庭の境に置いたサボテンに
猫が吸い寄り
すんすんしてる
ちくちくしても
まだやってる
サボテンが棘を引っ込める
わたしが触ったときには
刺したくせに
恩知らず
呼んでみるけど
....
幽霊の歴史を持つ国よやって来い
肉の息を切りひらき
何者かの空腹からやって来い
何を踏みつけ
何を苦しむ
折れた風
折れた芽を運ぶ
糸羽の国よやって来い
....
窪みを照らす草の色
私の言葉はまだ実らない
土のにおいのする
沈んだ村のような湿原を私は歩きたい
狂った身体を引きずって
救われすぎた魂のために祈りたい
風を喰 ....
太郎君があっと喚いて
花子さんはいっと呻いた
同じ本を読んでいたのにね
次郎さんは右に行きたかった
正子さんは後ろに走りたかった
ただ、エビが高かっただけだった
三郎さ ....
咲く、羅列の空は埋め立てられて
さあ、暮れて望まない夜に
駅前の車列に後ろから急かされて
家路の、振り切る早足を抑えられない
駅から吐き出される、ため息と等しく
順序良くもうひとつ、暮れられ ....
なんのへんてつもない朝
とても特別な朝
まどむ夢の中から這い出て
また新しい朝に出会った
鮮やかで光りに満ちた朝
そして罪のない朝は
僕をあっさり ....
ブランコから見た空は海に似ていた
悲しみに揺れるように
君はぎりぎりの角度で空を見る
浮かべた涙をこぼさぬように
近づく地面を遠ざけて
君はぎりぎりの角度で
懸命にこら ....
ちびたいろえんぴつのしんを
なめながら
おえかきをするこどもがいた
あたらしいいろえんぴつ
かってあげると
ぶんぼうぐやへさそっても
ぎゅっとそのこは
えんぴつをにぎりしめたまま ....
巨大な円板が大地を切断する
半円を描いて回転し
二つ三つ 軸を直角に交差して
回り続ける真鍮色の無機性に
平らに土を露出した大地はなすすべもなく
うめき声もたてぬ
バットから生まれ
....
背なか 背なか
もたれかかった珪藻土の壁には
真昼の温みが宿り
後ろから
春の衣をふうわり掛ける
あし
足もと
埃だらけのズックの下で
蒲公英は蹲り
カタバミが少し緑を思 ....
斜めの道を歩きつづけて
直ぐの道に出たときの
めまいにも似た左の震え
つまびく果てのリフレイン
穴だらけのひろい通りを
下を見ずに駆けてゆくとき
街を横切るもうひと ....
風が吹いていた
風のように母は声になった
声のように鳥は空を飛んで
鳥のように私は空腹だった
空腹のように
何も欲するつもりはなかったのに
母についていくつか
願い事をした
....
“回転木馬は月夜が本番ですよ”
目の前をスキップしながら語る死神の後を
私は諦め半分で歩いていました
夏の果実は真っ赤に熟しているというのに
少し遅めのマリッジ・ブルーが私を襲っていま ....
1
・
閉ざされた
扉の中にふたりきり
彼女もしらない
わたしだけのきみ
2
・
きみの為
何もできないわが身ゆえ
泡となれる
人魚を羨む
....
切り絵(題材)
「少女」
ただ真っ白い紙でした 私たち
切り絵師は 無を有にする
柄に美しい細工を施した
銀色の先端鋭いハサミで
すんなりと手足の伸びた
可 ....
アルコールと 朝が
溶けあって 光って
カーテンです
そこへ向かう明るい少女は
睫毛です カーテンに
きらきら きらきら向かう 明るい少女は
瞬きのたび ....
叙情の彼方を探るように この岸辺にて
翼を休めるものよ 優しげな日差しと
聞こえ来る 春の訪れを告げる歌声
地に生けしもの総て 目覚めの刹那を夢想する
巡る季節の旋律は いつにもまして ....
きたへ うつる ほの を
しゃくりあげ おおう て
そりは それていく ゆき
あけて あんでいく いと
かたまれない かげろい
かまれるたび ゆりゆれ
つけた げんの なまえ
....
ちいさなものを拾いました
街灯の下では真珠のように見えました
家に帰ってながめるとパチンコの玉のようでした
六畳間の蛍光灯のせいです
蛍光灯のせいにしたので
もういちど
見直してあ ....
今日も何にもなく
サプライズが来るわけでもなく
いつもの風景を見て
いつもの夢を見て
ぼくはまた明日の朝日と
挨拶を交わした
マフラーを首に巻いて
パーカーを ....
指先の凍えるのも忘れ
口唇の乾くのも忘れ
午前二時は月明かり
爪先はいつしか
その方へと向かい
消えて浮かんで
また消えて
巡らす想いは
蒼白い夜の膜を
揺らしながらも
冷たさ ....
とっくにもう
枯野の向こうに行っちまったけど
俺に初めてフグを食わせてくれたのは
おんじゃん(おじいちゃん)だった
唇がぴりぴりしたら言わなあかんで
フグの毒がまわったゆうことやさか ....
オリオン座が西の空に瞬く午前三時
部屋の中で独りの男が
机を照らすランプの明かりの下
白紙にペンを走らせる音
時を忘れ
宛先の無い手紙を{ルビ綴=つづ}る深夜に
眠れる街の何処か ....
永遠の愛、が
刻まれていた
赤い鉱物顔料で飾られて
二千年の地層の中
地中にしみこんだ月の光で
風化した言葉だったから
秘密が解かれるまでそれは
王の名
呪い
花の名前
祈り
そ ....
水たまりから鳥が去っても
底の底に鳥は残る
生きものの口が触れた水
濃に淡に無のように
まるい骨をめぐる砂
炎は鎖
朽ちた舟の碑
子供のかたちに飛ぶ鬼火
....
“夜霧よ今夜も有り難う”
風呂場からのん気に聞こえてくる鼻歌を尻目に
私は部屋を出ていきました
前前から
死神の電波加減や頑固さには目を瞑って来ました
でも今回ばかりは限界です
私 ....
蒸気の壁
そのあちら側
そこにきみがいることを知っていた
煤で汚れた手を伸ばして
薄暗い空間を弄る
立ち入り禁止のボイラー室で
僕らは少し
ロマンティックに恋をしたかった
様々な機械の ....
ぼくらは空に近づこうとする、いつも包まれるばかりでひとつにはなれない。ひろびろと伸ばしたつまさきをゆびさきを、リンととがらせる。新宿にアスファルトのあちらこちら。渋谷を通り過ぎるどちらこちら。ビルとビ ....
宵闇は
切り子細工の紅茶に透けて
紫紺も琥珀の半ばでとまる
グラスの中では
流氷が時おり
かちり
ひび割れて
薄い檸檬の向こうから
閑かに海を連れてくる
壁の時計は
ゆるり ....
“朝は優しく起こしてください”
というのは
寝汚い死神のきまり文句です
名付け親の死神は寝起きが最悪です
五個の目覚ましなど死神の眠りの前では無力なので
死神を全力で蹴り起こすこ ....
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