日の格子型
  蛇口に残る 唇のような水
  言うことができた
  言い尽くしたことだけを


  ....
  約束の時間にすこし遅れて
  寂しさの続きのような場面が始まる
  駅舎の街灯に羽虫が 丸く 集る


  高架下 ラーメン屋に入る
  やがて感情は数枚の貨幣に似てくる
  ....
  川を越えて
  戻ってこなかった
  砂利になった言葉ならば
  ひとつかみにして 気のすむまで
  玩んでいられるのだが


  駅の屋根に
  ふる雪のかなしさ 静かさ ....
  読みさしの本に
  めがねを置いて

  電気をけして寝る
  かぜのたたく
  春のよる

  飼っていた 小さい いぬ
  ゆめのなかで やわらかく
  きみの手にだかれ ....
  笑んでいた
  旋律のような歯
  高層ビルが 欠けた明かりたちを
  組みあげていく わたしの書く風景
  潮錆びた 港湾都市の
 窓際にいて
 日差しが区切れていく
 とどめられた 文章
 なにか 約束のようなものを
 忘れるときのにおいが この世界
  みぞれ雪が 都市に注いで
  ごくすみやかに歌となる
  その疾さで のどがかわいていく
  煙草を 二口 吸う
  毛皮のコートを着て出かける
  ねこが
  しみこんでいる路地
  空がきれいだ
  電線が微かにたわんで
  ビルのむこうまでみえる
  わたしたちが死んでいくのがみえる
  あなたがきて
  雨がふった

  かなしくはない
  幸せでもない
  木がゆれた

 
  日が落ちる
  あたりがくらくなる
  街のかげが 夜になっていく
  ....
  わたしを欠いたまま
  わたしを欠くことで
  蛞蝓は 祭り路に垂れて

  三十二歳の
  女の唇のようなかたちの
  乾きが 丸くひらく

  信念の青さで糊をした
 ....
  糸球になって いつしか
  あお空へうかびあがっていった
  幼年期のぼくらのなさけなさ

  小さな 薄明るい唇の
  きれいなおさげ髪の女の子
  もう 全然 うつくしくは ....
  どこかの駅で
  列車や言葉や人影など


  待っていた
  観念的な雪を肩に
  積もっていくにまかせ


  けれど沈む日の悲しさだけは
  わたしたちを灼いてい ....
  見えつつ
  あるものの内壁へ
  つたう光へ、冷えた天使をみつめていた
  腫れ房を成す、{ルビ硝子景=ガラスけい}の、あなたがたの
  優しさから眼をそむけた
  見えつつ  ....
  把手こそついていたが
  その壁は 扉ではなかった
  今のわたしにはそれがわかる
  たわわな果実のように 美しい 直方体の
  寂寥だけが 向こう側の 壁際に置かれている

 ....
  山道の草木を横切る
  ギンヤンマの蒼い複眼に
  私たちの過去が沈んでおり
  どうやら今も放熱を続けている
  遠く 手放してしまったものも
  未だ近く 触れられるものも
 ....
  わたしは座る
  青空がゆれている
  かなしいという言葉がなぜか
  小さな虫みたいに空気をうめていく


  なつかしい歌を思いだして
  気持ちだけが静かになっていく
 ....
  青毛の馬が 風にまかせ
  わたしたちを連れてきた
  潰れかけの酒場はまだ 開くには早い
  空き瓶が入っていない 汚れたビールケース
  うるんだ眼がわたしたちを睨む
  わ ....
  天使は窓の縁に座り
  少しずつ透き通り 外の闇と
  見分けがつかなくなってしまった……
  バッハの遺した鮮やかなコラールが
  床の木目に 僅かな痕をのこした{ルビ後=のち} ....
  かれらが、一体なにを
  言いたいのかちっともわからず
  ことばのなかにひらめく暗闇をさがした
  目を凝らして 耳を澄ませて 鼻をとがらせ



  けれども本当はかれら ....
  驚くに値しない
  あなたの指のなかに
  古い町がひとつ埋まっていようが


  青い部屋でわたしは 静かなチーズを齧る
  散らばっていた 丸い 悲しみの粒を
  一列に ....
  硬い建物は
  不躾な質問に似ている


  夏の朝、
  青い樹がそよぎ
  世界から こぼれ落ちそうになると
  わたしは動けなくなるのだ
  かつては二つ並んでいたが ....
  父さん、母さん
  くさむらで鹿が跳ねています
  団栗がそこらじゅうで黙っています
  西陽に つらぬかれた 海馬の影が
  フィドルの調べにさそわれて
  妖しくはしります… ....
  赤い皿に
  老夫婦が座っている
  男の穿くすててこは膝が破け
  女の手に握られた琥珀色の数珠には
  結び直したあとがみえる
  うつむいて目を閉じ、かれらは
  眠って ....
  緋色の籠は いつも
  夜がくるまで あなたの
  六畳の寝室に置かれていた
  房をなした影をひとつひとつ掻き分け
  大なり小なりの
  扉がついたところでしか
  きくこ ....
  冷えた三角形がピアノ線で
  夜に吊るされ 波打っている
  白いチョークで昼のうちに引かれた
  いびつな線路をたどり その女は
  むかつくほどきらいな男に会いに行くところだ
 ....
  あの後、わたしたちは
  ふたりで 雨の骨をひろった
  萎れたすみれの花に似せて
  造られたかのような
  蒼い 夕暮れ
  果樹園の頭上を滑る鳶の影  
  廃材が積まれた惨めな河辺
  男がトラックの荷台に腰掛け
  たばこを吸いながら私のほうをみている
  私の人生から消えていったあらゆる者たちが
 ....
  昨日の小さな咳が
  その椅子の陰で
  私たちを見上げている
  物欲しそうに 実を言えば
  見知らぬ女の口の中には
  汚い野犬の歯が並ぶ
  白い歌をうたう
  わたしは悲しくない
  わたしはあなたを愛していない
  疲れた笑みのような夕暮れの町
  静かな木板に穿たれる曲がった釘
  汚されたシャツのために
   ....
{引用=−−フレデリック・ショパン「夜想曲第十番」に}

  石膏の雨は
  落ちてきて 割れた
  さっき みじかい嵐は
  苔いろの器を引っ掻いていた


  渦のような部屋の 何 ....
まーつんさんの草野春心さんおすすめリスト(290)
タイトル 投稿者 カテゴリ Point 日付
果物籠- 草野春心自由詩1123-11-14
羽虫- 草野春心自由詩623-11-6
歳月- 草野春心自由詩923-10-9
託す- 草野春心自由詩323-5-24
風景- 草野春心自由詩222-9-24
文章- 草野春心自由詩422-6-25
みぞれ雪- 草野春心自由詩322-6-4
ねこ- 草野春心自由詩9*22-2-23
あなたがきて- 草野春心自由詩3*18-5-24
- 草野春心自由詩218-5-3
吹替え- 草野春心自由詩218-1-21
冷たい駅- 草野春心自由詩416-7-18
冷えた天使/見えつつあるものの内壁へつたう光- 草野春心自由詩816-6-4
把手- 草野春心自由詩515-9-22
過去- 草野春心自由詩415-7-26
青空- 草野春心自由詩615-7-12
青毛の馬- 草野春心自由詩215-7-12
Choral- 草野春心自由詩515-7-4
かれら- 草野春心自由詩415-5-24
並べる- 草野春心自由詩16*15-5-23
不躾な建物- 草野春心自由詩515-5-17
人生- 草野春心自由詩215-5-5
赤い皿- 草野春心自由詩215-5-5
緋色の籠- 草野春心自由詩315-5-4
冷えた三角形- 草野春心自由詩315-4-30
雨の骨- 草野春心自由詩415-4-25
廃材- 草野春心自由詩815-4-17
昨日の咳- 草野春心自由詩315-4-17
白い歌- 草野春心自由詩3+15-4-11
石膏- 草野春心自由詩415-4-8

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