白髪があったので
抜いてみると
耳の裏辺りから
ぷちっと音がして
なんだか少し
体が冷えたみたいだ
隙間風の
よく聞こえる耳になった
抜いた白髪が
白い糸みたいだったので ....
黄いろい光と影
田んぼ
新幹線でぶっ飛ばす
田んぼと田んぼの細道を
静かにまっすぐ銀の軽
その銀の軽が
ぼくに憑依してきた
軽の中では音楽が鳴っていた ....
何度目の朝なんだろう
僕はまた歩く
或る朝、僕は草原を歩いていた
太陽は今にも昇ろうと地平線の向こうに待ちかまえ
紺色の空は金色に染められた
僕は息をとめて歩いていた
或る朝、僕は雨の街を歩い ....
庭の外に
泣いている人がいる
君の友達だったかもしれない
それは秋の虫だ
りんりんと
しんしんと泣いている
まだ死にたくなかったのだろう
泣く声は、鳴く声になって
いと ....
ねじが切れると
メロディは
ゆっくり
終わりを
始める
それは
寂しいけれど
唐突ではないあたりが
優しくて
たぶん
わたしの一生も
こんなふうに
終わりを始めるの ....
雨が降ってきたので
ビニール傘を開いたら
突風が吹いて
傘が捲り上がりそうなところで
むむっと踏んばり、持ち直した。
たとえ突風が吹こうとも
傘の柄をがしっと持って
自 ....
泡粒の数だけ思い出があり
からからからと音がする
競走はいつでもいちばん最後
ひとあし遅れて着いた小さな菓子屋で
真っ先に選ぶのは瓶入りのラムネ
にじみだす汗を乱暴にぬぐい
....
泣いて明かした朝の
空の青になりたい
仮染めの色が水に溶けるように
澄みきって 広がってゆきたい
ひとそろいの翅を持っていたら
昇ろう
たとえ彷徨いながらでも
空とひとつになれるとこ ....
きみの言葉
岸辺の水草
抱き合った夜のまるい小石
わたしの言葉
艶やかな泥
探り合った分だけ{ルビ嵩=かさ}んだ枯れ草
ひとつずつ拾い集めて
一年間を歩いていく
ほら、
晴れだと ....
相田みつをの書に素直になれない
そんなもんじゃないと反発してしまう
宮本輝の登場人物のセリフに素直になれない
そんなもんじゃないと反発してしまう
そんなもんじゃない
ならどんなもんなのか ....
軽快なピアノの音にのって
人の優しさが風に舞う
海辺の部屋は明るい光と
鼻をくすぐる潮の匂い
遠く望める水平線に
白いヨットといかついコンテナ
そのまま外海に流れるのか
二艘とも海の彼方 ....
遠い所へ投げ込んだ
緑の草が生え揃っていて
生きていくことの
寂しさがあった 彼女の
言葉も無いがままに
*
人生がこれから
どう進んでいくのだろうと 今も
この胸に
焼 ....
ものがたる 星から ふってくる
はねのおと
ほろんだ鳥族の 夢が はかなく
僕の部屋の 窓辺に
ながれ つく
星をねがう
走鳥類のまつえいが
ねむる
広げた灰色の つばさが
....
港のにおいがする
海ではなく
人間くさい
暮らしがあるところに
海ちゃんがいる
死んだはずなのに
どうしているのだろう
首をかしげると
首がないことに気づく
わたしの耳に ....
空き地はだれのものだったのだろう
サクもなかった
公園でもないのにみんな勝手にあつまっていた
土管にたまった雨水
そこにはオタマジャクシもいた
道ひとつはさんで玉ねぎ畑
....
親が小さくなると
大きかった頃を忘れ
煩わしさに
腹をたててしまう
だけど、
遺影の前で
すんなりと思い出すのは
大きかった親の影
ありがとうより
ごめんなさ ....
こころが感じたちいさな興奮を
この世の片隅にあらわしてゆく
思考やこころで感じたことを
ぼくにはスケッチし直す作業が必要だ
セミが腹をみせて死んでいた
けったら生き返るか ....
遠くから見ると
家々の灯りが山裾に
へばりつくように
つらなっているのが見える
あれらの灯りは私ひとりの
いのちよりも長く生きるだろう
ひとりが斃れふたりが斃れ
世代の交代があったと ....
夕方の
涼しい時間に
畑に行って
枝豆を採る
ぷちぷちと
ひとりぼっちで
やっていると
夏の空気は
本当は
どの湧き水よりも
澄んでいるんじゃないかって
それを独り占めし ....
眩しい舗道に
蝉、おちた
鳴くのをやめて
飛ぶのをやめて
褐色の羽根に
ちりちりと熱が這い上っても
黙って空を仰ぐ
湿った真昼をまとい
木陰にくっきり分けられた ....
ひさしぶりに
裏庭を見ていた
貝殻や
魚の死骸が
たくさん漂着していた
いつのまに
海が来ていたのだろう
命はまだ
こんなにも
満ちているのに
干潮の砂浜を ....
誰の詩も読みたくないので
誰の詩も読まない
もとより誰かの詩を読めなどと
強いる人もいない
誰かが書いた、というだけの詩ならいいけど
誰かのものである詩は
誰か書いたその人が読んで ....
矩形の渓谷の一角に
わたしのオフィスはあり
黄昏時にはきまって
調子の悪いコピー機が
崖を降り始める
報告書や小さくて地味な高山の花が
つまれないよう
処理されて
岸壁は
お客様の飲 ....
090825
モビルスーツが欲しい
食べたいだけ食べて
夜は
名刺のように眠る
弾かれたように起き
スマートに走る
美しい心の持ち主と競い
心 ....
あんなに耳障りだった蝉の声も
虫眼鏡で集めたみたいな痛い陽射しも
まるで色あせ始めた遠い物語
なだらかな坂道を自転車でおりると
向かい風がほんのわずかの後れ毛を揺らす
時折小石が顔を ....
パルとニュウはあやとり専門学校で出会った。
二人は毎日仲良く電車に乗って家に帰る。
MP3プレイヤーのイヤホンを二人で耳に片方ずつ着け、
パンクバンド「五体満足」のファーストアルバムを聞きながら ....
異常気象というけれど
二十四節気はまだ狂っていないようだ
啓蟄にはたしかに土の匂いが漂いだすし
きのうは処暑で
あきらかに暑さが退散している
加害者づらしてエコを論ずるよ ....
私は私の砲丸を
(その重みを片手に乗せて)
投げる事が、できるだろうか?
今日という日を、生きるのか
屍のように{ルビ彷徨=さまよ}うのか
きっと二つに一つの事で
いつ ....
そそくさと去り行く夏の記憶を確かめようと
深緑色に澱むお堀ばたを訪れてみた
色とりどりのウエアでストレッチに余念の無い肢体は眩しく
人恋しさを見透かされてしまうようで
遠慮がちにちょっと離 ....
こうちゃんがいる
淹れたての
紅茶の湯気の向こうにいると
寝言を言って
祖母は祖父を追うように
逝ってしまった
けれども祖父は
こうちゃんという
名前ではなかった
....
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