深い森の中に鉄路が走り
群青色の電車が
静かに進んでゆきます
鳥のさえずりを
消さないように
私は食堂車にいて
甘い紅茶をすすりながら
ゆっくりと流れてゆく
外の景色を見て
鳥た ....
ヒューストン ヒューストン 聞こえるか
君がどこかでこの声を聞いていることを信じて電波をとばしている
あと2時間で金星の長い夜があける
ただし30分後から 強い雨がふりはじめる 間違いな ....
凍ったまま
凍ったままで
夏を待て
降りたシャッターの前に
右手をかざし
瞑目の、水晶の立像となって
冬はお前を追憶の塔にした
透明なお前の体を通して
青い青い海原が見える
光の ....
地図上の大部分はおだやかな晴れ
真ん中に私のこどもが立っている
雪が降って嬉しい、と言う
もやしを育てる
かびくさいキッチンは粘土のようにつめたい
つまり
息はしていなかったとおもう
....
聡明な魚みたいならいいけど
きちんと泳げれば綺麗だけど
くたっとした雲が
山をなめるようだと
ちょっとかっこわるい
下からならなんとでも言えるでしょ
口パクしてれば終わるでしょ
....
ポコ ポコ…と湧きいでる水
サラ サラ…と靡く笹の和音
ポカポカの柔らかい 日だまりで 感じたい
水を掬い 触れてみたい
笹の葉を 触れてみたい
自然の柔らかさを ....
楽しいことがあると
「こんなことながくは続かないんだ」と
戒めのために
開くペラペラの表紙
集合写真のわたくしは
右上の丸のなか
人並みの生き方を
望んでいるけれど
なぜだか
い ....
きょうお通夜です
あしたの告別式では弔辞を読みます
とりが啼いています
ゆきがななめに降っています
おとがこだましています
車のなかで泣いています
ひとの前では ....
継ぎ目ひとつない皮膚が
どこまでも続いている
いくつか裂け目があるのは
わたしの内部への入口だった
君の裂け目が
わたしの裂け目を塞ぐ
そこを継ぎ目にして
皮膚は ....
降りしきる雪が街を隠す
遠景を有耶無耶にする
私に残されたのは
鉄塔の太い骨組みと
幾筋かの高圧電線
切れ目も曖昧に天国へと続く
薄墨に浸された無数の紙吹雪
街の汚れを清める事もでき ....
脚立の上から見下ろしている
もぎ取った橙を
放って
妻が受け取る
段ボール箱に黄色い香が詰まる
橙は枝から離れた瞬間から香りが立つのだ
春が近い
そうだ
今晩は鍋にしよう
橙の汁を搾 ....
一日の仕事を終えて
暗い家路をたどる
もう一息という坂道で
電信柱の影から人が
すうっと抜け出てきた
ような気がした
だけどそれは唯の
光の加減だった
一瞬あなただと思った
....
いつからか
「小野 一縷」という名を目にすると迂回して
その日の最後か翌日に読むようになった
覚悟を要したからだ
突きつけて来るのが本当の別世界だったから、
背筋を伸ばして対座せねばならなか ....
雨上がりの夕暮れ前
大きな橋が{ルビ聳=そび}えている
それは 僅かな寿命ながら
私達の心にいつまでも残る
あの橋の彼方には
まだ見ぬ明日が繋がってるのだろう
まだ ....
砂利についた 貝ガラ どろどろ
黒く吐いた あぶくに うちあげられ
ヒレの息づく爪のかけら
まるい黒い斑点に交じる
夜毎落ちていく指噛む昼
まわした儀 どこからか溢れて
....
1
原野は朝露ぬれている
心もすっかりぬれている
さて旅の始まりだ
風が吹いたら始まりだ
トコトコトコ
歩けば荷物が揺れる
荷物なんてのは名ばかりだ
揺れる心が分かれ道
....
{引用=一名、『飛び出せ!自殺衝動。』}
教室ににわとりが入ってきたことがある。クラスのみんなはちょっとしたパニックになった。先生は「大丈夫だから、気にしないで」というような言葉をくり返して ....
女の
懐かしい油ののった肌
まあるく膨らんだ乳房
あなた、と呼ぶその声のエロチシズム
僕はまた、君に戻ってきたよ
ほうぼうへ旅したのだ
旅賃はなかったから点々と野宿で
そうしたらば、 ....
産んで下さい
増やして下さい
出生率は1%
私達は足りていません
後継ぎがいないと困ります
産めよ増やせよ
富国強兵
お国の為に尽くして下さい
....
もう共感しなくなった年月が
物干し台にほされてる
夜になれなかったやみが
陽だまりで喘いでる
でも生きる方法なんて
なくならないのだと
笑ってる
昔言ったことのある言 ....
大きなハサミで
ばっさりと切りたいいやなこと
多少の血は
涙より苦くはないよ
羽を継ぎ足して飛びたい
冬の凍った空を
あたたかい方へ
方へ
安心できる場所をさがしていたんだ、きっと
安心できる場所をさがしているんだ、きっと
それが戦場であろうと
それが景色であろうと
それが人間であろうと
安心できる場所をさが ....
掌に雨が降る
小さな水溜りができて
魚たちが泳ぎ始める
両方の手で精一杯の
くぼみをつくる
それでも水や魚は
溢れ出してしまう
途方に暮れているうちに
いつしか雨は ....
薄暗い蛍光灯の下
酌み交わされる連夜
求める度に沈んでいくアルミ缶の蓋の底は
小さな深い闇
時折、
淡い春風が吹いても
そこだけが時が止まっている
空の缶と空のグラス
窓越 ....
朝でも 昼でも 夜でもない
永遠に続く 冬の黄ばんだ夕暮れ
狂おしい町の風景
射光の跡を追う
強いコントラストに
明らかな形の針葉樹
見覚えのない風 ....
灰色の身篭った天空の核に
ぼんやりと繭を透かして
眠れる生命の淡い黄金が
そこだけ温度を伝えている
しかし雪は後から後から降っている
無心な子供のダンスのように
無数の白で地を照らしながら ....
黄昏の陽は降りそそぎ
無数の葉群が{ルビ煌々=きらきら}踊る
避暑地の村で
透きとほった風は吹き抜け
木々の囁く歌に囲まれ
立ち尽くす彼は
いつも、夢に視ていた
....
しっかりと背筋の伸びた
背中を想い出す
負けず嫌いで前のめりな
背中を想い出す
スーツの ジャンパーの
似合わないポロシャツの
背中を想い出す
ブレない 振り向かない
....
ゆうべはねむれないまま舟を漕いだ
ねむれないまま舟を操り蘆を払って湖沼をすすんだ
朦朧とねむれないままもとの舟着場にもどる
と、先がみえない霧のなかを漂流していたことがわ ....
おでんの中を艦船が航行する
デッキから若い水兵が
手を振ってくれる
大根とはんぺんが好き
牛スジは入れる習慣がない
ガンモは好んで食べないが
無ければ無いで淋しい
こ ....
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