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{引用=––フレデリック・ショパン「夜想曲第六番」に}
球
それはひとつあった
それはさっきまでひとつではなかった
あるいはこれからひとつでなく ....
日本にはね
本当の荒れ地も 砂漠もないんだよ
確かに
火山の荒れたガレ場や 海浜の砂丘は
あるけれど
それは 緑豊かな大地のツマ
それがあって
それも含めて
大地は一層美しくなる
....
人には全裸になっても
見えない部分があります
隠しているわけではありません
母は江戸と背中を見て死にたい
と言っていました
その頃
江戸はもうありませんでしたけれど
背 ....
細々と清らかな
自我を削ぎ落したような声の集合
僕らはみんな生きている
生きているから歌うんだ・・
なにかもっと
違う歌を歌えばいいのに
コミュニティセンターの廊下に
西日はさし ....
傾いた地軸
偏った陸地
青い皮膜の
かなしい星
辿りついた{ルビ宇宙=そら}の墓場で
焦げ付いた岩山
焼け落ちたジャングル
壊れた玩具のような都市の欠片
積み荷を降ろし
今はすっ ....
数え切れない
手に負えないくらいの
幾千枚の白いはなびらが
ほとんどいっせいに
枝という枝を離れて
舞い踊る
まるで蝶のように
儚げであるのだけれど
或る意志を持って ....
息を殺して真夜中ミノムシになる
あの日の空は青かった
夏が終わろうとするほんの手前
夕暮れ迫る束の間の時刻
受話器の声が世界の音を奪い去る
....
あおい瓶が 枯葉の水を噛んで
斜めにさしていく光が さがしている
あなたの瞳は 樅木の陰にいて
微笑っている 葡萄のように
ああ もっと遠くへいきたかった わたした ....
冷蔵庫にジャムや
ピーナッツクリーム
スライスチーズがあるとき
知らぬ間になくなってしまう
誰だ食べた奴は
と言ってみたところで
夜起きて
半睡状態で何かを食べたのは
私に違いない ....
どんなふうにしてか
わからないがそれほど悪くない朝
カーテンがわずかにめくれている
白線をたどるように一日を思い描く
そして、
あなたのことをもうそれほど好きではない
それは意外なほど ....
自分に背を向けて歩く
世界が終わるという予言を
紹介するテレビ番組を見て
下の娘が心配している
「ねえー、終わらないでしょー?」
ぐずぐず絡む娘をあしらいながら
妻は蒲団を敷いている
上の娘は気にせぬ素振りで
....
泳げない魚だじっとしている
急いでいるのか
寒くてしかたないのか
女子が小走りしている
大きなショッピングモールを
自転車で横切ると
裸の木々に電飾がいくつも巻かれ
楽しそうに優しそうに
綺麗に輝いている
....
餃子がね
とっても美味しいんだよ
昔ながらの佇まい
町の人達が
あちらからこちらから
電話も鳴って
店先で
生か焼きかを選んで買っていく
ラーメンとかもあるけれど
餃子二人前とラ ....
そうしてわたしたちは眠りについた
朝、
無遠慮にかたちを引きずりだす光にまみれながら
疲れきって でも
ほっとして
役目を終えた靴のように萎びて
わたしが
とても小さなこどもだった頃
なにも知らない
知らないということが許されていて
それが
どんなにか幸せだったかということさえも
知らなかった
笑うたび頬に
くぼみを作っていた頃 ....
鬼の子に『桃太郎』を朗読させる小学校教師
私のてのひらの雨雲を
誰かに届けるために
来たのかもしれない
役割は
私が与り知らぬところに
あるのかもしれない
笑うかもしれない
怒るかもしれない
まっすぐな犬のように ....
いくら死人に口なしと言ったって
死んで間もない死人はそっとしておけ
代弁なんて口寄せじゃあるまいし
死んで間もない死人をパペットにするな
祭り上げるな自分たちのために
理想の英雄に仕上げるな ....
猫になる理由は無数にある
仕事がイヤになったとか
満員電車がツラすぎるとか
一人になりたい時があるとか
どこかに行ってしまいたいとか
生きてく理由がわからにゃあ
どうするべきかわから ....
ひとつも
うまく言えない気持のする
2月
ぼうと立ったまま
こころのなかで
頁を繰って
見つけます
いとしいかわいいやつら
あなたはもうあなたになりましたか
森の手前でと ....
しゅんしゅんしゅんと
蓋をカタカタ鳴らしながら
やかんがじれている
それを尻目にガリガリと豆を挽く
ペーパーフィルターの二辺を
丁 ....
君と夜更かし
君と猫じゃらし
君と雨ざらし
君と市中引き回し
君とおかまいなし
君と御伽草子
君と裏返し
君とアメフラシ
君は幻
七月のある日 兄は ぼくを呼んだ
風通しの良い部屋に一人伏せていた兄は
「今度は帰れないかも知れない」という
「弱気なことを…」
ぼくはそう言ったきり次の言葉が出ない
幼少時父も母も病で ....
一面の雪の朝
私は
兄とかまくらを作る
田んぼ中の
雪を集めて
できました
私たちの秘密基地
しゃがんで入れば十分余裕
通学路からも
はっきり見える
不格好な雪の家
それ ....
朝の五時半を少し回ったころでした
六畳の畳が漂流し始めたのです
思わず活けようとしていた椿を咥えましたの
そうしてうんと股を開いて立ち上がりました
初めてですこんな太ももの上まで晒しちゃって
....
時々思い出す
二段ベッドの下のうすい隙間に
うつ伏せになって潜りこんでいたこと
とても気持ちが落ち着きほっとする
目を細めると
奥の奥へその先があるような
私はぺらんぺらんになって
....
バイパスを車で走っていると
右手から
白い猫がとび出してきた
ひいた!と思い
急ブレーキをかけた瞬間
左手の方へ
黒い猫が走り抜けていった
不思議に思いながらも
安堵して
私は車を走 ....
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