それでも朝は来るので
わたしはまた生まれてしまう
約束されていないことなので
途方に暮れている
わたしは手を持たないので
仕方なく
眺めている
ふりをしてみる
鳥の不思議な動きを少 ....
オレンジからあふれる香気。
呼吸するように光る朝。
満ちる朝の空気のなかで
わたしは
透明な部分となって小石のように転げ落ちる。
覚醒するとき
海はともだちだ。
水色の水平線に遠く浮かぶ ....
ここは
いつも広くて
息が白くて
冷えてて
がらんとしていて
音は全て霞んだ帳の向こうから
聞こえて
私は
怒っていたし
恨んでいたし
頑張り過ぎてたし
叫びたかったのに ....
月の夢いちめんに辰砂のさばく
そぞろ歌くちびるにカステラの月
眠りの木ヘビの毒ふたつめの夢
月の下ひづめ鳴く声をきかせて
ふわりと舞う雪が
街の灯りを反射して
今夜は蛍祭りだ
初夏の焦燥をも凍らせて
激しく雷光を放ちながら
吹雪いても、唸っても
季節が渡っていくというのに
冬の丸底フラス ....
ガラスの割れる音
透明な緑が散らばる
破片を拾い指を切った
あふれ出る血を見る
隆起する鼓動が
波の音に変わり
蒼い海が赤く染まる
はやく
はやく
....
てのひらにおちて
身体の熱さに驚き
わが身の冷たさに慄き
てのひらにおちて
持たざる声を放ち
届かぬ悲鳴と別ち
てのひらにおちて
半ば沁に凍み入り
半ば海 ....
どうしてこんなに冬は寒く
こうして身体をふるわせる
秋をくるんだ
あの真っ赤な太陽は
暮れゆく一日に束の間の
焦がれる時をくれたではないか
降り散る枯葉のひとつにも
哀れを誘う言 ....
わたしは蠍
孤独な蠍
心に浮かぶあなたの姿
思い出は心の痛み
耐える事しか
わたしは知らない
わたしは蠍
虚しい蠍
流れる砂はあなたの幻
ひとり見つめて
逢いたさ募る
....
冬の天井が落ちてきて
降り積もった断絶が
錆びたハサミを行使したのです
あなたとわたしの相似形は
いとも簡単に失われるから
失ったとたんに永遠で
何も持たない子 ....
静かなる心の内の
乱れ始める波立てゝ
具象の宙 落ちる雫の色
手垢のよくついた鈍い色彩
かき立たされた沈黙の縁に
芽生えの音にさえ敏感な
今はひと休みに向かいつ ....
手のひらのなか揺れる手のひら
波のかけらを抄いあげると
しずくは双つ微笑んで
仲たがいを終えた羽
海の光に照らされて
風は強く
雪をけしてつもらせてはくれない
ひとつ ....
津軽を旅したのは
何年もの前の夏のことでした
闇の中 車を走らせて
道路が終わる場所まで
行ってみたかった
津軽を旅したのは
それが最後だったかも知れない
....
剥がれ落ちた
黄色の点描
掃いた先から
人だかり
異臭にまみれた種子
壮麗に枯れていく大木
足元に塗り込められた果肉
光が空気になる
空はだだっ広く
伸ばした枝の先に
カラ ....
此処は昔風でそれでいて未来的な
実験城砦
此処に居て僕のすることは
純粋であり続けること
その純粋を自ら頑なに
裁き続けること
此処には僕の他誰も居ない
そして僕はほとんどの時を
....
石榴は血の味 密の味
月の無い夜に
女を食べた、あの木製の詩人は
熟れた石榴を 銜えさせて
美味いだろうと、夜風に訊いた
共犯だぁね 、
硬花の指先はわたしの唇に触れ
睦言のように
....
「あなたはね。
卵から生まれたの。
それはそれは痛くって、
とっても大変だったのよ。」
それが母の口癖だった。
嬉しいことがあったときも、
悲しいこと ....
空は啼いているのだろう
風は狂いはじめている
雪の華はその美形を
とどめることも叶わずに
ただ白い塊と成り果てる
清き水の流れさえも
怒涛に変えて
白鳥は真白の吹雪に ....
縦に
横に
斜めに
そして滅茶苦茶に
発つ人
切りつける遮断機
渡す鉄橋、区切る線路
正確な手すり、錯綜する枯れ枝
途切れ続ける白線、刺さり続ける鉄塔
罅割れ ....
甘くない珈琲を
手の中で
大事そうにしていた
猫舌だと言って
大事そうにずっと
両手の中で
十二月に降る雪のように
ま ....
玄関に立っていたのは畳だった
今日は暑いですね
そう言うわりには
畳なので汗ひとつかいてなかった
畳は座敷に上がりこむと座し
良い畳ですね、と手で撫でている
それからいくつかの世間話を ....
満水の夜に
感覚をとぎすませながら
無数の魚が泳いでいる
距離と、位置と、
上昇する体温と、
そういうものを
止めてしまわないように
蛇口に口をつけて
あふれ出すカルキを吸うと ....
君からもらった
たった一通の封筒は
古びて黄色く灼けてしまいました
その中に大切に抱かれた
数枚の便箋も
古びて黄色く灼けてしまいました
今にも崩れそうな酸性紙の上
ボールペンの ....
偉人にだって虫歯があるように
僕にだって完全な物欲が存在し
高慢ちきな文人の腹の中に
どこか崇高で見習うべきところもある
偉人の虫歯が疼く時
偉人の脳波に乱れが生ずる ....
雪ばかり融けずにいる
針が突き刺したような
星夜の暗闇が恐ろしいのです
あまたを溶かすはずの暗闇が
かすかな影のいいわけを
裏切るのです
ひどく凍らせる結晶に
張り付いた切り絵を ....
公園へと続く夜道の街灯に照らされて
{ルビ百日紅=さるすべり}の木は裸で独り立っていた
枝々に咲かせた無数の桃色の花びらを
過ぎ去った夏に{ルビ葬=ほうむ}り
樹皮を磨く北風に じっと口を ....
隣の白蛇が、
皮を脱ぐ。
彼は失恋すると、
いつも絶食して、
いつも脱皮する。
センチメンタルなのだ。
脱皮する少し前から、
蛇の目は白濁しはじめる。 ....
ガマの穂が天に向かい綿に覆われて立っている
安らかな秋
まるで別世界のことのように
自分のことを思う
帰りたいと願う
時間を戻してくれと願う
叶わない願い
わたしの歩く道から
ガマの穂 ....
紫色の空がなめらかに
この地上を染め出せば
深い森の中で
梟がゆっくりと目を覚まし
豊かな知恵を含んだ鳴き声で
街に向かってささやく
ビールで染まる街 ....
しゃらしゃらと
粉雪が風に渡る音
鈴の音も高らかに
朗らかな笑い声が
こだまする
雪山が呼んでいる
動物のアシアト てんてんてんと
梢からがさっと雪帽子が落ちる音
真っ白な ....
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