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ダウン症児の息子をどっこいしょ、と
支援学校のバスに乗せてから
家に戻り、テレビを点ける
連続テレビ小説『舞いあがれ!』で
ナガサクヒロミが娘を想う名演に
涙ぐみ・・妻に言う
「こ ....
僕は親指を立てて
あなたの顔に、見せる
しばらく忘れていた
Thumbs up の合図を
あなたに
僕に
この夜に
フェイスブックに
ツイッターから
インスタグラムまで
誰 ....
朝、起きる前の布団の足下に
ダウン症児の息子が入ってきて
妻がぱちりと、写真をとる
頭上の壁には
ミレーの「晩鐘」
(一日の労働を終えた夫婦の祈り)
窓から朝日をそそがれて
....
スマホの小さな画面を
指で開く
今日もSNSの文字は、告げる
「〇〇さんの誕生日です」
まぶたを閉じる
――今・世界の何処かで
東京都内の病院からは、赤子の産声が聴こえ
カルカッタ ....
一輪の花がゆっくりと、蕾を開く、宵の夢
創造のわざは、私のなかに働く
私を支える茎は背骨、密かな光合成をとめず
今日もわずかに、背丈を伸ばそうとしている
たとえまだ、日の目を ....
庭で夕空を仰いでいると
足下の、少し離れた場所が
ふいに がさっ と鳴った
古い柿の木から
枯葉の吹き溜まりに
実がひとつ、落ちたのだ
よく熟れた柿は
ほんのりと夕陽に染まり
....
この街に
人はたくさんいるのに
なぜ、ふいに
ぽつんと独りいるのだろう
読者よ 友よ
この紙の向こう側にいるきみよ
わたしの音の無い声は
その耳に届くだろうか?
願わくば
今 ....
久々にひとり旅で、箱根の宿の土産コーナーに
指でたたくとんとん相撲があった
――九才のダウン症児とやったら
お相撲さんをつまんで、ポイだなぁ…
翌日、小田原城の中には
玩具の刀がキ ....
トイレットペ-パーの残りを
使いきり、ちんと鼻をかむ
残った芯に
印刷された ありがとうございます
の文字に
僕も呟く ありがとう
最近は鼻づまりがひどくて
なかなか寝つけずし ....
あなたの形見のランプは、魂の姿に似て
夜になると書斎の椅子に腰かける
僕の仕事を照らし出す
* * *
あの日
この世の時間と空間を離れ
自らのからだを脱いだあなた ....
令和三年・一月三日
三が日の間に息子孝行しようと思い
{ルビ周=しゅう}の小さな手を引いて
川沿いの道をずんずん、歩く
野球場の芝生を
解放していたので
そのまま手を引いて
ずん ....
線路は明日へ、延びてゆく
明日の線路は、過去へ至り
過去はまた道の続きへ
二度とない今日の日を経て
旅の列車は走り始める
恋に傷んだ、町を過ぎ
日々の重さに憂う、町を過ぎ
....
久々に浅草の
{ルビ老舗=しにせ}の喫茶店「アンジェラス」に行ったら
すでに閉店していた
「アンジェラスの鐘」は「お告げの鐘」
もう鳴らない、その鐘は
やがて記憶の風景に響くでしょ ....
あの日、若くして病に倒れ
この世を去っていった歌姫よ
あなたは姿のない絶望の闇と向き合い
動悸の乱れる日も
副作用で口の中が傷だらけの日も
死の不安に独り…震える深夜も
最後まで、生 ....
詩人の友の「活動二十周年」を祝う
朗読会に出演した
それぞれの闇を越えて、再会を祝う
ステキな言葉の夜だった
トリの朗読をした彼が
最後の詩を読んだ後
客席の後ろにいたほろ酔 ....
テレビの中の壇蜜さんが言った
「コロナウイルスの影響で
私たちは人生ゲームの{ルビ双六=すごろく}の
プラスチックの車に乗せられた
エノキみたいに顔の無い人形になった」
元来、僕等はエ ....
ずっこけて、転がって、這いつくばっては
立ち上がり(瞳はぎらりと、ぎらつかせ)
またずっこけて、膝擦りむいて、血糊を
なめ、それでもまだ夢を見て、今宵の夢
を見たくて ―この世界に恋がしたくて ....
日頃ぐうたらな僕が
一念発起して
庭の草をむしり始めた
夏の太陽はぎらぎら笑い
ぽたり、ぽたり
{ルビ滴=したた}る汗は目に沁みる
草のむしれる感触に
無心で熱中しながら、熱 ....
机に置かれた一杯の水に
天井のランプは、反射して
小さな虹が架かる
今日も何処かで
人の間に
虹の橋はあらわれる
かれはすごい
てんかんの発作で
鼻の骨が見えそうな傷を負っても
支援学校の上級生に引っかかれ
ほおに血を流しても
夜、パパが家に帰り
ドアを開くやいなや
百万ボルトにまさるほほ ....
ちょっと耐えて
触れずにいた、かさぶたが
ぺりっと めくれ
新たな肌が日に照らされた
ほんとうは
回復しよう、しよう、としている
皮ふも 心も
まるごと
川の流れにゆだねた ....
目の前の
馬鈴薯と玉葱の炒めものは
たった一枚の皿であれ
時と所により
どれほどの幸いを、もたらすだろう
9さいの無垢な涙の一滴は
遠い空から
地上の友の頬に、おちる
9さいの君を想う友の涙の一滴は
遠い空へ
やがて 吸いこまれてゆく
* 今夜行われた
詩人のともちゃ ....
長い間 探した虹は見つからず
今日の行方を、風に問う
僕の内面にある
方位磁針は
今も揺れ動いている
風よ、教えておくれ
ほんものの人の歩みを
日々が旅路になる術を
群衆の ....
帰りの電車に揺られながら、頁を開いた
一冊の本の中にいるドストエフスキーさんが
(人生は絶望だ・・・)と語ったところで
僕はぱたん、と本を閉じて、目を瞑る
物語に描かれた父と幼子を ....
昔々、虔十さんという風変わりな男は
ぶなの木の葉がちらちら揺れて煌くほどに
もう嬉しくてたまらなくなり
一枚々々の葉のひかりが
自らの体内に踊っているかのように
いつのまに、ぶ ....
今迄きらいと思った人と
互いの気持をぶつけた後で
くるり、と心が回転して
鳥の場所から眺めれば
思いもよらぬ親しみが
じゅわっと胸に湧いてくる
その時ようやく私は
私 ....
五年程前に、上のの美術館で見た
山下清の描く「地下鉄銀座線」
暗い線路のトンネルに
あたらしい昭和のライトを灯して
完成したばかりのホームに
ゆっくりと入ってきた
....
旅の時間に身を置くと
宿で食べる朝食の
目玉焼きの黄味や
納豆の一粒までも
電球の日に照らされて
嬉しそうに皿に盛られているのです
小皿には仲良く並んだらっきょうの間に
も ....
人生は素晴らしい――
という言葉はいらない
洋鐙のらんぷの灯る名曲喫茶にて
物語の「 」だけが、真実です。
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