小島先生の大きな手が
私の後頭部を襲い
私は前歯を机にぶつけて
少し欠けてしまった
思い出せば鉄棒でも
欠けさせた事のある
前歯のすぐ隣の部分が
欠けて居る
思えば小島先生の手が
女 ....
さみしい、のかたちに
折り重なって死んでゆく
ひとりごとのなかに
わたしと似た顔をみつけた
タイムラインの流れにそって
点々と血が湾曲している
スワイプ、画面越しの愛撫
暗が ....
雨が降っている
間断なく
なぜ 雨を物悲しく感じるのだろう
たとえば 勢い良く降る驟雨は 元気で精悍ささえ感じる
まっすぐで 常に潔い
でも 夜になり 家のなかで ひ ....
薄く なまめかしい生を 朧にたずさえて
キミは 呼吸している
しみじみ キミは 黒曜石だ
意識する外界に ぶしゅと 放出させたものは
どんなにか甘美な夢でしょうか
キ ....
むすめのひざや足の裏はしっかり厚くなった。ひとり掛けのソファにすわってテレビをみているところなど、すっかり人間ふうだ。わたしは鏡をみるのがきらいになって(太ったまましばらく戻らないから)、自分の顔 ....
澱んだ空が憎たらしくて
蹴りをいれたいのだけれど
殴りつけたいのだけれど
想いさえも届かなくて
精一杯に唾を吐きかけ
考えつく限りの罵声を浴びせ
それでも気持ちが収まることはなく
さらに ....
曇り空を見ていた
コンビニのベンチで
缶コーヒーを飲みながら
部屋に篭っていると
自らの身体の痛みに
意識が集中してしまうから
近所のコンビニのベンチで
ずっと空を見て座っていた ....
なにもない
わたしのなかには
わたしがいるだけ
気だるげな猫のように
死後硬直は始まっている
小さな火種が迷い込むと
すぐに燻り 発火し 燃え上って
肉の焼ける匂い
骨が爆ぜる――生枝 ....
日射しにぬるむ木蔭に焼かれた
横たわるしろい肌
くるぶしを舐める犬の舌のざらつき
渇いていく唾液とこぼれる光は
すこやかにまざるばかりで手放しかたを忘れながら
あたまをなぜてやる
季節 ....
わがやのまよこの
原っぱには
(ときには鴉が来るけれど)
幼い子たちを待ちわびて
晴雨をいとわず座ってる
木製ベンチと滑り台
ジャングルジムや
....
病棟の窓から
自分のふるさとが見える
上から眺めると
人が住んでいるようには
まったく見えない
山と木しか見えない
まるで緑のジャングルのようだ
あんな所で
生まれ
育って
都会へ ....
台所の窓辺に
葱だけが青々と伸びている
ほかの葉っぱたちは項垂れて
もう死にますと言わんばかり
葱だけが青く真っすぐ伸びて
葱好きではないけれど
すこし
刻んでみたくなり
ぱらりと ....
そらの匂いが
あじさいの花に
かぞえきれないかげを穿つとき、
虹の残り香が めをさます。
こどもじみた言いわけみたいに
するり、と
きえてしまった
あるはずだったものたち。
( ....
竹の子の皮には
小さな産毛が生えていて
まるで針のよう
はがすごとにちくちくする
皮の巻き方は
妊婦の腹帯のように
みっしりと折り重なっていて
はがされたとたんに
くるりと丸くなる
....
駅が燃えている
交通量を燃料として
絶対零度で燃えている
構内放送はいつも通りに
列車の運行を伝え
人々は隙間の時間を通り抜ける
駅は青白く燃えている
そして即座にたち消える
....
その坂は四季をつうじてみどりにうねっている。
脇のブロックには苔や羊歯がびっしりとはえていて、上にはつねに葉がそよいでいる。
春夏にはきみどりが目にしみて鳥がさえずり、通る風はすっきり澄みきってい ....
ある冬の朝、飼っていた鸚哥が死んだ。
ちいさな黄色の、頬がほのかにあかい鸚哥。どのように出会ったのか思いだせない、な
ぜ、いつからここにいるのかさえわからない、物心ついたときには当たり ....
なだらかな丘を曲がり下る路のむこうは見えない
{引用=突き当たり 川沿いのT字路を左折する
右手には野菜や果物を売る民家が二つ三つ軒を連ね
白壁が所々すこし剥げたカフェらしき店が一軒あ ....
桃をおろし金に擦りつけ
埃をかぶって臭うストローを水で洗った
プラコップの水面は穏やか
遠い南国の、夏の海の、奥の奥
レンジから元気のない食パンを取り出して
固いバターをスプーンで擦り落 ....
だめだ
もうだめだと思いながら
それでもまだ生きながらえている
この鼓動は止まることがなく
呼吸が止むことなく
陽の光を浴びて幸せを噛みしめる
気を失ってしまいたいと切望し
なに ....
{引用=
朝がほどけると、水面に横たわり あなたは
かつて長く伸ばしていた
灰色の髪の、その先端から
魚を、逃がす
皮膚は、透きとおって ただ
受容する 水の、なまぬるい温度だけを
....
今日はぴかぴかに舗装されているから、うつぶせのままで背中の上をどんどん歩いていっていいから。夏になればまた雲が次々とやってきて積み重なるから、ふわふわと背中のほうからすこしあたたかくなる。街路樹の根っ ....
こわいね
津波もこわいけど
ひとが
こわいね
一定量の空気を
うばいあうような
日々が
去年
母が逝った
でもまだ
郵便がくるんだ
転送されて
デパートの
スプリ ....
空が3つあればね
1つくらい駄目でも構わないけど
音楽室は雨のコーラス
トライアングルを鳴らすと
乳頭があまく痺れた
先生はしょうのうの臭いがした
深くおじぎをするとポケット越しの ....
あなたのせいという
急速な風に吹かれて
青葉がつぎつぎと落ちるように
暦が落ちてゆきました
あなたのせいという
見えない伝書鳩が
ひと息いれる暇もなく
夏の星座の下を行き交いまし ....
最終連は
とうに終わっていても
締められた言葉は
いっこうに完結するようすもなくて
視線は
空を漂う余韻の行き先を
見つめている
その時
一羽の冬燕が目の前を横切るも
地面に落ち ....
おそく
お酒飲んで酔っ払う
乗り、過ごし
ここはどこだ
駅、空っぽ
歩くか
何飲んだっけ
ウォッカを…
ちっちゃいグラスにレモンとお砂糖乗っけて
ていっとあおったな
知 ....
水音のなかに
時間が並ぶ
どこを切っても
倒れゆくもの
耳元の螺子
洞の夢
すぎるかたちの声たちが
すれちがうたびに語りあう
勝者も無く花冠は増え
言 ....
都市は 心の模倣だろう
粉糠雨に 街灯が燈る
心の溝にも 点在した明るさが次第に道になる
見えない糸で繋がる送電線
車のように動きまわる明かり
しずかに一人きりの夜をともす ....
{引用=
静止したレースのカーテンが夕陽をたたえて、切りとられた金色に
染まっているこの寂しさは、切りそろえられて強調されたおかっぱ
のうなじ、森の小径で縫うようにうつろう黄色いニ匹の蝶々、また ....
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