{ルビ鈍色=にびいろ}の鉄を見ている
あくまで照り返しでしかない光が
滑って離されて放たれる
今目の前にぎっしりと詰まった木々を越えた
越えてうんざりする
体温よ ....
ゆっくりと雪は溶けていくのだから
膝を抱えて待っていればいいんだよ
君のこぼした涙は墨の味がしたんだ
あの黒い雨のような黒い枝のような
君は何か悲しかったんだろうか心が
だから涙を沢山沢山こ ....
まちがえることを
素直におそれた日々は
だれかのきれいな蝶々結びに
たやすく揺られる花だった
あの草原で
かぜを追いかけてゆくことに
不思議はどれほど
あっただろう
....
静けさの中に幸福を見つける
幻聴も不安な要素も何もない世界
命が永遠に感じられる
眠りの崖がすぐそこまで来ている所
僕は安心して墜落できる
車の走り去る音も二階を包む異様な空気の ....
ひとけなき寺のくぬぎの春嵐。
春雨は別れの歌の余韻かな。
南溟
かなしいものなんて
ボクにはないよ
やわらかいものなんて
ボクにはないよ
空に
一杯に手を広げ
防波堤のひらたい丘で
じりじり
ボクは乾いてく
太陽を
こんなに間近 ....
答えればいい
君は君を壊せば世界と自分がおさらばだとか
思っているかもしれないが
世界は君を含めてるから
君が目をひらいてるから世界は
ふたつは寸分違わずおなじもので重なっているわけ ....
{引用=
うすむらさきの 人々が 自転速度で 水平線から
粉末になって 夜になる 太陽が 空にのぼるから
きみは 太陽を掴まえる
緋色の ....
倒れる
水差しが
ふとしたはずみで指先に触れ
ゆっくりと音もなく
まるで夢のように
倒れる
デイジーの{ルビ花弁=はなびら}が
こぼれた水の上に散らばって
白い沈黙
切なさに ....
知っていることを知ることで
わたしの輪郭は
かたちを為す
そう、
知らないことも同義であるけれど
わたしのどこかが喜ぶように
いつもいつも
知ること、と記している
....
一
日々を連写して
間違い探しをする
遠浅の青に
いつもの魚が溺れている
鱗がまた一枚なくなったこと
それを除けば
昨日と今日の境界線はゆるい
魚は、な ....
音を立ててブナの木は水を吸い上げる。
地下の滝は光を求めて上昇する。
森は暗く木々はみどり。
凡庸な言葉が指をすりぬける。
緻密な理論はブナの木に関わりがない。
ブナはただ立っ ....
危険です
右斜め前方から中学生らしき人たちが三人接近中です
ポストの中に珍しい爆弾が仕掛けられているので危険です
でもそれは本当はポストではなく冷蔵庫なので危険です
危険です 危険です
両開 ....
角のない消しゴムは
捨てられる寸前だった
角があろうとなかろうと
同じ材質なのに
四つの角があるとないだけで
大きな差をつくっていた
丸みの部分にはすれたえんぴつが
くっついていて
手 ....
たましい…だなんて
古臭いことばを
ミルクパン
で。どろどろに溶かしたら
ハートの型に流し込む
いつから
だった
かな
球体関節人形の
股間から
生まれてきた。わたし
だ ....
墓の無い終わりを告げる水の羽
{ルビ弥生=やよい}より流れ落ちたる{ルビ卯月=うづき}かな
とどまらずただこぼれゆく冬の雲
傷を抱 ....
雪が解けたら君の街まで行こう
晩秋の夜に君と春までのお別れをしたんだ
動物達は冬に備えて食料や栄養をたっぷりと蓄えていた
植物達は短い一生の終わりに未来へと繋ぐ子孫を残していた
....
灰色の壁に囲まれた
音の無い部屋
黒い衣を身に{ルビ纏=まと}い
「死」を決意した病の老女
一点をみつめ
椅子に腰かけている
( 左手の薬指に今も{ルビ鈍=にぶ}く光る
....
日が暮れて今日も塩屋に
ナメクジたちが集まる
口々に死にたい死にたいと言いながら
塩を求めにやってくるのだ
けれど感情が昂りすぎて
みな自分の流した涙で溶けてしまう
翌朝塩屋の前は
粘液 ....
君を思う
とき
上と
下に
僕は
引かれて
風も冷たく高く高く上り
落下を予感する
ケラの様に深く僕を隠し
浮揚のしかたを知る
地平からすれば同じこと
君から ....
おとといの
夕暮れかけた空
君は
夏の底に
沈殿していったきり
西の夕焼けが
音をたてて色あせていく
手のひらの温度を確かめたくて
軽く握ってみても
汗ばんだ夏の終わり
いつだって ....
今よりもっと
空が高くて
今よりもっと
砂の中に潜む星を
見つけるのが上手だった頃
四歳の幼さで
舌足らずな
Ich liebe dich.
ドイツ原産の弟と話す為に
ひとつ ....
朝の窓へ起き上がればいつも
眠りと夢の、仄明るいマーブルが
窓形の光に飲み込まれて、消える
その途端、光の中を雨のように下降する黒髪と
閉じたまま濡れてゆく傘の内側のように黙った胸 ....
魚は
夜に鳴く
なくした
ラッパを思って
+
砂糖瓶を
よく洗って石段に
並べていくと橋を渡る
来客があった
+
探し物の
予定のない日
菜の花畑で一人
ラジ ....
大空に太陽が咲き
夜空には月が舞う
いつでも忘れない
いつまでも忘れない
この体を友に東へ西へ
もう君は忘れただろうか
春を彩る桃色の中を
二人片寄せ歩いた道を
....
・
好きと嫌いが
ギアの上で揺れていました
わたしはちょっと迷いましたが
結局どちらとも決められないまま
右手で好きも嫌いも
すっかり覆い隠して
細心の注意を払い
....
花を
花を摘みます
何度経ても
懐かしいと思う
春先
まだ小雪がちらつく
今
柔らかい
萌黄をすり潰した指先を
ほんの少しだけ
口に入れ
ほろ苦い
顔を
思い出しまし ....
白くつめたい指が摘んだ菫の花束
破綻をつづけるイノセンス
誰にもわからない時を刻む時計
虹色に震えながら遊離してゆく旋律
救いの無いシナリオ
かすかに聴こえる古いオルゴール
のようなノスタ ....
首筋から
次々と抜け出していく
幾筋もの熱の糸たち
あなたを前にほどけて泣いてしまう
朝が来たり夜が来たりするたびに
揺れているのだきっと
いつだって泣く準備はできていたのだ
だから ....
だうな〜で
仕事さぼった翌日に
こころの{ルビ垢=あか}・{ルビ錆=さび}ふりはらい
いつものバス停に向かう
歩道の
前を歩く女子高生
突然ふりむき
( すかーと ふわ ....
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