朝
目を開けなくとも蝉が鳴いている
目を開けなくともあなたの部屋にわたしがいる
けれど、目を開けて
眠るこの部屋のあなたを確かめる
蝉が蝉が鳴いている、ああ、夏なのだ
翅の ....
世界の尖端に
詩人のようなものが引掛かっている
重いカーテンをどんなに引いても
夜の窓から三日月がはみ出してくる
夢の過剰摂取の副作用が
紫色に垂れ込めてくる
中空には透明な旗が翻る
誰 ....
互いの杯を交わす
向かいの席で
微かに瞳の潤む
その人は呟いた
(今の僕は、昔より
孤独が澄んで来たようです・・・)
この胸の暗闇には
ずっ ....
少し前迄、初老の両親とこの店で食事をしていた。メニューを見る時に、視力の落ちた目を顰(しか)める父と母の前に座り、相変わらずふらふらと生きている自分を申し訳なく思う気持を抑えながら、何気ない会話 ....
つばめの描いた空の季節を
きりりとつま弾いた爪痕が
胸の奥で道程をたどってゆきます
命あるものの、ほのかな光が
湿った夏草の先で揺られています
防波堤で砕ける波が
どれほどのう ....
人でなし
森が忙しく葉を揺らす
カッコウが巣の上で木々を見渡していた
小石のような小鳥の卵を
一つ二つと落としていくのだ
真ん中に一回り大きな卵を産むと
愛しむこともなく ....
空へと放った愛の言葉は
今ごろどこにいるだろう
雨の向こう側から
しずくのひとつを
ふと、思う
空から盗んだあの日の苦みが
髪と夢から香るとき
海はきまって
凪 ....
燃えながら灰のなかから生まれる鳥
その目にうつる火祭りの夜
名前なき舟ならばただ漂うか
海に溺れて星があかるい
不確かさそれのみ満ちる雨のごと
うすい ....
あの夜、何故窓を開けたのかわからない。
雨が降っているかを知る為かしら。蛙が鳴いているかを知る為かしら。
それとも、可愛い可愛い風鈴たちを確かめる為?
*
酔っていた。
* ....
二人で引いたおみくじは
その元旦の初詣の甲斐があったのか
二人とも大吉だった
大吉にも中身が色々あって
満点の大吉もあれば
赤点の大吉もあるということを
同時に ....
ゆがんだ水の端を手折ると、狂った植物がその秒数を逆さにする。空気の残骸の渦の残骸が、その風光を光に記録する。ゆがんだ水の意識がなめらかに転がり、目醒めた植物を汲み上げる。神と神との境界は拡大し、神は消 ....
背が高いとは限らなかったよ
ちいさいやつもいた
まあちいさいのもでかいのもばかだった
さわらなきゃいいのに火にさわるのはやつらだった
火傷したくなけりゃ
火からすこしだけ離れていたらすむ ....
アスファルトは不意に
思いつめたように体を丸めた
巻かれてゆく坂道
自ら傾斜に耐えられず
すまなかったね、と仕事を終える
かつて裏切った砂利道が
傍から後ろから現れ
雑草を添えて ....
片目とじて高層ビルのてっぺんを愛撫するほど遠いきみの背
くちびるが世界、とひらき漏れ落ちる欠片のなかにわたしは棲んで
カレンダーに王冠を描くもう二度とあうことのないひとの記 ....
こころの 襞を はなれて
この場所から は ただ
あわいひかりだけが
みえています、
ひかりは きみの頬を
嬲 ....
090427
アマが駆ける
アマが
山の端に
月が出て
物語を始める
悠久の時を
お椀に装って
しゃなりと
口に運ぶ
運送屋のフデさん ....
半世紀も祈り続けて
鳩が太っていく
公園の木は
故郷から引き離された子供のように
ぽつん、ぽつんと育って
生きていこうとする力に
種類なんか無くて
他人の生き様を非難できない
太っ ....
友と杯を交し
日々の想いを
語らう夜に
酔いどれて独り
家路を辿る
夜の道すがら
何ヶ月も同じ場所に坐り
路傍の石と化した
家無き人の
汚 ....
川を見て我思う
その源の遠さを
時を隔てゝ巡り会う偶然と
この足で立つ大地の必然
水面の耀きは一瞬たりともとゞまらず
似て非なる形を繰り返す
遠くの雨の記憶
人々が流す汗や涙の記 ....
T+74.130
Last radio signal from orbiter.{注*=Challenger timeline(UPI)}
切断された管をたなびかせながら
放物線を描いて ....
紙の上で紙を耕している潜在する文字たち。私は潜在する文字たちが融けて流れて、視線が紙の上を歩き易くなるのを待つ。耕された紙に植えられた潜在する色面が、潜在する光とともに組織され、私は色面と光とを、潜 ....
ひいばあちゃんはな
いっつも縁側で内職しとったんやわ
そこでいちんちじゅうな
つるらるらーって数珠みたいに
ぎょうさんつながったしょう油入れを
ずーっとぼじっとってなぁ
( ほら、おす ....
誰もいない静かな部屋で
時折鏡を、覗いてみる。
目はふたつ
鼻はひとつに
口ひとつ
奇跡を行うこともなく
些細な魔法もわからずに
背伸びをするわけでなく
....
わたしは うっとりと
甘いまばたきを する
散りこぼれ
ながれてゆくのは
花びら
花びら
春は わたしを載せて
ゆっくりと 廻転する
....
あなたは憶えているだろうか。その日、桜の花が咲いていたことを。少し早い桜が、あなたの行末を暗示するかのように咲き、そして早くも散り始めていたことを。その日、あなたが亡くなった日、外のバス通りでは桜の ....
明るい金属製の音階を
来る、行く
夜の回送電車の
黄色い、黄色い、硝子、硝子の
細切れのがらんどうを映写され
まばらに浮かぶ顔面は
いたずらにスクリーンと化している。
....
フリーズ、
見たことのない、遠い地で
顔のない男がつぶやいて 直後に
先端が、わたしの中心を穿つ
貫かれた体内へと
ぬるい、分泌物の侵蝕が始まるのを
指折りかぞえるあいだ、ずっと ....
店を出ようと思ったのに
もう一杯
コーヒーを注文してしまった
お財布の中を確認する
ギリギリ足りるみたいだ
あわてて戻ってきた店員が
「おかわりができます」
と言って、伝票を書き ....
掌で階段を育てた
せっかく育てているのだから上ろうとすると
いつもそれは下り階段になってしまって
悲しい人のように下の方を見ていた
その隣を弟は快活に上っていって
一番上まで行く ....
昨日が、夜の中で解体されていく
肉体だけを、濡れた風がばらばらにして
過ぎ去り、それでもまだ鼓動は 宿る
わたしが必要としているものは
わたしの内部の、底辺にあって
....
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