悲しみ紳士
やまうちあつし

アパートの一室に
紳士が帰宅する
革靴を投げ捨てると
ガポッと悲しい音がして
玄関に落下する
男は風呂場の蛇口を捻る
じょぼじょぼと
悲しみがあふれ出し
すぐに浴槽はいっぱいに
そこに身を浸すと
しばらくは身動きができない
これではいかんと我に帰って
風呂から上がる
買ってきたつまみを食べながら
ビールを飲む
テレビではお笑い芸人が
新ネタを披露している
ひとしきり笑って
気分が変わったところで
明日も早い、寝るとするかと
布団の中へ
うとうとまどろみ始めた頃に
人の姿をしたものが
隣の部屋から現れる
悲しみが添い寝する


自由詩 悲しみ紳士 Copyright やまうちあつし 2015-03-10 12:34:42
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