あなたが優しく息を吸い
ふい と息の根を止めた時
私は とても幸福でした
流れる雲は川面に映り
青い空を魚は流れる
錯覚しておいで
この手の平の陽に
飛ぶ魚よ 飛ぶ鳥のように
....
茜空が僕達を照らしてる
きれいなオレンジ色に映るボールを
投げては受け
受けては投げ
弟と家の前の路地で
夜の帳が降りるまで
キャッチボールをしていた
やがて味 ....
不思議な人が
一億個の不可思議を抱え
目の前でにっこり笑った
さて
僕は何から始めようか
おはよう おはよう
僕は君にとっての
不可思議のひとつでいい
....
渋茶と一緒に供する三時のおやつ
羊羹が出てくるとなんとなく胸が痛んだ
歯の裏に引っ付いてくる粘着性
苦みを感じてしまう程の甘さ
綿々と続く伝統の重さ
洋菓子が醸し出す空気たっぷり ....
「ありがとう」と言われたその瞬間
なぜだろう
口の中に栗が入ってきた
思わずその栗を噛み砕く
栗の味とその匂いが
自分を包み込む
なぜだろう
食べてもいないのに
そういえば ....
しがうまれたころから
ぼくらのことばはこきゃくだいいち
あまごいしてあめがふらなければ
ぼくらはころされてきたのだから
いちばんゆうめいなひとのなまえくらいしってくれなきゃ
おまじ ....
あたたかく冷たい砂につつまれる湧き水の音めぐるむらさき
饒舌を打つが私の常ならずハチドリの羽ハチドリの水
指さきに降る水銀の一粒に触れに来る火の姿はまわる
....
きりきりと張られた
暗い夜道
向かう音のない雨
片側だけで 聴く耳
もうひとつの行方
舗道を流れる
外灯の明りに
寄りすがり
つぶてに 落とされた 蛾
パタパタと 動か ....
祖父が亡くなってからずいぶんの時が経つ
お骨になった祖父は白く そしてもろかった
まだ暖かい祖父の骨を私たちは火ばしでついばむ
生きている者を火ばしで持ち上げたりしないすなわち
祖父は名実 ....
いつしか子どもたちは
走り方を忘れていった
いつしか大人たちも
走らせ方を忘れていった
走ることの大切さよりも
走ることの危険さが
叫ばれるようになった
走ることによって
強くなっ ....
今年はじめてみたススキの穂を庭先に飾り
半欠けの月を団子を頬張りながら
縁側で眺めていますれば
突如として思いもかけぬ激痛が走る
みるとあなたがトンカチをもって
わたしのくるぶしを叩 ....
プレハブ造りの小屋
緑色の大きな『究極そば』の看板
客が来たとたんに電気をつけた。
私はいったいどこが究極なんだという気持ちを抑えて店に入った。
店内は予想以上に広かった。おばあさんが一人でや ....
150億円の借金を抱えて
華厳の滝に飛び込んだら
借金が重すぎて
華厳の滝の
滝壺の
水が溢れて
日干しになった
カワガラス
クイナ
セントロニクスのプリンター
関係ないじゃんとい ....
洗い立てのかるい
ネルのシャツにでも着替えて
家を出て行けばいい
そして袖口を泥で汚したなら
帰ってくればいい
風に洗われながら
道端の小石とおしゃべりしながら
....
カレンダーを一枚めくる度に
当たり前に季節は深くなってゆく
ビルとビルの谷間の廃屋にひとり住む老婆は
知らぬうちに彼方からの者を迎え入れる
表通りでは今日も賑やかな工事が進み
誰も気づかぬう ....
閉じられた
まぶたのうえに
のせるくちびる
まぶたのかたち
まなこのかたち
たしかめながら
ひとりだけの あなたの
ひとつだけを
たしかめながら
....
ねむくなったので
さきにおふとんにはいっていると
おねえちゃんはつくえのひきだしをあけて
びんをみっつとりだした
とてもおおきなびんで
とうめいなみずがはいっていた
はなうたをうたいな ....
お母さんお母さん
お父さんが
仮面なとんとかーにいじめられてるよ
あ
今
まさしくんの
おとうさんがやられたよ
お母さんお母さん
....
遠くに見える軒先の明かりは
線香花火の様に見えました
それは小さく {ルビ朱=あか}く
瞬きをする度に{ルビ滲=にじ}んで
まるで線香花火の様でした
どこかで歌う声は{ルビ囁=ささや}き ....
遥かの西方から雨は僕の世界にやってきて
もう三日も降り止む気配がない
大粒の
激しい雨に
僕は傍らにいるお前の二の腕をつかんだ
お前の二の腕は白く
とてもやわらかい
クニクニと何度もつか ....
山里深く
美しい女が独り
淋しく庵を結んでいるとの噂を聞きつけ
伊達男や
誇り高い益荒男どもが
我こそはと
鼻孔をうごめかせつつ尋ねて行ったが
その度に女は
こんなときを ....
隣の空から降ってくる
それをわたしは見ていたよ
苦しくて眠れないのか
眠れなくて苦しいのか
孤独な人は羊を愛して
柵を越えて
すぐに行ってしまう
次々に飛び越えて
風に乗って
....
金太郎飴を舐めんなよ
ヤツは世界最強だからな
金太郎じゃなくて金太郎飴がだぞ
どこを切られても平気な顔して
いつまでも若々しくて
最後の最後まで全力で生きている
歳を取れば取るほど誕生日が ....
会社
会社の顔を汚すなと
上司に言われた
僕に顔は
いらない
未来
40年後の
僕の顔
今のこころが作り出す
レジェ
....
わずか25cmの彼女は
メルフェンだった
愛くるしい顔をした
庭の番人
彼女の周りにはいつも
伸びてくる草や
季節の花々に囲まれ
笑顔を絶やすことはない
時折り
トカゲや大き ....
日替わりで
ミルクの量が変わるコーヒーをあなたは
おまえの機嫌が手に取るようだ、と
綺麗に笑って
少しずつ飲んでいた
コーヒーにクリープなんか入れるやつは死刑だな、
初めて敬語 ....
巌に一列に並んで
暮れなずむ彼方に見入つてゐる鵜よ
さうしてゐれば
見えなくなつていくものが
現れてくるとでもいふやうに
水平線を見据える鵜よ
こんなにもひしひしと迫り ....
僕の中には
ゆかしい枯野が広がっていて
いつも日が当たり
おいでおいでをしている
そこには死んだ母や姉がいて
昔飼っていた猫やアヒルもいて
みんな愉しそうに輪を作って踊ったり
....
結び目を
ほどこうとする指先は
きみの吐息の熱さのなかで
やわらかに
能動のつもり、の
受動となる
名を呼ぶほどに
ひとみはひとみの鏡となって
きみは時折
ひとりで勝手に向こうへ ....
このひとつぶに幸いあり
このひとつぶに不幸あり
不ぞろいに置いたそのつぶを
くちびるに含んで夢を見る
あのひとのくちづけを
あのひとのかんしょくを
私の恋はいまだ熟さない
....
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