ああ 空に降る
冷たいしずくよ
どうしてそんなに
私のほほを濡らすのか
ああ あの暗い空から
美しいしずくが
いくつも沈んできて
今ここで つどうのか
冷えた手足は
あやしく ....
橋の下には
川が流れている
たくさんの落ち葉の側には
木が立っている
枕の上には僕の頭がある今、
天井の片隅からきみが僕を見ている
庭で猫が鳴いている
ああ、僕は死んでいるんだね
暗い ....
街が夕焼けに染まるころ
通勤快速を降りれば足早になる
車内の熱気にゆであがってしまった
君はきっと
夕方の空気が好きに違いない
商店街を駆け抜ける自転車に
危うくひかれそうになって ....
今日いる場所も
明日いる場所も
ひとつの裏側
表側としか感じることが出来ない
かもしれない
ひとつの裏側
ここは寒いが
そこでは暑い
君はたしかな表側
同時に君は
ひとつの裏側
....
食事のマナーが悪い、と
君を叱りつけた
私は不機嫌ではなかった
「ごめんなさい」を君から聞いてから
後片付けを始めた
その頃には言い過ぎたことを少し反省していた
隣の部屋へ駆け込ん ....
わたしのすんでいる街には みどりの浮き島がありました
車は街の血液で 年がら年中休みなく
金魚鉢のその街の
朝一番の挨拶は
やっぱり ことりのさえずりで
猫が眠そうなあくび目を傾ける
....
いかつい アスファルトに
息のように 降り続けていた
電柱の 灯
夜の空に おしかえされた
雨に 流されている
かきん と ついてる
ガラス の 冷たさ
なじまない ....
父と別々の家に住むようになってから
ときどきは会いに行こうと決めていた
小さい頃から
一緒に暮らした記憶などなくて
なのに父は
僕との思い出話を聞かせようとする
うんうんと
僕が ....
久しぶりに実家に戻ると
父はまた少し小さくなっていた
質量保存の法則というものを
信じるのであれば
生真面目に生きることを止めようとしない父は
きっと
何処かで
何かを
与 ....
老人ホームの送迎車から
半身{ルビ麻痺=まひ}で細身の体を
僕に支えられて降りたお婆ちゃんは
動く片手で手押し車のとってを握る
傍らに立つ僕は
宙ぶらりんの麻痺した腕と脇の間に ....
君の笑顔を取り戻したいから。
君のぬくもりをこの胸に感じていたいから。
そのためなら
僕は喜んで悪魔にでも魔物にでもなるだろう。
暖かな光の渦の中にいた君と僕・・・
幸せだったのは僕 ....
とぷん
となにかが水に落ち込む音がした
水気といえば
今しがた通り過ぎた水溜りしかない
ふりむくとそこには水溜りがあるだけで
あおいみずたまり
にちゃけた泥にたまっ ....
風も木も滅びゆくときわれもまた等しく愛に抱かれて過ぎよ
降りしきる雨でおまえの声は途切 れ遠い異国である公衆電話
たった今、落ちた花びらだけ見えたった今見えなくなったただ風 ....
−詩に没頭してるオトナって、やばくない?
そうそう。ある意味ね。
−だから学生さんとかが、ばーっとイベントとか、やればいいんだよね。
−オトナは無理だよ、無理無理ー。
詩を中心としたイ ....
毛むくじゃらの家猫が出かけて行ったきり
帰って来ないものだから
庭の木で啼くスズメの声が
遠慮なく鳴る目覚まし時計で
最近は、誰よりも早く窓を開けて
新しい風を味わう
あめ色の古机の上 ....
まどろみの中で貴方の去る気配感じてみぢかき夜を恨みぬ
白肌のうるおう術も知らぬまま落ち逝く沙羅の姿さやけし
雨の矢に毒を塗りたし恋ごころ睡蓮泣きて梅雨雲を呼ぶ
星合ひの前夜に胸の ....
どうしようもないくらいの
空の返還が
わたしに帰ってきた
わたしの唇は青いことでいっぱいになる
空に着歴がある
それは長い長い数列
雲は遠くの蒸気と会話したりするけど
やがて話が尽き ....
り りく
蝶 の 足は
おもくなり
つかまっていた 草葉
そっと 目を 開ける
大きな杉の木 のてっぺん
見る間に越えて
生まれたすべてを かけて
のぼり ....
小さな口笛風に飛んでく
メロディーが不思議なのは
思いつきだから
草っ原の朝露が
少しズボンに染みてきた
僕は何も考えていないから
ヒュヒュヒューヒュー
カラスが一羽降りてきた
....
吉岡実が後続の詩人たちに与えた影響は大きい。七十年代以降の日本の現代詩は、吉岡実がいなかったらまったく違った姿になっていたのではないだろうか。
ここでは吉岡実の『静物』『僧侶』の二つの詩集を中心 ....
僕が雨のような水性のものを纏うみたいに
彼女は単純
分類する歴史の過程と起こりうるすべての結果について
彼女は明確に区別する
偶然と必然の隔たりを超えて
彼女は読書する
運命でも垣間見るよ ....
目じりの皺や
口もとの皺は
あなたがこれまでの人生で
よく笑い
表情豊かに生きてきたアカシだから
恥ずかしがることなんかなく
堂々としていればいいと思う
眉間の縦皺は
いつもしかめ ....
ここで赤い魚の話をしてはいけません
最初の貼り紙は公民館のドアに貼られた
誰が貼ったのか
誰も知らなかった
次の貼り紙はあちこちのスーパーで見られた
誰が貼ったのか
店員も店長も知 ....
忘れない
高い小さな窓から覗き込んだ時間を
校舎の隅、零れていた笑い声の隙間に混ざった寂しさを
夏だった
世界がゆっくりと溶けていくまでの時間を
知らない、知ることもない
あと少し ....
二人の男がいた
一人はただ何もせず寝て日暮れを待ち
一人はただひたすら歩き夜明けを待ち
こうして二人は離れていった
一人はまたむくりと起きて月を眺め
一人はまたぽとりと汗をかき座った
こう ....
霧雨の降るぼやけた朝の向こうから
「夢の国行き」と{ルビ記=しる}されたバスが近づいて来る
後部座席の曇りガラスを手で拭くと
数ヶ月前に世を去った
認知症のゑみこさんが住んでいた{ルビ空家 ....
ジットリと纏わりつく雨のヴェールは
西からさし込むその日最後の煌めきを二重の架け橋に変容し
ジャン・フランソワ・ミレーが1863年の春に見かけた虹のように
夕ご飯の買い物客でごった返す街並を ....
きつく結う、
わたしの髪を、
わたしには見えない後ろ側で、
わたしの髪を、
きつく、結う、
その役目だった指々を、
ふと慕う、一日の終わりに、
嫌な煙草染みた髪を強く洗う、
....
亡霊ときみの名付けし少年の漕ぎしブランコ揺れている初夏
遠ざかる白い小舟の行く先を流れる水や風に聞く午後
紫陽花を抱きしめているパレットにきみの瞳の色を混ぜつつ
防波堤越 ....
マンションの地下11階に住んでいる。
このマンションは地上36階、地下12階建てで、築65年くらいになる。
結構古いけど、僕は特に気にならない。どちらにしても親が買ったもので、古いのは当たり前だ。 ....
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