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わたしたちは
結ばれた みじかい紐のように
そこに置かれていた
女たちが 色々な名前をよびながら
入ってきて
そして 出ていった
わたしたちはほんとうに望んでいた
だれかが、 ....
驚くに値しない
あなたの指のなかに
古い町がひとつ埋まっていようが
青い部屋でわたしは 静かなチーズを齧る
散らばっていた 丸い 悲しみの粒を
一列に ....
空想と現実を行き来する
冷蔵庫を開けるまでは
卵は空想の産物であり
白い宇宙船であったりするけれど
取り出して目玉焼きを作る段になれば
さっそくそれはフライパンの{ルビ最中=さなか}で現 ....
詩人がみんな
ことばが消え去るのをまっている
画家が黒と白の絵の具を混ぜつづけるように
教師たちは生徒を置いて家へ帰る
神父さまは折れた十字架でシャーベットをすくう
詩人はみんな
こと ....
たった三日でもわたしをあなたのテーブルに飾ってくれてありがとう
消毒臭くて清潔な水は、もちろん雨よりも美味しくはなかったけれど
あのまま樹にいたとしてもどのみち無残に滅びていく事にかわりない
....
街かどの女たちに
欲しがるだけ黒を与える
得るごとに欲深くなるさまは
日没のようにうつくしかった
さてわたしは
いよいよ壊し始めたこの柵の残骸を
きょうは焼場へ持っていき
そうし ....
硬い建物は
不躾な質問に似ている
夏の朝、
青い樹がそよぎ
世界から こぼれ落ちそうになると
わたしは動けなくなるのだ
かつては二つ並んでいたが ....
駅前ターミナルに到着しようとしていた
路上に杖をついた高齢の紳士が
窓のすぐ下に見えた
彼の進む先には確かにバス乗り場があるが
そこが人の歩くべき路でないことに
既に気付いたのか
ほんの少 ....
平面の布に
針を刺していく
そうして出来た
糸の道を引くと
操られるように
現れる
立体の波は
少女の真新しい綿のスカートの裾を
縁取って踊った
風、曲面のゆらぎ
影とひかり
....
これは本当の猫じゃない
昼間は猫のふりをしているが
真夜中、家人が寝静まる頃
ぼんやりと白く光って
人のかたちをしたものに
そして私の布団に
勝手にもぐりこんでくる
私はそれをだきしめる ....
あら、あなたも?
実は私もなのよ
事務員の女性と
思いがけず話が弾んだのだ
深海魚を
飼っているという
全く気付かなかった
日ごろ仕事のやり取りをしていると
明朗快活で、そんな様子を感 ....
つるーっと
玄関から入ってきた
ひとつのボール
丸いな
手にとるわたし
明日は晴れるのかな
お母さん
きっと晴れね
これ水色だもの
受けとるお母さん
夕ご飯は何 ....
星はながいことひかって
ねむるように消えた
わたしたちは棺桶工場のすみにすわって
それをながめていた
とてもとおくながいところを
物語がながれていくのや
歌うたいたちがはじく音符がこぼ ....
だれかの中に
深い森があり
そこから時折
聞こえてくる
ピアノの旋律
たどたどしく
弱弱しいので
耳を澄まさなければ
上手く聞き取ることができない
鳥は生まれつき
歌の遺伝 ....
父さん、母さん
くさむらで鹿が跳ねています
団栗がそこらじゅうで黙っています
西陽に つらぬかれた 海馬の影が
フィドルの調べにさそわれて
妖しくはしります… ....
赤い皿に
老夫婦が座っている
男の穿くすててこは膝が破け
女の手に握られた琥珀色の数珠には
結び直したあとがみえる
うつむいて目を閉じ、かれらは
眠って ....
緋色の籠は いつも
夜がくるまで あなたの
六畳の寝室に置かれていた
房をなした影をひとつひとつ掻き分け
大なり小なりの
扉がついたところでしか
きくこ ....
ぬかるみは
青空をすいこんで
ますます深くなっていく
なにもかも捨てたと思っていたのに
肌じゅうに あこがれやさびしさが結ばれて
じゃらじゃらがしがし鳴っている
いつかもこんなふう ....
町を出る日
旅人は一粒の種子を
宿屋の庭にそっと植えた
宿屋の主人にも女将にも
内緒でこっそりしたことだった
次に旅人が戻ったとき
種子は芽を出していた
旅人は快活に
海辺の村落の ....
一瞬で
りんごもにんじんも正論も砕かれ攪拌されてどろどろのジュースになるみたいな
彼女だけの鋭いミキサーのすいっちは日常のいたるところで押されるのだった
あるいは一瞬で
女子なのにおおかみ ....
冷えた三角形がピアノ線で
夜に吊るされ 波打っている
白いチョークで昼のうちに引かれた
いびつな線路をたどり その女は
むかつくほどきらいな男に会いに行くところだ
....
盤面に行儀良く並んだ歩兵
敵の攻撃を真っ先に受け将を守る
時には味方にも無視され
時には邪魔もの扱いされる歩兵
敵陣深く突入して将となるも
あっさり討ち死に
そして 次には
味方だった将 ....
とある船乗りがいて
心に窓を持っていた
長い航海を終えて
陸に上がると
海の上はもうこりごり
これからは陸の上で
のんびりと暮らすんだ
なんてぶらぶらしていたが
しばらくすると
窓が ....
木々があいする木漏れ日のこと
川がめでるせせらぎのこと
雨が求めるつちの渇きのこと
太陽がほしがる水溜まりのこと
夕日があこがれる水平線のこと
朝陽がのぞむ暗やみのこと
....
皆、同じことをやってる
けれど、君のオカリナは
君だけのものだ
皆、同じことをやってる
けれど、君のためいきは
君だけのものだ
皆、同じことをやってる
けれ ....
今日は一日山登り
家に帰り片づけて
お風呂に入り
布団に横になる
目を閉じるとたくさんの
光が溢れてくる
身体が温かい
こぽこぽと生まれてくる
弾けて飛んでいく
私は
風に ....
教室では
四十名近い生徒が
ひしめきあっている
各々が心の中に
深海魚を飼っている
十数年教壇に立っていて
唯一発見したことだ
このせまい教室の中で
信じられない形の魚が
一つとして ....
あの後、わたしたちは
ふたりで 雨の骨をひろった
萎れたすみれの花に似せて
造られたかのような
蒼い 夕暮れ
真空が風になったら
有が無になるのだろうか?
インターネットを通じて世界は
僕に逐一指示を出してくる
でも、時々、僕はそれを
風の中の雑音と聞き間違える
大学生 ....
風が吹いて
森の産毛がわっさわさ
木々が揺れる
私の産毛もわっさわさ
森が色濃く息をする
膨らむ膨らむ
私の心も
一体となって
一部となって
広がる意識と感覚
目を開けると
生命 ....
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