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柄杓の水は
揺れていた 一つの言葉のように
だが青い空の深みに俯き
だが石たちの慎ましい薫りに愕き
私たちは 黙っていた 私たちは
小さな山羊たちが
ぬれた坂をおりていく
夕暮れ時は、浜からの風が
舞いあがる砂と 金いろに踊っていた
こんなことも すぐに わすれていくのだろうが
私たちは ....
春のうえに あなたは
静かな芝生を残していった
私は眠りたい
私はもう、何も歌いたくない
建物の影が私たちを押し潰す
月の光が埃のように降って落ちる
あ ....
私は十年ほど前に
リサイクルショップのビラ配りをしていた
すぐやめてしまったけれど
一軒のポストで
お爺さんに呼びとめられて
昔学生時代に何十万もしたというイタリア製の
壊れたアコーディオ ....
せっかくの日曜なのに
私には描ける絵がない
私には筆がなく
私にはカンバスがない
私の街には森がなく
湖がなく
私の家のキッチンには
新鮮なオレンジも
燃えそうなリンゴも
清楚な百合 ....
尖った頭を空に突き刺し
高く背伸びする痩せたキリン
細い足
長い首
彼の後ろでゴミ焼却炉の巨大な煙突が
絶え間なく白煙を吹き上げる
キリンの足元に聳え立つのは
四頭の青いラクダ
....
広い世界に出るなら
風をひとひらください
私の言葉が間違っているとあなたは
指摘しないでください
あなたの言葉が何であるか
私は知りません
私は ....
天気予報は外れなかった
夕方になって
しずかに雨が降り出した
私の傘に
囁くように
なぜるように触れ
ほのあかい
夕暮れのふもとの風景を
霞のように滲ませて
幽かに微笑み
精一 ....
やわらカイ貝殻カラかなもじの
ぬるっとした意味うまれる
りょうせいるいかしら
もしかしてしかしら
しらしからぬしかしら
おかしらつきのおかしなしかしら
ナンタイドウブツカシラ
....
私を望遠鏡で覗きこむ
遠くから眺めるとよくわかる
良くないことを考えると顔に出るぞ
もう少し背筋を伸ばしたほうがいいな
人をあまりきょろきょろ
見ないほうがいいかな
口をあけたまま
ぽか ....
しみる みてみる してみる 夜
よくなる みえる しめる のる
しなる なくなる ゆるめる 夜
みるみる みえなくなった よる
帰宅すると妻がキレていた
子供が泣いている 上手にお座りしながら
帰りが遅いとキレていた
仕方のない理由 会議とラインしたが既読スルーだった
育児中のストレスを二人で割っているつもりだけれ ....
あなたにも見えているはずだ
うつわにそそいだ牛乳の
薄皮のうえで 時間が滑っていくのが
私たちはこの椅子に座っているが
やがて立ち上がり部屋を出るが
わたしたちはそれを知っている
わたしたちはそれについて知らない
刈り入れたものを幸と不幸に仕分け
四角四面の境界で善悪のチェスをする
しかも恣意的に
晴れた日に傘と長靴で出歩く者への嘲笑 ....
何年か前
村娘ということばを
書きとめておいた筈の紙に
もうなにも書かれていない
のど飴のにおいのする部屋
朝の間、わたしたちは
買ってきた果物をかじっ ....
あなたはまだ波をしらない
もみじをふくらましたような幸福な手のひら
でもそのうちにわかるようになる
あなたのなかにも潮があって
みちたりひいたり するのを
そうしてそれが
あなたのから ....
アパートの一室に
紳士が帰宅する
革靴を投げ捨てると
ガポッと悲しい音がして
玄関に落下する
男は風呂場の蛇口を捻る
じょぼじょぼと
悲しみがあふれ出し
すぐに浴槽はいっぱいに
そこ ....
疾うの昔に
灯りは消されてしまっていたが
{ルビ空=そら}の部屋に、青さだけ残っている
それ以外はみな どこかへいってしまった
わたしは 幾つか咳をこぼす
そ ....
肩を落として
足を引きずるようにして
のろのろだらだら歩いている
一人ぼっちの少年
どうした
なにがあった?
学校で辛い目に会ったかい
家に帰りたくないわけでもある?
仲良しの友達 ....
五月の風の透明さ
雨上がりの石畳のにおい
雪の朝の静寂
足元をさらう波の清廉さ
出発前夜の胸のざわめき
日曜午後のあきらめにも似た安らかさ
わからなすぎる夜の身もだえ
泳いだ後の満たされ ....
飴玉
また噛み砕いちゃった
我慢できずに
ばらばらの気持ち
ゆっくり
舐めたらいいのに
こういうときは
せっかちだから
噛み砕いちゃう
少しでもあなたの気持ちをと
少し時間がたてば ....
一人前 たまご三個は使いたい
これは食べ盛り男子向きなのだ
たまごを割ってボウルに入れ
醤油をたっぷり入れる
過ぎない程度に良く混ぜる
どんぶり飯に乗せて食べるのだから
しょっぱいくらいが ....
おとうさん
あなたの遺した杖がある
この杖をつき
生まれ故郷の野山を散歩するのが
最後の楽しみだった
歩くことができなくなってからも
ふるさとの山の桜を見に行くことが
最後の希み ....
「ほんとうは何処にある?」
探しても見つからない
探し続けるためには
生きねばならない
だから仕事につき
いつしか妻をめとり
まもなく子が産まれ
ようやく家を借り
中古車を譲り受け
....
バスの座席に身を沈めると
自分の居場所を見つけた気がした
乗客は疎ら
誰もが無言で
窓の外を見つめている
赤いテールランプの川
灰色のまま濃くなる空に
星のように瞬いてとび去る
....
まっしろなカップに
夜が満ちる
からっぽなわたしは
真っ暗な部屋で
夜を見つめてすごす
安堵のなか
ごくり ....
昼過ぎに起きて洗濯物を廻す
ベランダに出てみればまるで春みたいにいい天気じゃないか
家にいるのはもったいない
ネットで息子の耳鼻科を検索する
下敷きを無くしたらしいから買いに行ってやらなけ ....
長い雨でたわんだ箱に注がれ
わたしたちの影は混合される
飛沫は獰猛なひかりを二割ほどふくみ
素っ気ない白衣などに 付着する 未練がましく
そして だれもが わたした ....
灰色の道の上に
ひとつの疑問が落ちていた
ずいぶん昔 この胸に生まれ
しなやかに若木のように育ち
そして出て行った
いつか答えを見つけるのだと
朝の光が包む白い道を
振り向くこともしない ....
死ぬ。
という言葉は重たいので書きたくない
書いているのは
そろそろ自由にしてあげたいから
それほどに今は
定義することに困惑している
うつ病の母が書をしたためている
私が幼い頃 ....
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