哺乳類の絶滅
やまうちあつし

 悲しみをとぼとぼ辿っていくと、駅のホームに辿り着いていた。なんだ、もう一度出発なんだ。そう気付いた時には、もう旅人の顔をしている。ホームには、自分以外の人影は見えない。柱に繋がれた雑種犬と、自愛に余念がない天使。
 コートは古びたものだった。おそらくは何人もの先人が着古したものなのだろう。我々がどこかに行くために旅が続くのではない。一着のコートが受け継がれていくために、旅は続いていくのでは?
 懐から煙草を取り出し、安いライターで火をつけた。すると薄暗いホームにぽっと灯りが点る。
   それは世界でたった一本の煙草だ。
   後にも先にももう二度と
   そのような煙草を吸うことはないだろう。
 構内放送が予言めいた言葉を告げる。あちらでは天使が手を止めて、不思議そうにこちらを見ている。
 鞄には白紙のノートが入っているはず。鉛筆はどこかで調達することにしよう。僕の名前はひらがなに戻った。いつの日か単なるいきものの一つに分類される。汽笛が聞こえた。あれは新しい挨拶だ。しらないところにいくために、僕の名前はひらがなに戻った。


自由詩 哺乳類の絶滅 Copyright やまうちあつし 2014-07-23 12:57:14
notebook Home 戻る