きょうはどないや
おまえの宇宙の出来栄えは
なあ?
大好きやで
人生ってもぐらたたきみたいや
ずっとたたいてんねん
たたかれてんねん
未来は変えること出来 ....
台所に行くと小さな深海がある
水圧で食器洗浄機が潰れている
よくあることだね
きみが見たこともない魚を
きれいに包丁でさばいている
時々あることだね
たまにあることだね
....
110912
祈りたいならば
どこか遠く
だれにも見えないところで
おやりなさい
異教徒の群れの中では
声を立てたり
十字を切ったりしたら
命にかか ....
空港のインフォメーションを知らせる音がする
人生はひとつの感傷旅行のようなものだ
ぼくは何処へも行きたくなかった
みんな普通に歩いている
それが羨ましくて淋しかった
ぼく ....
陽も暮れきった午後六時
買い物メモを持って靴を履く
切れているのは醤油
それから時計に入れる乾電池
八時には夫が帰宅するので
急がないといけない
台所にはやりかけのパズルが広げてある
電 ....
いくつかのよりどころが
いつのまに
消えたり増えたりしている
かけがえのない場所だって
もっともらしい理由をつけて
帰りたくない日がある
ラビのパンの話を覚えている
僕の気持 ....
フェンスがどこまでも
長く続いている夏
午後、知らない所で
知っている人は逝った
乗客も乗務員も置いて
青い列車は海に向かって出発する
座席には誰かが忘れていった
大人用の眼 ....
台風がそれて良かったと思うものの
荒れ狂う里川の変わりようを
術もなく見つめる老人の眼差しに寄り添うことは難しい
人様の身の上にふりかかった災禍などと
素知らぬ顔して晴れ上がった台風一過の ....
いつまでも泣いたり笑ったり出来るよう
二人で一緒になったはずなのですが
歳月と私の怠惰のため
君の目許には苦労の色が溜まり続け
随分と皺が多くなっているようです。
それでもとても奇麗だと
....
どれほど歳を重ねたにしても
夏の終りは感傷的で
どこかしらか和太鼓を叩く音が聞こえてくる
リズムを刻んでいるようであり
生の在り様を現そうとでもしているのか
小刻みに
あえて無 ....
潮風が吹くだけの頁がある
そこまで読むと
少年はいつも眠くなってしまう
少しずつ部屋に隙間ができる
西日とともに
明日、と呼ばれる不安が
部屋を満たし始める
ハエが小さな声で ....
青黒い皮膚の下で
躍動する肩甲骨に
未熟なサーファーが乗り上げて
水飛沫を上げて砕け散る
白い泡立ちとなって
打ち寄せる指先は
永遠に砂浜を掴み損ねて
桜貝の汗を置き忘れていく
....
まいごのまいごのヒヨコちゃん
駅のホームにヒヨコちゃん
ちょこんとかわいいヒヨコちゃん
あなたのメルヘンまもります
あなたのしあわせいのります
まいごのまいごのヒヨコちゃん
駅のホーム ....
どこかで小型犬が吠えている
真夏なのに帽子を被った女性の人が
オレンジ色の自動車を運転している
ガソリンは昨日より一リットルあたり二円安い
空は曇っている、天気予報士がしゃべったと ....
東京に着いた
小学生まで過ごした町だ
二十代にも三年暮らした町だ
やっぱりいちばん落ち着く町だ
とんでもない僻地でも
暮らせば将来
そこは落ち着く場所になるんだろうな
なんだか悲しくな ....
精神の安定
そんなものあるようでない
世界を開ける秘密の鍵
そんなものがないのと同じだ
ないから諦めろ、そう言いたい訳じゃない
幸福について祈るより
現実に立ち向かう人間でいたい、それだ ....
悪い風も良い風もない
風は
放射性物質だけを運ぶのではないのだから
悪い波も良い波もない
波は
津波だけを起こしているのではないのだから
悪いお日様も良いお日様 ....
理由があって
朝まで駅で過ごした
ベンチの下に
甲虫が死んでいた
裏返っていた
始発まで眠り
目を覚ますと
甲虫が裏返ったまま
手足を動かしていた
生きていたのだ
理由 ....
海へと下りていく小道に
一匹のセミがいた
地面にしがみつくように
じっと静かにしていた
指で摘んでも動かない
すでに命は失われていた
次から間違えないよう
ひっくり返してお ....
院長夫婦に預けられてぼくは病院に住んでいた
病室がぼくの部屋だった
おっとりして真面目ないい子だとおばさんはよくぼくをほめてくれた
その夏、病院に大量の小虫が発生した
ちょうど ....
それから、わたしたちは
たわいもない話をした
例えば
太陽熱の行方であったり
入道雲の裏側についてだったり
陽炎みたいな
曖昧な、話ばかり選んで
窓から顔は出さない
直線的に切 ....
久しぶりに実家でゆっくり過ごし
今は亡き祖母の和室に坐り
夕暮れの{ルビ蜩=ひぐらし}の音を聴いている
掛け軸には富山の姪っ子の
書き初め「広いうみ」が
悠々とクーラーの風に揺 ....
せみのことばには
あいうえおも
かきくけこもありません
さしすせそも
たちつてとさえ
いみはありません
ただ、ぎぎぎとか
ぎゃっぎゃっとか
なきながらとびながら
....
こころが気持ちだと思っていた
こころで気持ちも変わるものだと思っていた
でも真実は違うようだ
脳で気持ちって変わるんだ
さっきのメールを読みながら
いや、削除したときそれを確信した
またひ ....
わたしたちが
ねむっているうちに
またひとつ
よるがまちを
おとずれました
ねむらずにきょうもまた
よるがまちをおとずれました
わたしたちが
ねむっているうちに
....
何かの工場でも移転したのか
住宅街の真ん中にあられた大きな空き地
その空き地を取り囲むようにはためく斎場反対の白抜き文字
いつまで運動は繰りひろげられていくのだろう
はちまちをした町会 ....
日本海にしずむ
落陽は
おおきくて美しい
と、ラジオでだれかが言った
*
かつて
五島灘にしずむ
落陽を
―― オレンジ色のおおきな
....
帰るべき家があれば
来た道を戻るということは
当然のこととなるが
家を持たぬ旅人は
どのように歩いても
片道の往路でしかない
家と目的地を往復するだけの
平凡な毎日に
何も疑問を持 ....
このへやは
にしびがまぶしくて
とだれかがいった
だれかはもはや
ひとではなくて
それでもひとのつもりで
あるようだった
にしびだけが
つよくそのあたりを
てらし ....
ジグソーパズルの
欠けた1ピースが
見つからない
左目をなくした
モナリザが恨めしそうに
見上げている
完全であることに
恋焦がれる病が
再発したらしい
散らかった机 ....
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