横浜・野毛の老舗「村田屋」の座敷にて
鰯丼の傍らに、置いた
味噌汁の真ん中に
豆腐がひとつ、浮いている
(天井のらんぷを、小さく映し)
澱んだ味噌汁の、只中に
くっきりと、立体的に ....
遠い異国のサクラダファミリア
風変りな教会・巨大な{ルビ獣=けもの}
ガウディの亡き後――今も尚
残された人々の手で創られているという
建物は、ひとりの生きものかもしれぬ
一人ひとりの人 ....
お父さん 僕にお母さんをくれてありがとう
お兄ちゃんやお姉ちゃんをくれてありがとう
沢山の旅行に連れていってくれてありがとう
病院までおんぶしてくれてありがとう
塾に通わ ....
みずからの
水だけで
果実がジャムになる
という方角を
みつめている
わたしという誰か
くつくつと
やがて
ぐつぐつと
そうして
やがて
なにも言わなくなる
鍋だけが焦げてゆく ....
僕の歩速はアンダンテ
歩幅はきみを抱きしめるときの喜び
世界はストーンサークル
星の影を測る物差し
僕の耳はユーフォニューム
B♭で風の音を聴く貝殻
きみは狂った時計が時を刻む ....
春風に吹かれて
友訪ねともに買い物せむとてや車に乗りて弥生も末
今日の空うす紫に雲もなく川の青柳ゆれておりけり
車窓より春のそよ風吹きこみてややもひんやり光りさす道
真昼なり ....
歯ブラシが増えて洗面所が明るくなった
あしもとまで嘘つき吸血鬼
終点で目覚めるとポテトチップスになっていた
どうせならコンソメパンチになりたかったが
のりしお
よりによって
のりしお
うすしお ならまだ良かった
歯に海苔がついて
口の中にカビ ....
「みんなが俺を蹴りやがる
逃げても逃げても追って来る
囲まれては蹴りまくられて
仕舞には頭突きでふっとばされて
時には拳で殴られて
そんな毎日 地獄の日々―― 」
「みんなが私に夢 ....
空き箱を捨てようとすると
捨てないでと
声がする
ほうら
よく見て
案外魅力的な箱でしょう
中身がなくなったからって
存在価値がなくなったって
ことじゃないのよ
むしろ
そこか ....
とうめい が
好きですよ
漆黒も
好きですよ
漆黒が とうめいな日が 好きなのです
玄武の闇漆黒の岩石の中でケイセキは ちかっと 輝いて
その輝きは あまりに ちいさいので ....
こたつと蜜柑の季節が終わって
それでも フッと食べたくなる蜜柑
蜜柑産地のJAで赤い網袋に入って
300円の値札を付けて並んでいる
{ルビ寒=かん}の間{ルビ室=むろ}に貯蔵されていたものだ
....
道の途中の四辻にて
{ルビ運命=さだめ}のように、二人は出逢う
――旅に出るか
――はい
芭蕉と曾良の同行二人は
見送る人々のまなざしを、背に
(川の畔に風は吹き抜け)
旅の小舟 ....
六本木の美術館に、足を運び
蕪村の水墨画の風景で
「東屋に坐るひと」が聴く
滝の音に――耳を澄ます頃
ポケットに入れた携帯電話がぶるっ…と震え
展示スペースの外に出て
「もしもし」と、 ....
あたしは誰とも
共感なんてしたことが無い
本当は
誰にも同情なんてしていない
カラスの群れの中に
カモメが迷い込んで
鳩の群れの中に
インコが紛れ込んで
周りの誰とも違う歌 ....
様々な波長のことばに耳を傾ける
舞い散る花びらのように光をもとめて
あるいは影に紛れてかたちを失ってゆくものたちよ
羽化して浮揚する繊細な翅を持つ蜉蝣のように
永い水底の想いををうたにして ....
傷心の時
人は季節を忘れる
今がいつなのか
ここが何処なのか
茫然として
うわの空
それでも季節は巡る
新しい風が吹いて
花々が咲き
陽の光は注ぐ
あなたの肩越しに
滔々 ....
つぼみの中で育まれ
花びらが連れてくる
それが春、出会いの春
華々しく出航したはずの
船の羅針盤は
いつの間にか壊れて
勿体つけて差し出された
六つ折の海図は
ほとんどが嘘っぱちで
最初は威勢が良かった
スクリューには
得体の知れない ....
出来損ないの風船みたいな赤い丸答案用紙に不時着をして
さびれたふうの手芸屋で鮮やかすぎるフエルトの青
今そこをよぎっていったリスこそが運命だったとキミは知らない
犬たちが水平線を見て ....
その男は
幾つも電球を並べた灯りの下で
ぼくの胸を切り開き不機嫌な心臓を取り出した
心臓の中に豚を入れ調子よく動かそうというのだ
更に男は心臓のあった空洞を覗き込み
ぼくさえ知らない潜み物 ....
【龍人】
滑らかに曲がって
緩やかに曲がって
何時までも曲がって
何処までも曲がって
掌の記憶の球体
見覚えのある顔
球体を眺める
目の奥が笑う
掌の人の形
見覚えのある顔 ....
さっき買ったばかりの
ペチュニアの苗にあった
つぼみが
うらうらとした
ひなたの中で
もう咲きかけている
そうやって
ほどけ始めた
濃紫のはなびらは
見せかけより何倍も
ふくら ....
敵対者には花束を送れ
上等のやつが良い
色も香りも惜しみなく
リボンもしっかり選ぶが良い
和解のため?
平和のため?
とんでもない
刃物は優美さに隠される
獣は息を潜めてじっと待つ ....
私は犬の鼻が欲しい。自分の餌を求める
ままに進む、あの(黒い鼻)が――たと
え犬の鼻を持てなくとも、どうやら人の
第六感には、あの鼻がうっすら内蔵され
ているらしい――今日から私は自らの内
....
カーテンの隙間から
忍び込んだ昼前の光
掴もうとして手を伸ばすけど
手の甲に乗っかって
歩行器に跨がり足を伸ばす
まだ歩き方を知らないから
教えてあげたいけれど
何て言えばいいのかな ....
何処かに眠っている昨日
さとうきびから生成される明日
個人的に厳しい毎日
会社的に使いやすい存在
安定した自分という誤解
信頼できる友という希望
愛という夢想
性という分離
....
長距離走者の孤独を短距離走者がすんなりと追い越して行く朝
支配構造に反逆してこころがちぎれるままに運命を壊す
迦楼羅 崑崙 推古王 婆羅門 友が売る伎楽面 そして奈良
老齢な百科事典 ....
にぶい金色の肌が
冬の陽だまりを
そっとはねかえしている
アルミニウムの
浅い洗面器のうしろに
整列している
こどもたちの
頬はあかく
順番になれば
みないちように
そこへ温か ....
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