雨粒がポタリポタリと落ちるのを
ショッピングモールの四階の暗い駐車場で
一緒に見ていた
やわらかい君の太ももはあたたかかった
じっと雨粒を見つめているその長めの睫毛は
ぼくにとてもよく似てい ....
長い夢に落ちて 浮かび上がった地図は
ただの思い上がりだった 苦し紛れのなんとやらで
死に物狂いの人でも死ぬわけじゃない
そりゃなかには死んでしまう人もいるのだろうけど
赤く黒く滲んだ傷跡 ....
更けゆく夜はひたすらに
孤独の深い陰影を
白けた顔して曝け出し
薄い涙がつと流れる
薄倖の人、天破り
漆黒の闇に降下する
幼い記憶の光景が
眼前に広がり来たるまで
ひたすら遡行し孤 ....
どこからも遠い、ここへ
千々の風に吹かれてたつあなた
雲のようにおおくの面影をうつす
あなたへと伸ばされる
わたしの影、暴きたてられた白き砂、
ああ今ここに在らざるひとよ
空はぽっ ....
*
まず、赤いフタの大きなアルミ鍋に七分目まで水を入れ、中火と強火の間ぐらいの火加減で湯を沸かす。五分ほどすると、プツプツした細かい気泡が上昇し始め、水の表面が微かなプルプルに満たされるようにな ....
ぼくを見捨てたもののためにぼくは死ねるだろうか
晴れた日の正午に
だれの記憶にも残らないやり口で
光のなかで明かりを消すように
永遠より午後の芝居を好むように夜は長 ....
たぶん僕は悩殺よりも瞬殺派だ
まわりくどい締めゴロシよりは死刑が良い
ときどき趣旨を忘れたりするが
詩みたいなものを日記みたいに描く
僕にはまっとうな友達がいないみたいだ
アビー ....
前方不注意で迷い込んだ森で
僕の死骸は笑っていた
それが実に正夢で
私は確かに発狂している
もう望んでない
もう恨んでない
上澄みだけが
強がって
僕を守ろうとした
無意 ....
ロザリーは十五才
廃業したスクラップ工場の敷地の外れで
ハーケンクロイツみたいなかたちになって転がってる
もう腐敗が始まっていて
あらゆるおぞましい虫に集られて喰われている
ささやかな雨 ....
3月 弥生 トロイメライ
春風 果てしなく 暖かい
坂の 彼方の 高台へと
ゆっくり 歩いていこう
月光チタンの夜を過ぎ
冷たい鈍色の夜を抜け
奈落と雪洞の夜を耐え
かねて
ぼくは ....
昔、愛した女の庭には
大きな花桃の木があった。
その木は
春になると
その女の唇のような
濃い
桃色の花を枝いっぱいにつける。
その花びらひとつひとつは
どうしてもその女の爪の ....
昔僕は相模大野で暮らしていたのである。僕の住んでいた部屋の下には若い米兵が住んでいた。通りには、まだいくつかの夢が、買ったばかりの自転車で街を走ると、見えていた気がする。車に傷をつけただろうと、走 ....
廻る廻る大地が廻る
壊し創る力は無尽蔵に
無作為に選ばれた人々の
哀しみの雨が降り注ぐ
(世界は只残酷に美しく)
廻る廻る大地が廻る
次から次へと命は芽吹き
哀しみの雨は
もう ....
あなたの匂いをもう憶えていません
この部屋で暮らしてよかったと思ったことなどいちどもない
曇り空 ぬるい暖房 春の光はこんなもの
伸びた爪で嵐をとめて
伏せたまま口づけてじゃれあっていた朝 ....
ある終わりをうたう
お前の知るうちは来ない
信仰はパンにはならない
始まりはもう来ている
無知の鞭をふるって
不快さを隠しもせぬくせ
軽率な笑顔をふりまいて
押しつけるうたを
象徴のよ ....
次の議題に移ります
春の観光ポスターの件です
佐藤議員より
福島県の「福」の漢字を
震災から復興するまではずっと
復興の「復」に変えるという提案です
わだしは賛成です
真面目くさって ....
あの日、ぼくは死期の近い人のそばにいた。基督教系のホスピスへ出入りし、ただその人の横に座っていた。モルヒネのせいで朦朧としたその人にとっての今は、50年前の初夏の昼下がりだった。そして、ホスピスは何十 ....
森の痛む肋膜は
記憶とともにアンモナイトだ
春をこじらせ
また
すみれ草を踏む
行くあても無く歩行する
真っ青な夜に靡く草原を
やがて月の照る浜辺に出る
遠く漁り火が燃えていて
忘却された団欒のようだ
月光がつくる海の道が伸び
僕は何処までも歩いていく
....
あなたの形見のランプは、魂の姿に似て
夜になると書斎の椅子に腰かける
僕の仕事を照らし出す
* * *
あの日
この世の時間と空間を離れ
自らのからだを脱いだあなた ....
猫はバンドネオン
彼女の腕に抱かれ
残像の融解と拮抗する
毛皮のレジスタンス
霧の池に耳を沈める
跳ねる魚
飛び立つ水鳥
昨夜の夢から浮かび上がる
白い死体
隠れた月が手 ....
古代はひがないちにち風を吹かせて
日捲りはやがて春を忘れてしまうだろう
肩甲骨のあたりの憂いは上等な娯楽あるいは
ながれついた憎しみをも拭い去ってしまうのかもしれない
あの娘はときどき ....
真夜中の台所で 小さく座っている
仄暗い灯りの下で湯を沸かし続けている人
今日は私で 昔は母、だったもの、
秒針の動きが響くその中央で
テーブルに集う家族たちが夢見たものは
何であったの ....
ようやく晴れた。
長い長い曇り空に軽やかな風が吹き
あっという間に青空が現れた
ユーミンが言う中央フリーウェイに乗って
先週見かけた富士山をまた眺めた。
さぁ、次は何をしよう。
....
古い家の
庭の奥にある
沈丁花が匂い始めた
古い家の
古い歴史の
春の匂いに
春の陽が
陽だまりが
町中が染まっていく
もう誰も生きていなかった
古い時代の春が
足元から広がって ....
おとこが夜中にやってくる
そのおとこは生まれたことがないのである
いっしょにゆこう
どこへ
とおくへ
くちびるでかすかに笑っている
いそいそと身を起こして
服を着て出ていこうとすると
....
手綱に導かれながらよろめく
いつの間にか鉛の靴を履いた
老いに削られ痩せ衰えた体
荒々しい息が吐き出される
ひとつひとつ生まれる幻影
熟さず霧散する己を舌で追う
間もなく土に帰 ....
その日あなたはこの場所に立っていたんだね
激しいビル風が時計台の鐘を余分に叩いて
さぞかし五月蝿かったろうね
私マフラーを何重にも巻いて
冷たくされても平気だった
だってあなたの好みなんて興 ....
私は君と手を取り合って生きていく、
なんて感傷的な表現が嫌い
怯えて無味乾燥でドライなフルーツ
牛乳が混ざり120%還元セール
うるさい子供が嫌い
オレンジジュースとコーラとポテチを
与え ....
花びらと油虫-
さらさらと指のすき間からなにも零れない
さらさらと指のすき間からなにもかもを零す美少女は
なにかを留める気などさらさらなく
校舎のような屋上から
花びらへと ....
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