すべてのおすすめ
家族による暴力で
老人ホームに来るごとに
体中の傷がどす黒くなってゆく老婆
国も
市も
施設も
ケアマネージャーも
ヘルパーも
一介護職員の自分自身も
手を差し ....
鋭利な湖面をすべってゆく
一艘の小舟
私は黒布で目隠しされたまま
なすすべもなく横たわっている
風 感じるのはすべて風
重い水をかきわけて
舟はゆるやかに進む
盲目の私の世界に響 ....
・
口に酸素を含んでから
目を閉じて
美しい光景を思い浮かべる
すると酸素は舌の上で
ばらの味の二酸化炭素へ変わる
誰かがわたしに口づけしたときに
いい気持ちにれなるよう
....
いつか来るその日のために
わたしはあなたに笑いつづける
楽しそうに笑っていると
呆れて見てくれたらそれでいい
いつか来るさよならのために
靴を履く準備をしておく
泣かないで歩け ....
八月はしづかに
葉先からくれないに燃え
白い節くれだった骨になる
そのつつましさの中に
芽吹こうとする強い意志を隠しもっている
漂流する鳥たちは
わずかの間のよすがを求め
自らの骨のゆめ ....
二十歳の黒髪のような、
ブルックリン橋から、曙橋を繋ぐ空が、
未踏の朝焼けを浴びてから、
青く剥落して、雨は降ることを拒絶した。
とりどりの青さを、さらに青く波打って、
空は、傘を持たずに、 ....
きみが眠っている間に、
きみをゆるめる。
きみは包帯に巻かれていて、
包帯はとてもきつく巻かれていて、
ぼくはいつもゆるめたくなる。
自分がきらいで、
自分 ....
いつもの下り坂を自転車で走り抜けてたら
ふと風の匂いが変わった気がしてブレーキをかけた。
片足を地につけて斜めに空を仰ぐと
丘の上で穂を送りだしたばかりのススキが
遠慮がちに目配せを寄 ....
誰かが言った
「世界は蜜でみたされる」
私は夢見た
「世界がレモン水に沈んでる」
世界は今
一体何で満たされているの?
私は蜜より レモン水の方がいい
満たされるよりも
沈 ....
いだいてくれていた
ちからがぬけていく
だれのまえにもでない
ねいろで
いとしさで
ふさいでいてくれていた
もういいよ
めをかくしてくれていた
いじのわるいてが
なきむしのように ....
ひとつひとつは とても小さな
出会いだったり さよならだったり
やさしかったり 冷たかったり
忘れていく 揺らいでいく
確かめるすべもなく
流れていく 壊れていく
それがとてもゆるやか ....
夏の名残を雨が洗うと
淡い鱗を光らせたさかなが
空を流れ
ひと雨ごとに秋を呟く
九月は
今日も透明を守って
焦燥のようだった熱や
乾いた葉脈を
ゆっくりと
冷ましながら潤ませ ....
いくつもの僕のうたのなかに
僕がいる
けれどそれはもう
いまの僕じゃない
僕のたましいは
僕のうたを
うらぎりつづける
そう
僕はいきているのだ
....
がっくりと
落とした肩を拾う
何かの実のように
赤く色づいて
種を持っている
やがて発芽する
青くてたくましい
力を持っている
肩は落とした数だけ
冬を語っている
肩は拾った数だけ ....
薄紙は
とても破れやすいから
私はいつでも
言いなりになる
ことばの数だけ
肌を重ねて
ほんとうの恋は
最初だけだと
いつのまに
私は気付く
あとは
薄くなぞるだけ
....
ほどよく冷えた桃の
皮が剥けるのも
待ちきれない様子で
傾いでゆくあなたの
日焼けした首筋
滴る果汁か
それとも
戯れの残り香か
甘い匂いが
鼻腔の奥に絡んで
涙させる理由
....
時間のなかに棲む蟻が
別の時間を描いている
滴と傷をまたぎ
影を喰んでは歩む
曇が廻りつづけている
鳥と光が
光と鳥をくりかえし
曇の前をすぎてゆく
時間が ....
可愛い
と紡ぐ、その同じ唇で
解剖用のメスを銜える
抱かれて
幸せそうだったビーグルの
断片を少しだけ、見た
突風がまるで嘲笑うように
二年生の白衣の裾を翻して
救 ....
窮屈そうな
言葉たちをほどいて
その向こうの空を見る
いつかのため息もほどいて
その向こうの青空を見る
さよならさえも言えない
あの人は
何と戦っていると言うんだろう ....
砂まじりの夕焼けが
河口の水面を鏡にして
車のクラクションまでが
赤方偏移すると
空がどこにあるのか
行方を見失ってしまい
だんだん宇宙になるその正体を
冷たく知ることになる
....
目的を持つように見える人々の間を
さも目的があるような顔で私も歩く
ミュージシャンとは付き合うなと言う私に
詩人とは付き合うなと笑いながら君
そんなごもっともな意見を思い出しながら
....
油蝉の断末魔に
ふりむくと
老婆がひとり
まどろんでいた
石段にひろげられた紙の上に
硬貨をひとつ
投げてやった
老婆は顔を上げると
おれの目を
じっと見つめた
あくる日
老 ....
俺の周りの空気が
水滴になった時
地獄の響き、天国の夢、姫百合の塔
街灯に
スラムダンクしかけて
警官に
止められました
「夜の道を一人で歩くのは危ないから」
「でも家に帰る時、いつも ....
青くてすごく激しい魚を
まな板に乗せてばちんと
首を刎ねた
何の通告もなしに
首も胴体も捨てた
血の匂いがあたりに漂って
ハイターをぶちまけた
心残りは無かった
格式のある店内
マナーは重視されている
テーブルクロスの裾からのぞく恋人の赤いパンプスが
僕の心臓を掴んでいる
身の豊かなスズキのムニエルが運ばれ
彼女は優雅な手つきでそれを口へと運ぶ
思 ....
緑の山の真中に
{ルビ白鷺=しらさぎ}が一羽枝にとまり
{ルビ毛繕=けづくろ}いをしている
曇り空に浮かぶ
青い空中ブランコに腰掛けた
わたしの眼下に敷かれた道を
無数の車は ....
鋭角的な警鐘が
残像する
私の眺めのどこかに いつも
おそらくあの時から
導音を失った私の音階
私はそれを
探しているのか
いないのか
果たして探すことを許されているのか?
....
ふきっさらしの橋の上は
厚着をしていても寒く
あんましその場に 留まりたくない
早足で駆け抜けようとした時
地べたにうずくまっている
毛布に包まった塊が
ぺこん とお辞儀した
ここは ....
火に声をかけ
火は昇る
木は かけらをわたす
蝶の影
静かに 細い
雨の陽
高い風 目を閉じ
空はこぶうた
灰の陰の青
鉛の刃が
水の紙に沈 ....
歩くのに慣れて
つまずかなくなった
娘は
平地でもつまずいて転ぶ
ひざっこぞうに
青あざをつくって帰ってくる
そのたびに
下を見て歩かないから と叱る
歩き始めたばかりの頃は
も ....
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