一日のつとめを終えた
きゅうすと、湯呑みがふたつ
流しの隅の入れ物に
ひっそりと、身を横たえている。
時計の針は〇時を廻り
初老の夫婦はあどけない寝顔で
薄っすら口を開けな ....
無くしてしまうのは
こんなにも簡単な事なんだなぁ
いつのまにか椅子が無くなったのは
けして気のせいでは無いんだろう
壊れてしまうのは
こんなにも簡単な事なんだなぁ
いつのまにか椅子が無 ....
湯呑みというのは
自らの役を心得て
いつ出番が来てもいいように
迷いの無い姿で
すっとそこに、立っている。
こうこうと燃えている白い道に
飲んでたむける傾きの宵戸口
ねかせておいた木漏れ日 影の上
指に重なり ぽつん すさませない
ひめくりにつられてつぎたし
のどもとにつきつけついばみ
よそ ....
潜るのが楽な海を教えてやるよ
船乗り達に教えられたのは 夢の海
暖かく
どれだけ潜っても 苦しくならない
夢の海に潜ったままの少年たち
陸へのあがりかたを忘れたから
友達の背中に詩 ....
その女(ひと)は 見守られている
白いベッドの上で
穏やかな瞳で 見守られている
七十を過ぎた息子の
暖かな瞳で 見守られている
薄曇りの冬空がのぞく
病室のベッドの傍 ....
言い訳のように
日は昇り
言い訳のように
日が沈む
言いたいことがあった
その日は
もうここにない
ここにはない
言い訳ばかりが
空と海の隙間
地平線で
まだ ....
ぼくは
どくしん
さいしなし
だから家族について息子の立場でしか語ることが出来ない
家族の間ではお互いの事について案外何も知らなすぎていたりする
母親は耳が遠い
46時中音 ....
みかんをむいて父に食べさせると
ぼくはみかんではないのに
お礼を言われた
咳をするしぐさが
父とぼくは良く似ていた
植物に無関心なところも
石鹸で洗う指先の先端の形も
他 ....
硬い
石の群れに
たまに
私も呼吸を忘れる
人肌の
暖かさも
しばらく
思い出していない
交わるようで
交わりきらないのは
きっと
全てのことに当てはまるようで
母の胎 ....
100211
ティーアールといいながら
気短なキーボードを叩く
打つのか押すのか
気軽なボードは応えない
冬の空は本格的に押し黙り
今から雪を降らせるつもり ....
立ち食いそば屋で
夕飯を食った
客のほとんどは
お酒を飲んでいて
立てなくなると
ざるそばを食って
次々と去っていった
素数について
話している客がいた
立て ....
朝のような
首すじだから
遠くから見つめている
階段をのぼっているだけなのに
人生だ なんて言っていいのか
自由と自由の間に
履物をそろえる
わたしを取り去った世界とは
ど ....
・国語
休み時間 机の上に伏せられた教科書はみな鳥のかたちで
「死」という字を習い17年経つが何故か未だにうまく書けない
・算数
「算数は嫌いなんだよ数式の突起みてると痒く ....
朝一番に窓を開けると真っ白に吹雪いていた
時が流れるにつれて徐々に雨へと変化して
暮れる頃にはそれさえもあがっていた
駅の改札を抜けて家路につく
空には呑気に星がちらついていて
コー ....
ひとりでもつづけよう
体温になついている匂い
いま/きみ/とりどりのきみどりのなか
閉じているきみの内側が
きみだけのものにならないでほしい
黙っ/たままのミルク ....
プルトップにゆびをかけて
あたしのめのまえで
うれしそうにトマトジュースを開けるきみと
ちいさな破裂音と
あたしがいて
とじこめられた空気が
はじけて
で ....
さびしさは針金のように折れ曲がり息を低くひそめていた、キーボードを叩いてもaやoの母音は狂っているから、わたしたちは正しく夜を装飾できない、室内灯ひとつで照らしだせる安心の内側でねむってい ....
サラみたいにさ
ピアノでロックを歌いたいと、思っていたから
キーボードを買った
トランクに積んで、運転席からメロディーを紡ぐ
音楽を思うと、ときどきからだが、高校時代に浸される
私立校の ....
春の兆しであたためてあげるよ
川沿いにみなぎるさくらの木々たち
さくらの紅のような ほんのりとした色づきで
水のあるところには命が溢れるんだ
溺れてもいいよ
溺れてもいいよ
わたし ....
良い係会をしていた
わたしにはいつもビールが足りなかった
九条葱の鍋を頼むには予約が必要だった
足りなかったのはいつもビールだった
架空に計上された注文票が
どこか遠 ....
台風の季節は
内川の水かさが増えて
びゅんびゅん橋が流されていく
毎年流されていく
助手席に深く座って
国道11号線のヘッドライトを目で追う
期待や倦怠で満ちた車内を
MJQ ....
もう香りがのこる
残り香が横断する道路の
ど
道路の
広すぎる
歩幅を足がちぎれるほど
振り出し
わたる
わたったあの環状道路
青く雲がたなびくあの
勾配ある町の向こうには
排気 ....
でもそれは、
あ、という言葉ともつぶやきとも知れない
といきするしろいすいじょうきの
連結に
わたしは路上をしゅぽしゅぽと
滑走する
屋根つもる
雪たちに挨拶する
敬礼をびしっとか ....
連続するシグナルが流れ込み
激しく流れ込み
とりとめのない水圧に
胸を押される
匂いのない夕暮れが満ち
眼球の裏側に満ち
屹立する剥製のように
赤光を反射させる
{引用=
僕 ....
この土地にくらして/わたしは深く息をする
なびかない風の日も/灰色の冬もあった
草の使命とはなんだろう/道の記憶はどこだろう
この土地にくらして/わたしの炎がはし ....
1985-
空に敷かれた黒いうろこが
ぽろぽろと剥がれてゆくとき
一枚が地に落ち
流れ出す水の音が聞こえ
また一枚が地に落ち
呼気が甲高く
一枚が砕けて
それはなき声と繋がって
....
花瓶を洗面所まで持っていく。
中の水を排水口にゆっくりと垂らす。幾分大きな花瓶のためどうして水を汲もうかと逡巡したのち病院の外の水道を探しに行く。消毒の効いた洗面台が花びらの一枚一枚を枯らすかもしれ ....
祈る、という作業を
私は避けている
たとえば
あなたの幸せを
祈る
そのとき
私は無力で
ただの石ころ
捨てられたガム
「君を想うと
やわらかな 気持ちになれるんだ」 ....
あなただけが頼りだった。今はもう、私の老いた手は土を掘ることしかできない。かつて嗅いだあなたの匂いにもまして、この土が私をむせかえらせるのなら、あなただけが頼りだったあの年月は、今はもう、太陽のように ....
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63 64 65 66 67 68 69 70 71 72 73 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 100 101 102 103 104 105 106 107 108 109 110 111 112 113 114 115 116 117 118 119 120 121 122 123