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拝啓と書く
敬具で〆る
小学生のとき
電話とメールというメディアの違いを考えよ、という課題があった
今はもう、そのどれもがふるい
既読がつき、いいねがあり
三分の空隙にすら意味がうまれ ....
転ぶのを恐れて
歩き出さない赤ん坊が
膝を擦りむいた
初めて声をあげずに泣いたのは
きっとその時だった
私が死のうとした理由をたどって
行きついた先の自分
我慢さえあれば
....
白い死神の背ビレに切り裂かれた
ふかいふかい空の底から
ぽろぽろと
こぼれおちてきたものの正体を
ぼくは
知っている。
それは
まき散らかされる
おびただしい数の安売りの愛だ。
....
いちまいのやわらかな和紙だったね
わたしたち
淡い夕空に星の 輝くような
やぶられて
ふわふわの 端っこが
互いに 手を差し伸べても
又 一枚になれることは
わたしたち
ないのだね
....
晴れた日の海のような青
遠い島まで泳いで行けそうな空
台風の落としものを拾う子ども
背中には
期間限定の羽
台風が去った朝に
台風の行方を考える
身軽なようでいて
実は
ひと ....
もういいのです
きみは鼻血をださないように
恋も科学なのです
かったるいものもぶっ飛ばして
でも恋は愛よりもましかもしれません
たくさんの恋の集積と
未知の涙や動揺とともに
初め ....
手頃な刃物で踝に刻んだ言葉は小さく、それは告白でも独白でもなく
ただただ痛みと、意味と共に在り
どうぞ私の手をお取りください、苦しみと、悲しみに潜む言葉たちの種よ
大衆食堂の裏側、排気ダ ....
話しそびれてしまって浅い水路で風がわらう
ぼくたちのてのひらで火傷した蛙の
フリーズと
ラケットを肩にかけた生徒たちが
それぞれの家に帰る
ざ ....
水の惑星の縁に群れる雲は
答のない問いをささやき
そよ風といっしょに耳をなぜる
私は私の影なので
生き身は自然からのかりもの
魂は何とは言い切れない何かへとつながっている
雪国の
....
傘を見たものは言う
尖っているやつだね
いや、丸かった
いやいや、三角だった
短くなかったか
....
手を伸ばしても、伸ばしても
掴めないやさしさに
伸ばした指先に
宿るかなしみ
声にだすことも、
泣くこともできず
....
{引用=忍路・蘭島}
翡翠と書いてカワセミと読む
そんな宝石が飛び去る刹那の後姿を
有難い気持ちで見送った
3500年前の環状列石は
見かけも手触りもありふれた石
そりゃあそうだろう
....
ふるさとみたいな
おなかのつめたい石に
雨が降る
チャコールグレーの傘をさした
すぎやまくんに
水溶性の雨が降る
溶けていくね
好きだったのに
ほんとうは存在していない ....
僕たちは妄想を充分に知ってしまった
僕たちは世界中の女性に憧れてしまった
僕たちは愛されない苦痛を知っている
僕たちは自分であることにときどき疲れてしまう
自分の番地を持たない君とは友 ....
手を合わし目をつむり
「みなさま
今日も一日 ありがとうございました
今日もこうしてお休みできます
ありがとうございます
みなさま
お休みなさい またね」
と夜の布団の中で声を ....
この胸から一枚の
夏の風景をとりだしてひろげよう
青い湖 まわりは緑の森
そのむこうになだらかな丘々
湖には小さな桟橋 つながれている幾叟かの小舟
ほとりに小さく白い館
そこで僕らは
....
泣きぬらしたガラス
とり乱す樹木
細く引きよせて
下着の中へ誘いこむ
風とむつみ合い
あお向けに沈んでゆく
せせらぎも微かな
時の河底
陰影に食まれながら
缶ビールを開けて
....
{引用=土に還らず}
木洩れ日のゆりかごに
干乾びた夢ひとつ
蟻に運ばれることもなく
ペン先でつついても
カサコソ鳴るだけの
蝉よりも見劣りする
透けた単純構造から
ふと零れる輝き ....
夏の夕暮れに躓いた
石ころがあったわけじゃない
何もないからこそ躓いた
すぐに起き上がったが
膝を痛めた
夕焼けが眩しかったの ....
ちいさな蕎麦屋の片隅で
夏の忘れ物が色褪せていく
ときには本を片手に行儀悪く
あるいは昼間から日本酒を肴に
天ざるふたつを頼みながら
....
長い長い光のすじを
たどる気持であるいていた
だれかが声をあげる
これはただの線だ
白く書かれた 一本の ただの
もう少しいけばわかる
別のだれかが言う
のろのろと足はうごいてい ....
そう、八角と豆乳を入れたんだね
なかなかやるじゃないか、
益々美味くなっていくな、キミの作るチャイは
インドではね、
チャイを美味しく作るひとは、人々から
敬意を以て「チ ....
身体感覚に素直に従って生きてゆきたいのですね
回答の得られない食べきりサイズの人生でもそれでも
新たな無限のドアを自ら鎖してしまわないように
太陽が遍照する微妙なバランスの不自由にありがとう ....
空を見上げていた
走ることをやめると 僕は
空を知っていた 僕は
空の下で 走り出すと
忘れていたはずの空を
ここにいるよ
肩を叩く、
きみからは赤い強い臭いがする
そうかと思うと水色に香る
すべてみたいな顔して
この庭を出たとこで
きみに見つかりたい
なにもかも忘れて
合図も順番もないとこで
ともした線香の香りが連れて行く
どこかへ行ってた盆の夜
鏡を見れば どことも言えず
いとしい人の面影がよみがえる
今生の人よりも はるかに多い
過去の死者と 未来に生まれてくる者 ....
父親のことを書こうかと思う
優しい男だ
優しさを通り越して
気弱であった
かなり痩せ型で
ひょろひょろしていた
まあこうして
兄も私も
それなりの社会人に仕立てたのだから
立派な大人 ....
砂浜であたたかな光を浴びながら
私たちは貝殻に閉じ込めたことばを砕いている
細かい粒子がキラキラしては手のひらで
掴み切れないものをかろうじて掻き集めて拾っている
足の裏に微かな熱を感 ....
つがいになったんだって
そんなの考えたことなかった
考えたことなかったけど
なんかいつの間にか
つがいになってたんだってさ
昨日と明日
ネジとドライバー
太陽と海
シナモンとウ ....
擦れ合うふたつの金属のような
疫病の女の叫び声が
複雑に入り組んだ路地で反響を繰り返し
縺れ合っては消えていく雨交じりの夜明け前
悪夢から滑落した俺は
自分がまだ生きているのか確かめてい ....
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