車は走る。

酒などなめる程度にしか口にしていないのに、なぜか疼痛があたまにしつこくこびりついている。
ウインカーの点滅音。
そのメトロノーム。運転手はハンドルを大きく右に切った。
ゆるや ....
あの火花は 夢の欠片
両手に全てをかかえた誰かが
失くしてしまいたいと願った夢

あの火花は 愛の欠片
忘れあうことしか知らない二人の
儚い刹那の物語


綺麗だね 綺麗だね

あの花火
君もみ ....
踏み切りで電車がすれ違った
「電車と電車がおおまちがいだよ」
坊やは言った
大間違いするわけにもいかないので
電車は最後尾が離れる瞬間
少し間違えてみせた
「あら、間違えちゃったみ ....
水面の戯れ水紋の喘ぎ。
乱れる波、
果てるを知らず。


満たされし満たされぬ果て、
月に焦がれて肥ゆ波高く。
悲しの海。






別れ ....
?.

日が沈むぜ
ウォッカの氷に
日が沈むぜ
おまえの鎖骨に

観覧車に
モップ犬に
道行く人に
カモメの声に

書くしかない
書くしかないんだ
おれたちこんなに ....
うにゃーとか
ごろにゃんとかで生きてみたい
そう云うあなたはナマケモノ



ハイエナが
悪者だなんて酷すぎます
一生懸命生きてるんです



ラブレター食べさせられても困りま ....
くちびるの
置き場所を間違えた、夜明け
あなたへと無音で震える春が
無音で体温する春が
祈りを湿らせるので
耐え切れずに申し上げた春が
ぬくく、痛く、ここに
滲み始めるの ....
心の中に一つの頑健で豪奢な台座をこしらえてある

それはいつ頃造ったものか忘れてしまったが

確かなことはその台座は心の中のどこよりも高くに設置したもので

僕という人間は多聞に洩れずあま ....
幼子が堅く握った手を
僅かにゆるませるように
朝の光を浴びた梅の木が
真白い花を孵化させている

豪華さはないが
身の丈に咲く、その慎ましき花に
頬を寄せれば
まだ淡い春が香る

 ....
あなたの心の手を広げてください
そして
風を抱きしめてください
ほら
やわらかい風が
あなたの微笑みに応えている
もしも
あなたが涙を流しそうになったら
ここに来て
大地に浮きましょ ....
(行方不明になる少し前の光景)

そう、いつか南風に
わたしの髪がながされて
地平線の水色に
例えば(紅い花を)
あるいは羊雲の群れに
かすかな共和国のひびきを感じたとき
わたしの名前 ....
いまだ冬の
凍える朝にも
こぼれる陽光の一筋に
穏やかなる日和を思い
目を細める

匂い召しませ
息つく春を
         −季節外れの福寿草が咲いた朝に


眼を閉じていたいんだ

その眼は遠くが見えるから

口を噤んでいたいんだ

叫び声はしわがれているから

太陽は今日も低 ....
春の空は水色にあかるい
真綿のような白い雲が
浮かんでいるぞ
白い雲はなぜ白い
無彩色透明の問いかけに
毅然として答えてやる

私の宇宙のまんなかに
悠々とお日さま耀いて ....
       1

鎖骨のようなライターを着火して、
円熟した蝋燭を灯せば、
仄暗いひかりの闇が、立ち上がり、
うな垂れて、黄ばんでいる静物たちを照らしては、
かつて丸い青空を支える尖塔が ....
雪原の風たぐり舞う銀髪にあるはずもない笑みを見ていた




くりかえし光の行方追いつづけ雪の背骨を駆けてゆく子ら




道に棲む{ルビ静寂=しじま}に映る水の笑 ....
散文的であるかも知れない
晴れ間を見つける
こころはいつも


古くはならない
あたらしくもならない
それが空なら
繰り返すものごとに
少しだけ優しくなれそうな
そんな気が ....
手すりのない屋上で
そらをとりもどす、わたしがいる
{ルビ限界線=ちへい}に浮かぶ遠い筋雲の
気流の音に耳をすます
わたしがいる
まぶたの裏に
真昼の月を新月と焼き付け
まぼろしではない ....
農家のおばあさんが
小さな乳母車に載せているのは
自分の畑で育てた花だった

生まれながらにして背が低かった
歳をとり腰も曲がってしまった
それでも車いっぱいに花を積み込んで
今日も花を ....
{引用=
音もなくオレンジ色に燃える雲

だれかぼくに
手紙をください}
冬の雨が上がって
しっとりと潤った空気に
小さな蕾が目覚め始める

春と呼ぶにはあまりに早く
陽射が弱々しく届いて
蕾の外側だけがほんのり白く染まる

冷酷な北風には
他愛もない出来 ....
にぎってみな
ほら
もうだめだろ
そのタマネギ

切ったら泣くぜ
ぜったい泣くぜ
半分ぐらい
腐ってたって

ぜったい泣くから
まあ座って
二人で剥こう
そうして
 ....
{ルビ梔子=くちなし}の満開の下へは
決して近寄ってはいけない



『クチナシの木の満開の下』




子が出来ぬ
という理由で離縁された女は
梔子の花しか食べられなくなった ....
えのぐのあじがする
と、遠ざけられた皿には
白いドレッシングのかかった
シーザーサラダが
盛られたかたちのままだ
野菜も食べないと大きくなれません
と云われて
娘はふくれている


 ....
足音が
大勢の中に還っていく時
遠くで自転車は雨音の中に忘れられている

少年が
少年のままで頭を下げながら生きていく
そんな時々、あれは私たちが作り上げた
屋根や壁や、縁の無い窓
遥 ....
お嬢様、今は寒う御座いますが。
雪虫舞う空は御納戸色で御座いますが。
お顔をお上げ為さいませ、
やがては春が来ましょうとも。

お嬢様の指の白いことと申しましたら。
全く蝋燭の様で御座いま ....
水平線が夕日を融かすというので
その仕組みを知りたいと
渡し船を探しに海岸づたいを
西に向かう、それが私たち
綺麗なものばかりを
追いかけてはいけないと
釣り人が忠告したが、僕たちは
綺 ....
風は暗がりから吹く
私の影は滴りつづける

誰も居ない
かつて誰かが居たかもしれない
そのわずかな痕跡も
とうの昔に温度を失い

記憶を失い

頭上には黒い星座たち

ただ脳裏 ....
改札口の向こうで
ピアノに蟻が集っている
きっと甘いんだろう

ハモニカを忘れてきた駅員が
時刻表に小さな落書をする
間もなく秋が来るのに
量が足りてないのだ

まだ君と僕とが出 ....
見知らねど行き着く場所はここにある
  夢見て君を連れた北国


いつのまにか眠った僕の携帯に
  隣の君から夕陽の小樽


真綿色の雪があまたの恋に染み
  冷たい北の印 ....
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