わたしは喜んで嘘を書こう
ただのみきや

瞳の奥底に隠れてこっちを覗いている
裸の抒情の手足を縛り上げ
哭きながら何度でも犯し続けよう
石切り場から運んできた
重い想いを凪いだ風に浮かし
寛容な字面をことごとく摩耗させて
のっぺらぼうのまま光の中でのたうち回る
一つの意思を帯びた最初の投石としよう
やわらかい舌で
固い違和を削り取れ
火をつけては手品師みたいに消してみろ
愛という名の鋭利な刃物が
心臓に互いの名を刻み付けるように
羽化したばかりの言葉の群れも
やがて残響で世界の生皮を剥ぐだろう
道化のふりをして
賢者のふりをして
ニンゲンのふりをして
ニンゲンではないふりをして
笑いながら甘露に溺れ
真っ逆さまに天に落ちる落雷
つめたい焔を灯し深層で大風呂敷を広げ
ムーブメントの外でひとり踊りまくれ
語感のナイフを成層圏まで蹴り上げろ

わたしは喜んで嘘を書こう
できないことを書こう
時々ドアの隙間から
真実の背中だけを覗かせて
善良な詩人なんてまっぴらごめんだ



     《わたしは喜んで嘘を書こう:2014年7月27日》






自由詩 わたしは喜んで嘘を書こう Copyright ただのみきや 2014-07-27 20:45:32
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