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十月も末になるとパソコンが
鼻をすするような音を立てながら起動するようになる
動作もどことなく鈍くて
悲しいつらい気持ち悪い
という類の言葉は迅速に変換されるのに
楽しい嬉しい気持ちい ....
空はどこまで
ってきく君の
求めている答えは
わかっていた
あのとき
君の肩は細くて
花びらを
青い水に散らして
一文字ずつ撹拌する
結実してしまうものが
何もないように
....
僕らは
らしんばんも持たず
はかなさを胸に抱いた
静寂の虚ろ子
からまわる螺旋
にじんでぼやけて
消えてしまいそうな鳳仙花 ああ
えがおは歪んでしまう
てがみは見つかり ....
「林檎ってちょっと女に似てるから歯を立てるときぞくっとするね。」
夕暮れに秋刀魚さばいてみるのですふと血が見たくなりましたので
夜遅い夫の帰りを待ちながら深く深く爪を切るわたし
....
誰も待ってくれないから
みんな子供であることを
あきらめるしかなかった
そうして前を見て進み汗をかいては
花の色でさえも忘れていった
たがいの溝を埋めあっても
ひとりずつは変らず小さく
....
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私の本当の名前はスマコというらしいです
だけど父も母も兄弟もみんなスマと呼ぶので
いつの間にか私はスマになってしまいました
ときどき本当の名前について考えます
コというのはどういう漢字な ....
街は色彩と四角形が多い
色と形を捨てた僕は
自動車の中から窓越しに
後ろへと緊張していく風景に
様々な情緒の斑点を投げていった
山道に入ると木々が道路をにらみつける
おびえた道路は身を ....
暦を一枚、捲った下に
「我事に於て後悔せず」
と云う、宮本武蔵の一行が
過去から語りかけていた。
侍の幻影、目の玉を動かさず
うらやかに 空 を観る
暦を一枚、捲 ....
真昼のソファーで目を閉じると
いつだったか、夜を待った日の
高原の風を思い出します
肩の高さほどの草むらを抜けて
尾根にむかう踏跡をたどり
軽く息を切らしながら
ずっと星に近いところにたど ....
あの夜空に瞬く星は
僕が生まれるより
遥かな昔に、消えている
幾十億光年の{ルビ宇宙=そら}を渡り
あの星が
地上の僕に呼びかけるなら
すでにこの世を去った人の
あ ....
ただ、私がいた。
ただ、痛い心があった。ただ、体があった。それしかなかった。
そして、何故かしら、どうしても、体に、痛みが必要だった。
*
4番目から6番目のピアスは、 ....
あなたが始めたわたしを
あなたが終わらせてくれる。と
どこかわかっているわたしの夜は
静かだ
夏よ、あなたが
夜に満ちているよ
夜にこそ誰にも触れられずに
(ひそ ....
忘れ物のような話をしました
ただ長いだけのベンチがあり
終わりの無い話を続けました
読みかけの本が無造作にふせられ
背表紙は少し傷みかけていました
マリエはすぐに人を殺そうとする
け ....
ふと見下ろした煉瓦の上に
蝸牛の子供が一匹
二本の細い触角で
何かを探るように、這っている
少しの間、僕は思いに耽り
ふたたび見下ろした
小さい渦巻はさっきより
確かに ....
雨の夜のアスファルトでは
光も熱帯魚みたいに濡れている
迫り来てよぎり過ぎ去り遠退く
赤い、黄色い、無数の鱗が目に入って
濡れるしかなかった視線が水性インクとなって
雨の夜に、明るい ....
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夜の間
やわらかく曲がりくねって
遠いお伽の国へと繋がっていたレールは
朝の光を浴びた時にはもう
冷たく固まって
駅と駅とを繋ぐ
当り前の鉄の路へと戻っている
包装紙から出したての ....
朝
目を開けなくとも蝉が鳴いている
目を開けなくともあなたの部屋にわたしがいる
けれど、目を開けて
眠るこの部屋のあなたを確かめる
蝉が蝉が鳴いている、ああ、夏なのだ
翅の ....
世界の尖端に
詩人のようなものが引掛かっている
重いカーテンをどんなに引いても
夜の窓から三日月がはみ出してくる
夢の過剰摂取の副作用が
紫色に垂れ込めてくる
中空には透明な旗が翻る
誰 ....
互いの杯を交わす
向かいの席で
微かに瞳の潤む
その人は呟いた
(今の僕は、昔より
孤独が澄んで来たようです・・・)
この胸の暗闇には
ずっ ....
少し前迄、初老の両親とこの店で食事をしていた。メニューを見る時に、視力の落ちた目を顰(しか)める父と母の前に座り、相変わらずふらふらと生きている自分を申し訳なく思う気持を抑えながら、何気ない会話 ....
つばめの描いた空の季節を
きりりとつま弾いた爪痕が
胸の奥で道程をたどってゆきます
命あるものの、ほのかな光が
湿った夏草の先で揺られています
防波堤で砕ける波が
どれほどのう ....
人でなし
森が忙しく葉を揺らす
カッコウが巣の上で木々を見渡していた
小石のような小鳥の卵を
一つ二つと落としていくのだ
真ん中に一回り大きな卵を産むと
愛しむこともなく ....
空へと放った愛の言葉は
今ごろどこにいるだろう
雨の向こう側から
しずくのひとつを
ふと、思う
空から盗んだあの日の苦みが
髪と夢から香るとき
海はきまって
凪 ....
燃えながら灰のなかから生まれる鳥
その目にうつる火祭りの夜
名前なき舟ならばただ漂うか
海に溺れて星があかるい
不確かさそれのみ満ちる雨のごと
うすい ....
あの夜、何故窓を開けたのかわからない。
雨が降っているかを知る為かしら。蛙が鳴いているかを知る為かしら。
それとも、可愛い可愛い風鈴たちを確かめる為?
*
酔っていた。
* ....
二人で引いたおみくじは
その元旦の初詣の甲斐があったのか
二人とも大吉だった
大吉にも中身が色々あって
満点の大吉もあれば
赤点の大吉もあるということを
同時に ....
ゆがんだ水の端を手折ると、狂った植物がその秒数を逆さにする。空気の残骸の渦の残骸が、その風光を光に記録する。ゆがんだ水の意識がなめらかに転がり、目醒めた植物を汲み上げる。神と神との境界は拡大し、神は消 ....
背が高いとは限らなかったよ
ちいさいやつもいた
まあちいさいのもでかいのもばかだった
さわらなきゃいいのに火にさわるのはやつらだった
火傷したくなけりゃ
火からすこしだけ離れていたらすむ ....
アスファルトは不意に
思いつめたように体を丸めた
巻かれてゆく坂道
自ら傾斜に耐えられず
すまなかったね、と仕事を終える
かつて裏切った砂利道が
傍から後ろから現れ
雑草を添えて ....
片目とじて高層ビルのてっぺんを愛撫するほど遠いきみの背
くちびるが世界、とひらき漏れ落ちる欠片のなかにわたしは棲んで
カレンダーに王冠を描くもう二度とあうことのないひとの記 ....
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