知っていることを知ることで
わたしの輪郭は
かたちを為す
そう、
知らないことも同義であるけれど
わたしのどこかが喜ぶように
いつもいつも
知ること、と記している
....
一
日々を連写して
間違い探しをする
遠浅の青に
いつもの魚が溺れている
鱗がまた一枚なくなったこと
それを除けば
昨日と今日の境界線はゆるい
魚は、な ....
音を立ててブナの木は水を吸い上げる。
地下の滝は光を求めて上昇する。
森は暗く木々はみどり。
凡庸な言葉が指をすりぬける。
緻密な理論はブナの木に関わりがない。
ブナはただ立っ ....
危険です
右斜め前方から中学生らしき人たちが三人接近中です
ポストの中に珍しい爆弾が仕掛けられているので危険です
でもそれは本当はポストではなく冷蔵庫なので危険です
危険です 危険です
両開 ....
角のない消しゴムは
捨てられる寸前だった
角があろうとなかろうと
同じ材質なのに
四つの角があるとないだけで
大きな差をつくっていた
丸みの部分にはすれたえんぴつが
くっついていて
手 ....
たましい…だなんて
古臭いことばを
ミルクパン
で。どろどろに溶かしたら
ハートの型に流し込む
いつから
だった
かな
球体関節人形の
股間から
生まれてきた。わたし
だ ....
墓の無い終わりを告げる水の羽
{ルビ弥生=やよい}より流れ落ちたる{ルビ卯月=うづき}かな
とどまらずただこぼれゆく冬の雲
傷を抱 ....
雪が解けたら君の街まで行こう
晩秋の夜に君と春までのお別れをしたんだ
動物達は冬に備えて食料や栄養をたっぷりと蓄えていた
植物達は短い一生の終わりに未来へと繋ぐ子孫を残していた
....
灰色の壁に囲まれた
音の無い部屋
黒い衣を身に{ルビ纏=まと}い
「死」を決意した病の老女
一点をみつめ
椅子に腰かけている
( 左手の薬指に今も{ルビ鈍=にぶ}く光る
....
日が暮れて今日も塩屋に
ナメクジたちが集まる
口々に死にたい死にたいと言いながら
塩を求めにやってくるのだ
けれど感情が昂りすぎて
みな自分の流した涙で溶けてしまう
翌朝塩屋の前は
粘液 ....
君を思う
とき
上と
下に
僕は
引かれて
風も冷たく高く高く上り
落下を予感する
ケラの様に深く僕を隠し
浮揚のしかたを知る
地平からすれば同じこと
君から ....
おとといの
夕暮れかけた空
君は
夏の底に
沈殿していったきり
西の夕焼けが
音をたてて色あせていく
手のひらの温度を確かめたくて
軽く握ってみても
汗ばんだ夏の終わり
いつだって ....
今よりもっと
空が高くて
今よりもっと
砂の中に潜む星を
見つけるのが上手だった頃
四歳の幼さで
舌足らずな
Ich liebe dich.
ドイツ原産の弟と話す為に
ひとつ ....
朝の窓へ起き上がればいつも
眠りと夢の、仄明るいマーブルが
窓形の光に飲み込まれて、消える
その途端、光の中を雨のように下降する黒髪と
閉じたまま濡れてゆく傘の内側のように黙った胸 ....
魚は
夜に鳴く
なくした
ラッパを思って
+
砂糖瓶を
よく洗って石段に
並べていくと橋を渡る
来客があった
+
探し物の
予定のない日
菜の花畑で一人
ラジ ....
大空に太陽が咲き
夜空には月が舞う
いつでも忘れない
いつまでも忘れない
この体を友に東へ西へ
もう君は忘れただろうか
春を彩る桃色の中を
二人片寄せ歩いた道を
....
・
好きと嫌いが
ギアの上で揺れていました
わたしはちょっと迷いましたが
結局どちらとも決められないまま
右手で好きも嫌いも
すっかり覆い隠して
細心の注意を払い
....
花を
花を摘みます
何度経ても
懐かしいと思う
春先
まだ小雪がちらつく
今
柔らかい
萌黄をすり潰した指先を
ほんの少しだけ
口に入れ
ほろ苦い
顔を
思い出しまし ....
白くつめたい指が摘んだ菫の花束
破綻をつづけるイノセンス
誰にもわからない時を刻む時計
虹色に震えながら遊離してゆく旋律
救いの無いシナリオ
かすかに聴こえる古いオルゴール
のようなノスタ ....
首筋から
次々と抜け出していく
幾筋もの熱の糸たち
あなたを前にほどけて泣いてしまう
朝が来たり夜が来たりするたびに
揺れているのだきっと
いつだって泣く準備はできていたのだ
だから ....
だうな〜で
仕事さぼった翌日に
こころの{ルビ垢=あか}・{ルビ錆=さび}ふりはらい
いつものバス停に向かう
歩道の
前を歩く女子高生
突然ふりむき
( すかーと ふわ ....
十一年伸ばした髪も切られ
おかっぱ頭になったことだし
明日から金太郎になります
まさかり 担ぎます
熊に 乗ります
もうハッタリも効かなくなってきたことだし
これからは ....
まるで隠れるような三月
全てを終わらせた昨日から
跳ねるように帰宅する君たち
その隣の景色が輪になっていく
循環する道程を真っ直ぐだと
いつまでも信じているものだから
中空に飛ぶ鳥の
....
わたしはかもめ
白くてきれい
いやどうみてもあなたは
夜から生まれた
からす
夜からなら
よだか
真昼の
まひわ
朝と昼で
あひる
うっすら暮れて
うずら
....
一人の女
残す素足の跡が
雨路に流れる
長い黒髪
滴る水音に
そっと耳を澄ますのは
女がまだ止まぬ証か
一人の男
年老いた男
女の後姿に
己を重ねる
....
一、花の葬式
明日が急いでいたから
上手くエアポート落ちた
鞄に聞かれたクロワッサン
経験したら恋しい
画面いっぱい、銀色の群生
幻想は午前中
探してた新聞紙に
好きだっ ....
日が明るく見通せるから明日というけれど
何も見えないからこそ明日なのかもれない
日が今だから今日というけれど
何もしていなければ昨日と同じかもしれない
今日を大切にするということは
昨日の自 ....
「ひとを殴るって、
どんな感じ。」
リイは変な女。
いつだって変な女。
いつも変なことを訊いてくる。
いつもおれにばかり訊いてくる。
「楽しい。
....
雨が降っていた
陸地のいたるところに
がんもどきと
豆腐は今日も
売られていた
+
暑い日が続き
両親は
学校へと行った
届けたかったのだ
うちわをあなたに
+
....
耳をすますと
遠く潮騒が聞こえる
ドアを開けば幻の海
白い波頭が立って
空はおぼろに霞み
「春だね」とつぶやくと
「春ね」と君が応える
潮風が弧を描いてゆく
君の長い髪がゆらめ ....
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