庭に戦車が迷い込んだ
大切に育てていた薔薇が
すべて踏み潰されてしまった
若い兵士が出てきて
戦場の位置を訪ねたので
近所の公園を教えた
もう迷わないように
地図も書いて渡し ....
ひし形の歪んだ街に産まれて
時々、綿菓子の匂いを嗅いで育った
弱視だった母は
右手の生命線をなぞっている間に
左耳から発車する列車に
乗り遅れてしまった
毎日、どこかで ....
昔、秋田の実家を出て、仙台で暮らしはじめた時に、父が大切にしていたラジカセを、私にくれた。
私は、父のラジカセを、しばらく使っていたけれど、CDプレイヤーもついてなかったので、時代の流れ ....
弟のプリンを冷蔵庫から盗む。鳥の名前にやたら詳しい。血液型が気になる。勉強ができない。{引用=(世界の終わり)}
遅刻する。早退する。ブッチする。君に会いにいく。電車のドアが目の前で閉まる。{引 ....
ギムナジウムの罅割れた唇を
なぞる人差し指は青い血にまみれて
この細い裏路地の影のなかでわたしたちはやがて
交わさぬことの愛撫を識り零れていくのだろう
返される砂時計が凍えた額のうえに置かれ
....
きのうの激しい雨が
まだ宿る、濡れた土に
枯れた牙を埋める
擦りきれたビデオテープの
不安定な映像のように
きのうのきみは
鏡よりきつく
....
読みかけの本の
開いたページのすぐ横に
わたしを置き忘れてしまった
駅に着く頃
あ、しまったと気付くが
頭はどうしてもあの電車に乗りたがる
今日は座れた
昨日は座れなかったからね
....
花束と札束
どちらが欲しい?
私は札束
見たことがないから
幾らぐらいからなら
横に立つとか
縦に立つとか聞いたのだけど
ほんとかな
もし宝くじに当たったらどうしよう
十 ....
夏の日の宇宙の深さ星の数
冷房費払うつもりで夏カジノ
チョコアイスとけきってまだ愛されず
夏館ネコがいっぱい出るテレビ
八月を生きるしかない黒揚羽
炎帝を飲み込みサ ....
その
日没に名前はない
幾重にも
さまよう翼が
無効を告げられるだけ
次々と
帰されるだけ
名もなき標は
明々と燃えながら
あまりに
静謐で
無数の火の粉 ....
ぼくはひとりが好きだ
それとおなじくらい
ふたりが好きだ
それとおなじくらい
ぼくは喫茶店が好きだ
秋の香りまじる駅に着く
喫茶店にはいる
まだ夏の静かなトイレで
希望を鳴らして
....
何度目かの冬に
シリウスが描かれた
星たちはどれも
夜空の冷たい汗
三日月に触れる風光が
黄金色の鞘を象って
空をまっすぐに横切っている
羊たちのレム睡眠は
雨露といっしょに
裾野で ....
あたまのうえは
どこからそらに
なるだろう
あめふりぐもの
さかいめは
どのまちゆけば
みえるだろう
こたえはいつも
かぜのなか
つかめどもつかめども
てのひら ....
120811
マグロが好きだったが
いつもカジキマグロで誤魔化されていたようだ
たから本当はマグロが好きなのか
カジキマグロが好きなのか分か ....
成長した一つの細胞が
小さな二つの細胞に
分裂した
別れたあとには
なにも残っていない
細胞の
一つの影が
二つとなって
1+1=2
と表せる
見慣れた景色となる
小 ....
もちろん
お金や地位や金メダルや銅メダルで
人は幸せになるだろう
私は
もちろん私は世界にたった一人なのだからそういった意味で存在自体が金メダルみたいなものなんだろうとは思う思うけど理論で ....
会社の前に
クジラが打ち上げられていた
昨夜の雨の中を
泳いで来たのだろう
海に連れて行こうとしても
びくともしない
やがて専門の業者の人が来た
都会ではよくあるんですよ、
と ....
故郷の僕が糸電話で
「お元気ですか」と尋ねる
それから
口にあてていた紙コップを耳に、
耳にあてていた紙コップを口にあて直し
都会の僕が
「元気です」と答える
そんなことを
終 ....
最初から、少年も
少女もいなかった
ただ、名前すらない、
願いのようのものが二つ、
風の中で
寄り添っているだけだった
大人ってばかだね
大人ってばかだね
そんなことを
....
夜の駅、少年と少女は
ベンチに座っていた
この町を出たかった
手の中には僅かのお金
二人だけで生活するには
あまりに幼かった
それなのに小人料金では
もうどこにも行けない
....
  
 
父の隣の病床に
テレビが入院した
治すよりも
買い替える方が安いですよ
と医院長は言ったまま
ろくな治療もしない
翌朝テレビは死んだ
....
少年はカブトムシをつかまえた
兄が教えてくれた秘密の場所だった
早く少女に見せたくて走った
その頃、少女は黙祷をしていた
自分の汗が少し臭いと思った
生活というものは量であると
感じ始 ....
てきにたすけられ
みかたをまもる
てきも
たいへんなのだ
みかただった
ふるさとに
わがぐん
しろはたをふる
明日への扉なんてものは全部
閉ざされてしまえばいいんだ
性欲を喚起するだけの流行は
穢らわしくてもう耐えられぬ
と彼女は日付変更線上で叫ぶ
何も知らないままでいたくて
....
嫁いで どれくらいたった時からだろう
実家の両親が 他家の者として私に接し
夫の両親も 嫁として私と接した
血族でも 他家の者になった私は
実家の事には 深く口を出さず
それが お互いの ....
鉛筆で駅舎の絵を描く
沿線にある家の
縁側に弱い陽が差して
映画館の片隅では
液体をこぼした子どもが
延々と泣き続けている
エンドロールが流れ始め
遠近法で描かれた ....
ふりつもったばかりの
しろいゆきをほると
くろいつちがでてきた
そのつちをほると
こんどは
しろいほねがでてきた
しろいほねをほると
またくろいつちが
しろいほねが ....
ひものついた雪が
首の下で揺れる
残されているのに
しばられて
くずれていく 雑な音声
ふらついて
たてついて
鳴るはず も
ない すずやか
な 声
とぼとぼと夜をこぼしながら
中途半端に高いビルに挟まれた通りをあるいた
あなたに見つからないように
ぼくだけの空気を吸うために
やさしくなれるような気がしたのは気のせいか
....
あいたい
ゆきあいの空に
あさひのまえに 家を出た
やけに 赤い 朝日だった
ゆきあいの空は
季節が ゆきあう空だという
北に向けて クルマをはしらせれば そのうち ....
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