外光が入らないため暗く、吊るされたばかりの洗濯物の
せいで湿気った階段の、狭い踏面に落とした拳骨程のあ
んぱんを拾い上げて無理やり口に押し込む。一回も掃除
しない、薄く埃が積もる階段は不服そうに ....
私は最近代々木公園を訪れる。この公園は、私は原宿駅のすぐそばという立地の良さに加え、帰りにも買い物に出かけられるという便利さもあって、休日に出かけるのに最適な場所であると思っている。そして、特にこ ....
暮れのこがねの海岸に
こがねに染まった猿がいて
石穴に石を通そうとしている
街中にはりめぐらされた
ロープウェイの鉄線を
無人のトロッコが走りつづける
....
土踏まずの深い足裏で
たわわに熟した葡萄を踏みつぶす
たちどころに
赤紫の液体が
{ルビ箍=たが}で締められた
大きなたらいの中でほとばしる
秋の森は
少年と少女の息遣いで色づき
どこ ....
あそこの靴屋は
きれいなかたちのかなしみを売っている
こどもに蹴られて傷んでいた
ひろいあげて
ショーウィンドウにふたつ
つみかさねた
朱欒の実
黄昏どきは
半透明の落葉とおん ....
131029
破綻を恐れず
どんどこ行こう
ぽかんと開いたクレーター
ビスケットのカケラ
利口なトマトに
間抜けな空が
冬が近いと
笑ってる
にこ ....
まだ 秋に吠えているの?
もう 母になるのだから 色白に染めた肌を粉雪の背景に凭れ
ゆっくり歩んで生きなさい
胸の張りが急速に母になってゆく まだサクランボ坊主なのに
体がのそのそしか ....
自分のことを
とことんまで嫌いになりましょうとおっしゃる
ナルシストの私にはむずかしい道だ
どこまでも 嫌いになれないのは この顔
味が ありす ....
詩は言語を用いる作品であるが、その伝達においては概念的コミュニケーションよりはイメージコミュニケーションの果たす役割が大きい。もちろん、論理的に明快である詩もあるし、感情が明快に伝わってくる ....
いつもの帰り道なのに
そこがどこだかわからなくて
途方に暮れてしまう
風景がぐるりと回転して
馴染んだ世界の裏側に放り出されてしまうあの瞬間に、
いつもの空はいつもの空でないように青 ....
真夜中に歩いているんだ
電灯に近づくと急に影が生えるよ
影は僕の色をして
濃くなったり、大きくなったり
そしてぐるりと僕を一回り
でも、もう遊ぶ時間じゃないから
バイバイ バイバイ 色の足 ....
ブランコ
息を吸って
息を吐いて
息を吸って
息を吐く
いつも意識の片隅で
緊張している
生きるために
前脚を出して
後ろ足を出して
前脚を出して
後ろ足を出す
....
あなたの言うことは
どんな時でも正論で
つけいる隙なんかありゃしない
あなたのシャツにはいつだって
きっちりアイロンがかけられていて
一筋の小皺でさえ見当たらない
あなたの書く文字 ....
澄み切った青い空の真ん中で
誰かがきっと泣いている
私はいつも測れずにいる
空想の両手を天秤にして
小さくついた溜息と
少しだけ擦り切れてしまった
透明な羽毛の内包する
輝くよう ....
……ぼん、ぼん、ぼん、ぼん
ぼんしゅかぼんしゅか
手取りが済めば
ここはだだらな島国だから
打出の小槌を担いで一興
採掘現場に行きましょう
手と手で掴 ....
朝早くに
古臭い詩をわたしは書いた
潮水に濡れた岩間を縫って這うように歩く
数匹の蟹の節足のことなどを
カーテンのあちら側で降っている雨が
薄笑い ....
ある傾斜においてうつむくのでなく
あたまならがっくりと
垂らすせいで
きみの、
頸椎が
くらい空にすっかりひえてむけてしまい
きみの視ないものにちゃんとかぞえられる
都心から二時 ....
濃密な雨の拘束に
獣の目をした少女が一人
茄子の花のように濡れたまま
時の梯子が外された場所で
僕はポケットの中
ことばを撫ぜ回すだけ
誰かが犠牲にならないといけない
そう考えるようになったのは仕事を失ったからかもしれない
あの日も同じようなことを考えていた
巡る空想のなかでぬいぐるみは道化師と暮らし
少年は日々道化 ....
雨は平等に降りしきる
あなたにも、わたしにも、
だけど、わたしには傘がない
雨が降り出した
大粒の
雨粒を弾くワイパーの動き
センターラインが見えにくくなる
アクセルを緩める
後部座席に乗る娘はどう感じるだろう
塾の帰途
メールの返信に夢中で
....
宇宙を 黙読しつづけて
何万回死んだかしれない
こむすめコスメ ポーチから
四方八方に轟く その呻き
きょうは
おとなしい おくさま風
おとなしいおくさま
おとなし ....
かなしさは夜のなかにある。
体育の時間、ぼくはだれともペアをつくれ
ずに、みんなが踊るフォークダンスを眺めて
いた。それは濁った河を渡る水牛を眺めるの
....
夢が路傍に朽ちている。
徐にわたしはそれに触れると、それらの夢が魂の残滓となって弾けた。
わたしの髪は生暖かい風を孕み、音もなく揺れる。
夜が太陽を飲みこみ、星が燃えている。
腐った肢体が ....
夏が庭先に
影を落とした
それを拾って
届けてやると
落としたんじゃなく
捨てたんです
そう言って夏は
....
吐きたい
ということは
感動したい
ということだ
けれど
どちらも
口にはだされない
低い
紫色の空から
隕石が
落ちるのを
待つことはできない
朝に濡らした手で
夜まで ....
「老いぼれて皺だらけに成る前に死にたいの」
君は言う
「そうなる前に消えたい」
ただ寂しいだけ
もしも幸せが花と同じ仕組みなら
永遠が来る前に枯れてしまうから
種のまま隠しながら持ち続ける ....
空にカーテンを引いたら
みんな 夢を見なくなった
星の明かりも 眩しい朝日も
厚い布地に遮られて 広大な密室の中で
息を詰まらせていく 人々の 心の息付き
飛行機が飛び回り
打ち上 ....
私とは閉じられた一冊の書物である
誰にも隅の隅まで読まれてしまい
そうして、飽きられて部屋の隅に放り出された
そんな書物である
私は・・・私の中の物語が人々にとって
一体 ....
山の水があつまる
わんどの深みに
ザリガニのむき身を放りこむ
暗い川底が
ぐるるんと動いた夏
七輪でおばあさんが焼く
ナマズの蒲焼き
田んぼの畦を吹きわたって
麦わら帽子の
ひさ ....
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