遊覧船は雨もよう
縫い針さながら森はしずかで
昼間の月は紙片を降らせる
絵になれない陰はどこにもないから
わたしはひそかに呼吸する
白熊 パンダの夢見てる
大海原の真ん中で
立ち泳ぎ
途方に暮れて日も暮れて
せめて目指すべき陸地が見えたなら
それが遥かに遠くても
そこに向って進もうと
いのちの限り泳ぐだろう
だが今 四方八方
....
道を極めると書いて
極道とはね
笑わしよんな
苔色の水のうえに
釘が一本刺さっているのを
みとめて、きみは
小さく立ち止まった
むし暑い夏の午後の風は
邪悪な商人のように
きみのポケットには ....
水と油は
反発し合う
反発するから
互いが成り立つ
水と油は
こばみ合う
こばみ合いつつ
となり合う
水と油は
よごれ合う
よごれ合うから
澄み分けてゆく
....
たとえば一本の麦穂のように
収穫を 忘れられて
項垂れながら  汗を流している
黄金色の畑のへりで
埃っぽい道のかなたの
青空に
憧れている
そんな
一本の麦穂の ....
愛していると
水に沈めるようにしか
言えなかった
おもたいものほど
きちんと遠くへ沈むので
うみがめが
なみだを分泌するように
水のなかで
愛しているを
沈めている
....
わたしたちが会っていた時間は短かった。
日焼けした太腿をさすりながら眠る彼を見ながら
わたしはビールを飲んでいた。
夢の中で私の頭を撫でているかどうか
確かめられたらいいのに
一人きりで ....
むかし熊だったころの話をすると
わたしの手あしの毒虫に噛まれたところがどくどくと痛むので
これはむかし熊だったころにも同じところを噛まれたのだろうなと
予想できる
それくらいの頭で
....
陽のしたで
わらっている子ども
泣くとき大声あげるん
だろうな
ひざをかかえて
血をなめている
わたしのもとへ来る蛾は
どいつも羽が
不揃いで
うまく飛べるように
たか ....
なぜ命を賭して戦場に赴く
ジャーナリストや写真家が存在するのか
彼等は知っているのだ
戦争でまず殺されるのは女や子供たちではなく
もちろん兵士ではなく真実だと云うことに
それを知るた ....
潮騒を聞いてあなたを見ていたのあなたはずっと海を見ていた
陰気な病院が
頭の方から
青空をゆっくりと降りてくる
逆さまになったまま
患者のひとりは今、
あざやかなレタスを食んでいる
桃色の看護婦がそ ....
ハローワークに行ったふりをした帰りに
そうえいばキムからの着信があったなと
スリーエフの交差点で電話したら
おばさんが出て
ミキくん、ブログの作り方を教えてというので
一体あのババアが何をイ ....
錆びたチェーン 剥げた塗装と 積もる塵 空気の抜けた タイヤ、十年
伸びた腕 煉瓦色の肌 高い声 母のうでから 抜け出る十年
深くなる シワも記憶も愛もみな 未来だけが 淡 ....
夜が、
たえまなく改行を続けているあいだ
いくつかのケーキがゴミ箱に捨てられ
何匹もの犬が鳴きながら焼き殺され
きみの体に秘められた、すべての
愛らしい軟骨は ....
親を亡くした子を孤児という
妻を亡くした夫を寡夫という
夫を亡くした妻を寡婦という
しかし子を亡くした親を呼ぶ言葉はない
その痛みや悲しみを表現できる言葉はどこにもない
夜よ ご機嫌麗しゅう
少し話していきません
ぬるい時間をちびりちびり
ロッキングチェアで揺られるような
取りとめのない浮世のことを
露出狂の政治家たちが
脂っこいことばを吐き出してはそ ....
ほとんどの国の国歌は
軍歌である
それはひとつの国家の存在に
如何に多くの血が流れたことを
物語る明白な証拠でもある
その点に於いても
君が代は稀なる国歌である
押しだされる
水はつめたい
書物は
ため息のようにぶ厚い
きみのまぶたは
蝶の羽のようなかすかな運動をつづけている
空気は遠くなりすぎた
青はためらい
黄色は純情
うす紫 ....
僕にだけ見えない非常口
おまえはただのロック
おまえはただのパンク
おまえはただのハード
おまえはただのメタル
おまえはただのポエム
おまえはただのノベル
おまえはただの散文
おまえはただの ....
小雨の降る
夏祭の夕べ
タキシードを着た中国人が
屋台と雑踏を縫って歩く
みすぼらしい電飾にきらめく
濡れたビニール傘の匂い
その中国人の着 ....
どんな美しいひとを
思って
いや、前にして
あなたは言葉を紡ぎだして
いるのだろう
甘く柔らかい感触は
いつも あたしの心を
くすぐるのだ
大きな体のどこに
少女のよ ....
夏休みでした。水族館へ連れて行ってもらい、夕食付きのホテルへ泊まった。
水族館では、いるかの跳ねるところと、くらげの展示と、あしかのショーの最中に、濡れたあしかの肌が、おどろくほどすべらかなさま ....
みて
水曜日が
からからに
干上がっている
じょうずに染まってみても
ここには誰もこない
となりのまちから
ひとえき切符を買うより
ぶらぶら歩いて行こうと思ったのが
何かの間違い
閑静な住宅街を歩いていると
だんだん道が狭くなってゆき
家も密集してくる
もとの道を戻ろ ....
まだ曇り空
少し前に雨が降って地面は濡れている
綺麗に洗われた石畳の道を歩き
色艶溢れて髷結う人々が行き交いそうな
長い石段をゆっくり登っていると
小さな蛙がよこから
....
シャンパン・グラスには
シャンパンを注ぐ底に
見えない小さな傷がついている
その傷があるために
シャンパンは長く美しい泡を
出しつづけるんだけれど
きみはそれは何かに似ていると ....
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