人が死ぬときにする 小さな音を
まねしながら このうたを うたえ
生き死にのリズムで このうたを
「きみは いきろ ぜったいにいきろ
まっくら闇
煌々とひかるのがきみのひとみだけ ....
彼等は天使なのだから自由に降りてくる
ひとは誰も彼等の姿を見ることができない
彼等に思想はない
彼等は天使であり善でも悪でもない
天使は通り過ぎる
ありとあらゆるものを刺し貫き ....
――切り立ってごらんなさい。つまさきで。手の先を。あなたの手のひらには死の網が浮き出ている、巻雲の申し子だ、耳の中で変色する早苗の葉音を頼りに、内園からつなぎとめておくのです。私はおさない被告人、砕け ....
今年最後の海を見に行った
午後六時
駅から海までは住宅街の中をしばらく歩く
にぎやかな町ではないので夜は早い
ビルディングの間からは見えない星座がたくさん瞬いている
海岸沿いの国道に ....
地面は かわいそうの塊ですか
小学校で教わりました
動物の死骸は土に変わると
野菜の残骸は土に埋めると
お母さんに聞きました
おじいちゃんは
土に還って眠っていると
地面は ....
弛緩にいたる 手薄な機微
アメーバ脱いだ 手袋の中
渡しちまいたい 不燃焼再
登られて 痛み 頬紅傾れ
みつかりましたか 保険虚
あららの なかの 夕暮れ
ちんけな 煙草 責めたて ....
感覚の麻痺が進行している
ときめきという言葉を街のなかで
落としてしまった
かすかに残る感情は
明日も神経をすり減らす
人との交じり合いで
かすんでゆく
がんばっ ....
目一杯に指を開いて
その間から覗く世界は
少しだけ明るすぎて
いつものように目を閉じていく
はらはらと花の散る道が
視界の端には、何処にでもあった
午前五時
空を埋める目覚ま ....
結婚して32年、初めて手紙を書きます。
何回かお見合いしたけれど、あなたと結婚するとは思っていませんでした。
私のほうが4歳も年上で、あなたは結婚を約束した人がいましたね。
知ってい ....
それでも完成を求めたでしょう
傷つきながらもあなたは真っ直ぐすぎて
わたしは背中を影にして
横並びになれても
二つの黒にはいつまでたっても映らないままで
言い訳交じりのその歌を
奏で終 ....
かつてこの瞳の奥に刻まれしひとを想えば暮れゆく夕陽
岐路そして岐路、岐路、無数の岐路がありしばらく雪にみとれる窓辺
在る。ことでとわにみらいはうつつゆめ描くと同時にほろびてゆくわ
....
星座になるのは簡単
目を閉じて
時間の数だけ
ふたりを
結べばいいから
星の距離で
ただひとつの意味でだけ
朝であればそれでいい
女は、暗がりから
チチチチチ、が発されるのを待っている
さあ、と
鳥が開かれるのを、鳥が始まるのを
待っている
....
降り始めた雪に濡れながら
翔る若葉よ
じゃれて 絡まり
互いに触れた体の温もりを
互いの手の平に感じただろう
彼等は 彼等は
何処へ行ったのだろう
....
破れ垂れ下がった灰いろの空
ちかくとおく恐慌じみた声楽が追い立てる
中身がすっかり空になったのは財布だけではない
傾ぎながら電飾のすり鉢のそこを通り過ぎた
それを寒風のなかから眺めていた
ど ....
糸のほつれた万華鏡が
壊れかけながら空へ昇り
鳥に追われる鳥を隠した
ふるえつづけるふたつのものが
失いながら抱きあいながら
空を光にもどしてゆく
青と金は ....
ヘッドライトを浴びて踊る雪は
しだいに密度を増して
行く手の視界が遮られる
海岸添いのゆるやかなカーブが
永遠に終わらないという錯覚
私たちは
どこへ ....
階段には鍵が掛かっていた
鍵を持っている人はみな
蟹のような格好をして降りて行ったが
昨夜食べた蟹は形も違うし
赤く茹で上がって
あんなに嬉しそうではなかった
降りられない階段を見 ....
空と海
誰かがひいたあの線の
手前で競い合っている
砂利道ばかりの
僕の田舎は
海がきれいで
何も無かった
今にも泣きだしそうな青ばかりと
僕を飲み込ん ....
皮膚という薄皮の中に
なまあたたかい
生がある
そう思いこんでいる
骨にまとわりつく体を
巡っていく流れに
生がある
そう思いこんでいる
あなたとつない ....
なんて不思議な秋
朱色のなか抵抗する青
故里は
いつでも果実です
じゅわりと沁みる
街よ、柊
もう何ひとつ
見たくはない。
心棒は微妙に曲がり
均等を保てない
せつなや肩
....
妖精に ひっこぬかれたとき
となりに咲いていた きみを
ひっこぬいた ひとりでは
こわかったんだ ごめんね
おもいっきり ひっぱたいていいよ
水に打たれて
鳥になる雪
おしとやかなだけで
いいのですか
花の吸いがら
雪硝子の背
どこかの国の
旗のよな空
黒い丸から
生まれた春とて
羽を知らぬは ....
回らない時計を目の前にして
君が暮れる
寒さを間違えるようにして
マフラーに埋もれて見えなくなる
薄い窓に耳を寄せれば
世界はこんなにもくっきりと
くれる
途方に
あるいは
....
意味不明
短い両手をひろげた
お人形
ほほ笑む口と裏腹の
まるい目が
なんだか哀しい
子どもは
こういうお人形が
本当に好きなのか
たのしげな顔なのに
放っておかれたま ....
仕事帰りの人々がため息まじりにぞろぞろと
スクランブル交差点をわたり渋谷駅へと吸い込まれてゆく
18時20分
パチンコ玉なった僕は
ジグザグに人と人の間を{ルビ縫=ぬ}ってゆく
....
砕くのをやめたフォーチュンクッキーと崩れ始めた空の気配と
花束は伏せられていて未だ眠り止まない六月病の花嫁
泥棒も蛇も来ないと知る今もやさしくひびく夜の口笛
耳鳴りの(雨 ....
あのとき
僕が流してしまった涙は
本当の涙だっただろうか
ひょっとして
あれは作りもので
まだ君はそれをそっと
隠してもっているんじゃないだろうか
そしてそれ以来
僕は涙を流せ ....
小 に
瓶 う
は よ
た の
....
君はまた空を飛ぶ
いつものように、そのままの姿で
さよならと言う口で、ただいまと伝える
手の届くすべてが本当で、そこに嘘を混ぜ込んでいく
君はいつまでも空を飛んでいて
僕らは ....
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