まじょが
カレーの皿を割っている。
いつか出逢えるあなたを
この屋上で待ちながら
もう出ない声を絞り切り
歌う歌がある。
もし空を飛べたなら〜
あなたに会いに行きますよ〜
....
蛍の光のなかに二人はもういないし 蛍もいない
きれいな緑色の軌跡ばかりが
薄いパネルの表面を掠めて 涼しげな川岸の草葉を揺らしている
蒸気と霧が立ち込める、ネオンと接合車が溢れかえる、四六時 ....
朝飯は夕べのうちに炊きあげた
玄関の埃も掃きだした
窓も閉じた
出発する
雨の中を出発する
明日の晴れない空に向けて
訳も聞かずに怒鳴り散らした
昨日の後悔をポケットに ....
生きてるとどうしても
日々の狭い箱の中で
図太いおばちゃんに出くわして
むかかっ ときちゃう
僕の狭い心
そんなおばちゃんの
密かなチャーミングさや
ひたむきさや
ひたぶるさや
....
どうでもいいぢやないか
それは君のくちぐせであり
ぐうぜんにも 君からきいた
さいごのことばでもあつた
ひと月まへ 一緒に飲んで
別れ際にきいた いつものせりふだ
その前に何を ....
私は瓦礫のような絵を描いている、
白は絵の具で、絵の具の壁は白い、
あなたは私のガラスを叩くでしょう?
私は吹きっさらしの家です
夢ではなくて、死ではなくて、
現実にはふた通りあります、 ....
青だ
ぼくのこの
狂おしい恍惚の色は
まだ瑞々しい渇きに満ち満ちた
果てしない海の青だ
潮騒がする
耳をあてた胸の奥に
白い指のからみ合う
真昼の夢が薫り立つ
熱き血潮の
....
旅に予想外はつきもので
おどろかないってのは無理な話でも
おどろかないフリを
演じる役者でいたい
遠い旅先の雲の中を
突き進む
空の機内で思う
――友よ、願わくば
日々の旅 ....
煙がすべて空に消えたら
ぼくの骨を拾いに来てくれ
肉はすべて
烏どもにくれてやった
ぼろぼろの骨のなかから
丈夫なものをひとつだけ拾ってくれ
それからそれを
あの女の部屋に投 ....
隕石が落ちてこなくったって人は死ぬので
時刻表をスマホで検索している
電車が人を流産するように
悲しみを嘔吐したので
血管は破裂してしまいそうです
あのビルの窓に映る世界が天国よ、
そ ....
赤い糸で仮縫いされた想いは
たぶんジグザグになって
ゆっくりと遠回りして
あなたに向かっていく
蛍が宇宙の渚で
ゆらゆら揺れながら
天をめざして昇っている
星に生まれ変わりたいと ....
いかがおすごしでしたか ほんと おひさしぶりですね あなたのことを
得体のしれないエネルギーだという人の話を ほんと何度もききましたよ
人々はあなたに出会うと ほんらいの姿を取り戻すだの心洗われる ....
背のびしても
とどかなくなった月は
親指と
人指し指のあいだで
沙になって
さらさらと風にのる
くらい、脆い
雨の
こぼれたすきまから
青く
ふる光を
織るようにしてなびく
....
天気予報は雨でした
なめられっぱなしのなめくじが繁華街へ向かう
あなたの名前は何ですか
えっ 名前 何だろう
名前のない なめくじ
かたつむりのように背負うものもない なめくじ
ガ ....
{引用=
イ短調ロンドの孤独に犬のやうにあくがれて
せつかく育てた{ルビ硝子=がらす}色の{ルビ菫=すみれ}を
ただなつかしく僕は喰ひ尽してしまつた。
失意のかたい陰影を
新緑のプロ ....
何も語らず、微笑みながら
君は夜の川へと飛びこんだ
じゃぽんという音とともに
鉛を溶かしたような色の水球がはじける
あっけにとられる間も無く急速列車が横切って
窓から見える人人人
ごく一部 ....
あさ、
と呟いたことばを
ひと呼吸おいて窓辺に置くと
射し込むひかりに反射して
きらきらとひかる
うとうととする
あさ、のとなり
クロワッサンがやさしい匂い
ぼおばる月のかけらが
....
春のあるある
暑い日ばかり続いたから
心機一転キャミソール一枚で出たら
寒の戻りが吹きすさんで風邪を引いた
そんなとき
薄着のうえに長袖一枚羽織ったら
体温の調整ができること
知りすぎた ....
すべての川は流れている
すべての故郷の川は流れている
耳を傾けるならその川の流れを
聴くことができるだろう
乾ききった風と砂しか入らない
窓からせせらぎが流れてくる
台所の床をひたして ....
あの犬の鳴き声が哀しみをいや増して
どの街まで逃げても逃げられないような
死にたいって感情が邪魔で吠えられない夜なら
白々と明ける朝をそのまま凍って待つつもりさ
空白の静けさが ....
窓から
射しこむ
ひかりに揺れる
小さな寝顔のうえで
未来がうず巻いている
シエスタ
君は宝島を見つけたのか
シルバー船長や
オウムのフリント
うず巻く海原を越えて
高らかに ....
おまえの手には
もう半ば潰れた
折鶴が死んでいた
折鶴がまた羽ばたくことを信じようとする
瞳に縋りつきたい誘惑、がある
だけど、告げなくては
いけないのだ、小さな手よ
おまえの手 ....
枇杷の実、たわわ、たわわ、と
ふくれた腹をかかえて転がりそうな
夕陽に照らされ景色をゆすって風を
くすぐり、たわわ、たわわ、と
悲しげな
その実に
歯を立て
しごきとる、なぜにこ ....
{引用=ちいさい音ですね
しってますよ、草むらのなかです
(ひとはいつか 虫になる、のでしょう)
わたしは音に、よびかけます
海に行ったこと、ありますか
....
母が静かに佇み
やわらかな星々に横たわると
夜が落下する速度で
慈しみと憎しみが揺れ動く
母の季節が訪れるとき
夏と冬が行き来して
子どもたちは春と秋を奪い合う
「あんたは身 ....
医師と口論したので病室にいるのが嫌になった
リネン室に忍び込む
誰かが寝起きしている形跡があった
やむなく 病院を出ることにした
二階の小田急線直通の改札口からホームに降 ....
絵本の中で星を探した
月のみえない夜のかみさま
あの子がすこし泣いた日の夜
{引用=天使ちゃんです。
わたしの部屋の窓にすわっています。
毎朝十五分、ラッパの練習をしてから、かえっていきます。
絵をかくのがすきです。
神さまに見られるのがこ ....
静けさ
ちょこんと
座っている
気付けば
夜底に
座っている
私は寝床を整える
不眠の昨夜を払うように
新しいシーツで敷布団を包み
黄色い朝の喧騒に
心の奥処の祭壇が
荒らさ ....
遠い火をみつめている
どこにいても遥か彼方で
ゆらぐこともなく燃えている
あそこを目指していたはずなのだ
臍の下あたりで、眼球のうしろで
わたしのいつ果てるかわからない
火が求めている ....
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